岡山少年野球団 あさのあつこ 『バッテリー』
今日は最近本好きの間でちょくちょく話題になっているこの本を。昔『バツ&テリー』という漫画がありましたが、たぶん関係ありません。もともと児童文学として刊行された本ですが、「あまりにも面白い」ということで大人の間でも人気に火が付いた異例の作品です。
第1巻では、岡山県境の新田に引っ越してきた13歳の天才ピッチャー・原田巧と、彼にほれ込んだキャッチャーの永倉豪の出会いが語られます。出会いが語られる、と描きましたが、本当にそれだけの話。試合の場面もないし、恋愛模様もない。主人公が劇的に成長するわけでもありません。起承転結になれた身としては少々面食らいました。そのかわり少年達の心理描写が非常にていねいに描かれています。
わたしがなんとなく思い出したのは、マイベスト野球漫画である、ちばあきおの『キャプテン』。あの漫画も野球に情熱を傾ける少年達の心理がとても細かく描写されていました。練習に熱を入れすぎて負傷者を出してしまったことが問題になり、泣く泣く大会出場を諦めるという、今では考えられないような展開もありました。
ただ、やはり『キャプテン』はどっからどう見ても「野球漫画」です。野球を切り離しては成立し得ない作品なんですね。それに対してこの『バッテリー』は作者がたまたま素材として選んだのが野球だった、という印象を受けます。
この作品が書かれた当時、巷では少年の手による傷害事件が相次ぎ、「切れる14歳」なんて言葉がよく使われました。この本の主人公・原田巧は暴れてナイフを振り回したりはしませんが、やはり心のどこかに熱く、危うい怒りを秘めた少年です。本書はそうした少年達の心を懸命に探り、考えた作者のレポートのような趣があります。
やはり『キャプテン』の愛読者だった作家の重松清氏も、『エイジ』という作品で同様の試みをしています。ひょんなことから傷害の疑いをかけられた主人公エイジ。疑いが晴れ、迎えに来た父親はエイジに、「お前がそんなことをする子じゃないって信じていた」といいます。しかしエイジはその言葉に対し胸の内で「ぼくは仮に『そんなこと』をしたとしても信じて欲しい」とつぶやきます(この辺細部ちがうかも。ご容赦)。
悪いのは周囲で少年は悪くない、と考えるのはもちろん間違いです。しかし「異常だから」「性格に問題があるから」と決め付けて、彼らの心を探ることをしないのであれば、事態はすこしもよくならないでしょう。
そうして一生懸命考えて出した答が、果たして真実かどうか、確かめるのも非常に難しいことです。しかしそれでも我々は考え続けなければいけない、と本書を読了して思いました。
『バッテリー』は児童書版(教育画劇刊)がこないだ全6巻で完結。文庫版は角川書店より3巻までが刊行中。とりあえず続きも読んでみようと思います。
Comments
レビューありがとうございます。
うーん、読むかどうかは……。
夏休みあたりに図書館で借りてくるかな。
夏といえば、野球の季節ですから。
Posted by: kakakai | May 16, 2005 01:17 PM
みずみずしい少年たちのドラマが好きな方であれば、まず楽しめることと思います。
あと、もともと児童文学としてかかれた作品なので、すごく読みやすいです。わたしは二日ほどで読了しました。もっと味わって読めばよかったかも。
>夏といえば、野球の季節ですから。
甲子園の中継を聞きながら読むと、確かに雰囲気出るような気がします。
Posted by: SGA屋伍一 | May 16, 2005 09:12 PM