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April 11, 2005

秘密のアツコさん 福井晴敏 『終戦のローレライ』

よしっ! まだ公開終ってないな!
前から予告していた『ローレライ』。まず小説版を紹介いたします。
1945年7月。既に日本の戦況はとうに限界にまで追い込まれ、全面降伏も時間の問題と思われた。
そんな折、ある事件で左遷され、いまは士官学校で教鞭をとっている絹見真一に、軍令部大佐の浅倉より特別な指令がくだる。こちらへ亡命してきたドイツ軍潜水艦が、途中でやむなくファージしてきたある物体を回収せよ、というもの。作戦に選ばれたメンバーは、その潜水艦のクルーだったドイツ将校フリッツ、地獄の南方より帰還した兵曹長・田口、特殊な技量を持つ少年兵・折笠など。よせあつめのメンバーで全貌を知らされぬまま、絹見は米軍の敵艦が待ち受ける海域へ向かう。しかしそれは「国家としての切腹」を断行しようと企む、浅倉の不敵な計画の第一段階にすぎなかった。・・・というのが序盤のあらすじ。

文庫にして4分冊。まんず大したボリュームです。自分が最近読んだなかでは、もっとも長い小説です。
福井氏はこれまでに、現代を舞台とした謀略軍事アクションを三作発表しておられますが、そのいずれもが「疲れた中年とひねくれた少年がコンビを組み、謎の美少女に絡む国家的陰謀に立ち向う」という体裁をとっています。
この作品でもそのスタイルはおおむね踏襲されていますが、このボリュームのゆえか、今回は「疲れた中年」に相当するキャラ(一人は若いですけど)が三人もいるという大サービス。また、第二次大戦中という時代背景のため、「少年」の役に当たる主人公、折笠征人もそんなにひねくれてはいません。

感心するのは、本当にまあ一人一人のキャラに、丁寧な背景が用意されているところ。冒頭で主役の潜水艦と対峙する新米兵から、1パートに登場する憎たらしい悪役にまで。ここで『スラムダンク』を思い出してください。あのマンガでは、試合が盛り上がっている最中に、「脇役」としかいいようのないキャラに突然スポットがあたり、その過去がえんえんと語られだすことがよくありました。ちょうどあんな感じです。普通これをやりすぎると最近の浦沢直樹のように、話がどこに向かっているのかわからなくなってしまうのですが、この『終戦のローレライ』では物語の本流がはっきりしているために、読者が混乱することはないと思います。
そうした「脇役の背景」というものは、別に作品にとっては全てが不可欠なわけではないのですが、考えてみれば現実には生まれながらの「主役」「脇役」というものは存在しません。強いていうなら全ての人がそれぞれの人生おいて「主役」に相当するわけで。『終戦のローレライ』もフィクションであるがゆえに限界はありますが、それぞれに備えられた細かい設定は、そんなことを思い出させます。

もう一つ強く感じたのは、福井ちゃんはつくづく「トミノの子」なんだなあ、ということ。ここでいう「トミノ」とは、もちろん『ガ○ダム』で知られるアニメ作家、富野由悠季氏のことです。
メッセージ性と娯楽性は、本来相性があまりよくないものです。メッセージ性が目立つと、読者としては説教させられている気分になり、興ざめします。そのメッセージが付いて行き難いもの、とんがったものならなおさらです。
で、『終戦のローレライ』はどっちかっていうと、そういう部類の作品なんですね(笑)。なんせテーマの一つが日本国民最大のトラウマである「第二次大戦をどうとらえるか」ですから。そういう主張を真剣に受け止めようとすると、クライマックスの主役メカ伊507によるサービス満天、迫力満点の大バトルも、「おれ、こんなんにワクワクしちゃってもいいんだろうか」と思ってしまう自分がいます。恐らく芸達者な福井氏にはそうしたことは十分にわかっているはず。でも書かずにはいられない。そんなところが福井氏と富野氏は大変よく似ています。そしてひっかかりを感じながらも、その豪腕ストーリーテーリングにひきずられて、わたしたちはついついペ-ジを繰る手が止まらなくなってしまうのです。

さて、『ターンA○ンダム』のノベライズも手がけていて、自ら『ガン○ム』ファンであることを公言している福井氏。実質の処女作である『川の深さは』では『ガンダ○W』のセリフを堂々と流用する、という不敵なことをやっていますが、『終戦のローレライ』でもどうも『○ンダムX』から取ったのではないか、というアイデアがあります。それにしても自分も『X』とかよく観てるよなあ(笑)。
次次項では先に原作を読んだ立場から、映画『ローレライ』を語ってみたいと思います。

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Comments

こんばんはSAG851さん

私はまだ『終戦のローレライ』読み終えていません(^^;;;;;
ですから、本来、この記事にコメントつけられないのですけど、ひとつだけ、読んでいる途中でも言えることがあります。

>もう一つ強く感じたのは、福井ちゃんはつくづく「トミノの子」なんだなあ、ということ。

私も、つくづくそれを感じながら『終戦のローレライ』読んでいるところです。
福井晴敏さんは、本当に富野ファンであるうえに、富野さんの作品をよく細かいところまで分析的に読みこなしているんだなぁ~と感心してしまいます。

BSマンガ夜話で、ファーストガンダムを取り上げたとき、福井さんがゲスト出演なさっていたけど、そのときの彼の発言って、人が見逃してしまいそうなところまで気が付く鋭さがあって、
どっぷり富野教に嵌ってしまっているファンではなく、一歩距離をおいて冷静に富野作品を見つめているファンなんだなと、そのとき思いました。
客観且つ冷静で自分を見失わずに富野作品ファンでいるのが福井さんのスタンス(。

それとは対照的なファンのあり方として挙げられるのが、庵野ファンの滝本竜彦氏。

○○のファン、というとき、ファンにもいろんなスタンスがあるのだなと。。。

って、話がずれちゃってすみませんでしたm(__)m

Posted by: a_bee | April 17, 2005 at 07:39 PM

どうもです、a_beeさま
慌てて原作読んじゃったけど、映画まだのんびりやっているみたいなので、もう少しじっくり味わえばよかったと思っています。

>もう一つ強く感じたのは、福井ちゃんはつくづく「トミノの子」なんだなあ、ということ。

a_beeさまもそう思われますか。アニメ夜話では熱く語ってましたねえ。
ただ富野監督が自分の作品に対し内省的(よく「こんなダメなもの作っちゃった」とか言いますよね)なのにくらべ、福井氏はわりかし自作に愛着をもっているような印象を受けます。

>どっぷり富野教に嵌ってしまっているファンではなく

確かに。でなければ、SEEDやWまで受容したりはしないでしょうね(笑)

そういえば映画でトミーとアンディがどこに出てたのかよくわかりませんでした。

Posted by: SGA屋伍一  | April 17, 2005 at 10:39 PM

>富野監督が自分の作品に対し内省的(よく「こんなダメなもの作っちゃった」とか言いますよね)

それは、富野さんの性格から来ているものだと思われます(^^;;
以前、私は自分のブログ上で、「最初は癇に障った“富野アニメ”」
http://light-otaku.cocolog-nifty.com/fuga/2004/12/post_8.html
というタイトルで記事を書いたことあるのですが、富野さんに対して、自分が同属嫌悪を感じるほど、考え方や性格が富野さんに似たところあるようです(^^;

SEED(DESTINYも含む)は何か違うんじゃないか?と受け入れ難い自分がおります(^^;
(富野節からは外れてしまってますもの)

SAG851さんは、Wがお好きなようでいらっしゃいますが、自分は見ていないのでよく分かりませんm(__)m
(それだけでなくガンダム関連作品は全てを制覇しているわけでなく…(^^;)

今は、5月に劇場公開されるZに期待して待ってるところです。

>そういえば映画でトミーとアンディがどこに出てたのかよくわかりませんでした。

私もです(^^;;
DVD発売されたら、それをチェックするためにも買わにゃーならんのでしょうかねぇ・・・(^^;

Posted by: a_bee | April 18, 2005 at 02:18 AM

>富野監督
わたしもそんなに熱心なファンというわけでは。ただ『ザンボット3』や『海のトリトン』(実は小説でよんだ)のラストは幼心に鮮烈な印象を残しました。
『ガンダム』第1作は幼少時、中学、大学と3回みてやっとこおおむね理解できたという感じです。
『ダンバイン』『Z』『V』『ターンA』などは最初の1クールは興奮して観てたのですが、2クール、3クールとなるにつれ段々息切れしてしまうのが辛いとこです。

>W,SEED
『W』は『セーラームーン』や『Gガンダム』などがもてはやされていて悶々としていたころ、久々にきた硬派なリアルロボットものだった(あ、『V』もあったか)ので、特に思い入れが深いんですね。ただこれも後半に入るとトーンダウンしてしまい、あまりおすすめできません。『SEED』も色々と問題点の多い作品ではありますが、「第1作の面白さが“極限状況”を描いているところにあった」点を再認識させたところや、多くの作品が「身内を守る為なら殺してもいい」というところで思考が止まっているのに対し、そこから一歩先を考えている点は評価しています。

Posted by: SGA屋伍一  | April 18, 2005 at 08:04 AM

SGA屋伍一さん、おはよっ♪
>「疲れた中年とひねくれた少年がコンビを組み、謎の美少女に絡む国家的陰謀に立ち向う」
これ、そっくり『亡国のイージス』ですね。なるほど、福井さんはこのパターンがお好きなのかぁ。私も好き♪

メッセージ性について。
>、「おれ、こんなんにワクワクしちゃってもいいんだろうか」と思ってしまう自分がいます。
うんうん、そうなんです。
この方のメッセージは、それはどうなの???と感じてしまうものだし、世論がこういう方向に傾くのはコワイな~と思うたぐいのものなのですが、作品自体はおもしろくって、楽しんでしまい、軽~く自己矛盾。
ま、お話だし、おもしろかったらそれでヨシ!というところで落ち着くんだけどね(*^_^*)
『終戦のローレライ』やっぱりおもしろそうだな~。4冊組にめげずに読んでみようかな~と、今、気持ちが傾いています(笑)

Posted by: そら | September 04, 2006 at 08:57 AM

そらさん、こんちはっす
>福井さんはこのパターンがお好きなのかぁ。
そうみたいです。最新作『O.P.ローズダスト』はどうなんだかまだ確認してませんけど。福井さんは「少年」と「中年」の中間くらいの年齢だったかな?

>この方のメッセージは、それはどうなの???と感じてしまうものだし
「日本にもちゃんとした軍隊を!」ってな主張ですしね・・・ でもあんまり突き上げがあったとか聞きませんね
わたしも矛盾するようですが、本当に「娯楽100%」という作品も読んでいて物足りないんですよね。相性の良くないふたつを上手に組み合わせているものがベストかと。『ローレライ』『亡国のイージス』は力業で押し切られたという感じでしょうか(笑)
そんなわけで『ローレライ』も面白いですよ。最初の一巻を乗り越えれば、あとはスラスラ行けると思うんですが

Posted by: SGA屋伍一 | September 04, 2006 at 01:34 PM

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