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May 11, 2005

ヴィジランテ馬鹿二代 カート・ビュシーク 『アストロシティ:コンフェッション』

みなさん大変です! 早くも第二回SGA屋漫画文化賞大賞最有力候補が決まってしまいました!(誰も注目しとらんつーに)
その作品の名は『アストロシティ:コンフェッション』。先々月紹介した『アストロシティ:ライフ・イン・ザ・ビッグシティ』の一応続編・・・・ですから当然アメコミです。そこ! スルーしない!
続編といってもこれ一作で十分な完成度です。
己の身も省みず、町のために医師として献身的に尽くして死んだ父。そんな父を町の人々は、「借金まみれの負け犬」と嘲った。「父の轍は踏まない。誰からも尊敬される人物になる」ことを胸に誓い、少年は旅立った。英雄達の住まう場所、“アストロシティ”へ。幸いにも少年はそこで一人の英雄、“コンフェッサー”に見出され、悪人達を狩る術を教わっていく。罪無き人々からは敬われ、悪党たちからは怖れられる申し分ない師、コンフェッサー。だが彼の体には、驚くべき秘密が隠されていた。
これは世代を越えて受け継がれる気高い精神の物語です。決して揺らぐ事のない魂と、揺れ動く若い心の葛藤を描いたドラマです。アメコミにおいて何度となく問われてきた、「本当の正義はあるのか?」「命を投げ打ってまで守るべきものは存在するのか?」というテーマに真っ向から挑んだ作品でもあります。
アメコミには「ヴィジランテ(Vigilante=自警団員)もの」あるいは「クライムファイターもの」というジャンルが存在します。スーパーマンが宇宙人や怪獣と戦っている一方で、警察の手に負えない犯罪者やギャングたちと地道に戦っている「夜の狩人」たちを描いたコミックをそう呼びます。代表的なタイトルは『デアデビル』『パニッシャー』など。そのものずばり『ヴィジランテ』なんていうヒーローもいましたが、この代表格はなんといっても『バットマン』。
しかしバットマンにはひとつの泣き所があります。それは人気がありすぎるゆえに「終る事ができない」ということです。ひょっとすると出版元のDCコミックスが潰れても、バットマンは生きのこるんじゃないかという。誕生して50年以上が経つというのに、未だに売上ベスト10に入ってしまうバットマンの勢いを見ると、そんな風に考えてしまいます。けれどそれだからこそ「オレが美しく終らせたい」と思う作家もいるみたいで、かつてフランク・ミラーが『ダークナイト・リターンズ』という作品で強引に最終回を描いたことがありました。
で、実はこの『コンフェッション』も、そんな俺的「バットマン最終回」のひとつなんです。大体黒ずくめでマントを羽織り、侍従を従えているコンフェッサーのデザインは、あからさまにコウモリ男を意識しているのが見え見えです。しかしカート・ビュシークはパロディであることを逆手にとって、パロディでしかできない名編を仕上げました。第1巻の馬鹿祭りはどこへ行った、というほどの格調高さです。
ひとつの戦いが終わり、蔑んでいた父の墓前に帰ってきた少年はこうつぶやきます。
「父さんはヒーローだった 人がなんと言おうとね」
この場面は、まちがいなくアメコミがまた一つの頂点に達した瞬間と言えるでしょう。そしてJIVEさんの、これまでの最高の仕事と言っても過言ではありません。 
で、値段はまたしても3400円(+税)。高いかって? いや、むしろ安いね! たぶん増刷がかかることはないでしょうから、買っておくなら今のうちッスよ!

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