日本の辺境で愛を叫ぶ 浅倉卓弥 『四日間の奇蹟』
ありがちタイトルですまんこってす。
第1回「このミステリーがすごい」大賞受賞作。
将来を嘱望されながら奇禍によりピアニストとしての生命を絶たれてしまった青年、如月敬輔。彼はその事故が縁で知的障害を持つ少女、千織と暮らすことになった。千織に並々ならぬピアノの才能を見出した敬輔は、複雑な思いを抱きつつ彼女と医療系の施設を慰問して回っていた。いつものようにして、とある施設を訪れた二人は、ある出会いと事故をきっかけにして、はかない奇蹟を経験することになる。
む~ん。この手の本は紹介するのがむずかしいです。なぜかってえと、ちょっと書いただけでネタバレになってしまうので。純然たるミステリーではないですけど、そいうい展開の妙で引っ張る構成は、確かにミステリー色が強いです。
テーマの一つは「精神はどこにあるのか?」という問題ですね。大抵の人は「脳にあるに決まってんじゃん」とおっしゃるでしょう。確かにそれが最も信憑性の高い説でございますが、それを科学的に証明するのって、専門家でもむずかしいもんらしいです。そう言えば夢野Q作先生は『ドグラ・マグラ』という作品で、「考えているのは細胞だ。現に微細な生物には脳など持っていないのに、ちゃんと活動している。我々の頭にあるこの臓器?は、実は密かに我々を操っているのだ」みたいなことを作中人物に言わせてました。ここまでいくとさすがに妄想ですけど、確かに精神=脳内の電気信号の集合体と決め付けてしまうには、不可解なことは多いようです。この本が凡百のロマンスと異なっているのは、一応そういう専門知識も踏まえて、精神と脳についてしっかり考察しているところですね。素人にもわかりやすく書かれているところが、また偉い。
で、もうひとつ辛かった点は、これ、大変みずみずしく、純粋なお話なんです。はっきり言って善人しか登場しません。ですが、もうオジサンの域に差し掛かっている人間としては、そのまっすぐな感性を十分にうけとめきれないんですね。いい話だな、とは思います。しかし涙を流すまでには至らない。恐らく十代のころに読んでいれば、もっと素直に感動できたんでないかと思います。残念。
しかしそんな汚れつちまつたおぢさんでも、浅倉氏の筆力には認めざるをえませんし、重要人物である岩倉真理子の造形のきめ細かさにはほとほと感服いたしました。まず読んでおいて損はない作品だと思います。
すでにご存知の方も多いかと思われますが、この小説、近日映画版が公開されます。いかにも純愛ブームにのっかって、という感じではありますが、映画がよく出来てればそれでいいんじゃないでしょうか。たぶん自分は観に行かないと思いますけど。
Comments
TBありがとうございました~v ものすごく久しぶりにブログを開きました、遅くなってごめんなさい(>_<)
私も落涙には至らなかった一人ですが、ホント一読の価値がある作品ですよね。映画では舞台が山から海に置き換えられているようなので、その点が何だか楽しみです♪
Posted by: angelparte | June 18, 2005 03:21 PM
お忙しいみたいですね。どうぞお体にお気をつけて、お仕事に励まれてください。
>映画では舞台が山から海に置き換えられているようなので
あの原作の夕暮れ時の山のイメージが気に入ってたんですけどねえ。もし観られたら感想読ませてください。
原作との変更点といえば、○○○○○ーの事故が映画では落雷になってるとか。『CASSHERN』ですか(笑)?
Posted by: SGA屋伍一 | June 18, 2005 09:53 PM