ドラゴン・ファンタジーⅡ 島田荘司 『龍臥亭幻想』
というわけで昨日の続きです。コテコテなタイトルが付いてますけど、これ推理小説のレビューです。
あの惨劇から八年。再び龍臥亭を訪れた石岡とその他の面々。そこで石岡は、この地で「津山三十人殺し」よりもさらに前に、もう一つの陰惨な出来事があったことを知る。折りしも近隣では衆人環視の中、巫女が忽然と姿を消したという事件が起きていた。加えて山村に伝わる忌まわしき因習・・・ 旧日本陸軍の猟奇的な実験・・・ それらが深く絡み合ったとき、龍臥亭は新たな怪異に見舞われることになった。
下巻表紙には「御手洗潔と吉敷竹史!」とデカデカと書いてあり、否が応でも二人の名探偵の推理合戦を期待してしまいます。けれど、こういうアオリというのはスポーツ新聞の見出しと一緒で、信憑性はいいとこ4割くらい。それでも買わずにはいられないのが、ファンの悲しい性です。
さて、島田先生が以前から提唱しているものに「本格ミステリー論」というものがあります。彼が言うには、「本格推理」と「本格ミステリー」は違うものなんだそうで。
例えば土曜ワイド劇場なんかで血を流した死体が出てくれば、誰だって「人間が殺した」と思いますよね。それが普通の反応です。しかるに「本格ミステリー」はそうではないと。まず最初におどろおどろしい民話か怪談が語られます。その後それを再現したかのような事件が起きる。みんな「もしかしたらマジでお化けの仕業かも」と思ってしまうわけです。「たーたーりーじゃー」というアレですね。そこで終ればホラーかファンタジーなんですけど、「ミステリー」と付いているので、謎はちゃんと論理的に解明されるわけです。
言うなれば、最初から幻想性を廃し、論理性だけを突き詰めたものが「本格推理」。最初は幻想性を強調し、最後は論理で整合性をとるものが「本格ミステリー」と、こんなとこでしょうか。
で、この『龍臥亭幻想』、やはり御手洗シリーズと吉敷シリーズの中継点のような位置付けになるわけですが、前作にあった社会派風味は最小限にとどめられ、氏の言う「本格ミステリー」の王道を行くような作品となっています。真相は多少強引ではありますが、「バラバラの状態からつなぎ合わされた死体がひとりでに歩き出す」という謎をなんとか現実的に解き明かす過程は、まあ及第点にいっているのではないかと。
この作品でわたしがうれしかったのは「吉敷竹史健在なり」ということがわかった点。この吉敷という男、
ひらめきももっているけれど、御手洗よりも努力を重視するタイプ。また、世の矛盾を見過ごせない損な性分のため、この前の『涙流れるままに』では警察をやめるやめないの大喧嘩をやらかしてしまいます。そんなわけでそのまま吉敷シリーズが終ってもおかしくない雰囲気だったのですが、まだ続きそうということがわかってホッと一息というところです。
一方われらが石岡和己氏。前回はみごと事件を解決に導きましたが今回は・・・・・ ・・・・・ まあ、謎はちゃんと明らかになるのでご安心を。
さんざ待たせたわりにこの程度です。高野せんせえ、申し訳ない。
ファンとしてはまた御手洗と石岡のコンビの活躍がみたいですねえ。石岡君もずっと帰りを待っているだろうし。でも奴さんが帰ってきたら、ヒロインがあっちになびいてしまうのは火を見るよりあきらか。
Comments
こんばんは。しぇんしぇ~なんてもったいない。
この作品、導入部もよかったし、ラストのトリックも、私はこういうの好きですね。
でも、「推理が交錯」…はしてないだろという感じ(笑)
>でも奴さんが帰ってきたら、ヒロインがあっちになびいてしまうのは火を見るよりあきらか。
いいのあの女サイテーだから石岡君には合わなくってよ!!
どうして、あの人ほどの人にして、女性キャラはこうもありえねーのだろう…
Posted by: 高野正宗 | April 07, 2005 08:54 PM
>いいのあの女サイテーだから石岡君には合わなくってよ!!
ははは、言うと思った
でもボクは里美ちゃん好きだな(キャッ 恥ずかしい♪)
二周りくらい年下の娘に「恋人ができたかどうか」ドキドキする石岡氏は情けないなあ。でもそんなところがまた親近感(苦笑)
Posted by: SGA屋伍一 | April 08, 2005 08:07 AM