今ごろ『新選組!』番外編② 司馬遼太郎 『新選組血風録』
というわけで『血風録』です。もう一つの“司馬版新選組”ですね。
長編小説だった『燃えよ剣』とは異なり、こちらは様々な隊士の列伝というか、短編集です。時系列がまるでバラバラに収められているので、新選組の歴史をおおまかに振り返ってみてからトライされるのがよろしいでしょう。
他にも違う点をあげるとするなら、登場人物に対する距離感でしょうか。『燃えよ剣』では読んでいて土方に対する愛情がひしひしと感じられるのですが、こちらでは各編の主人公に対して「ちょっと冷たいんじゃ」と思ったとが何度かありました。あんまし言うとネタバレになりますが、「・・・・・は死んだ」とあって、余韻をもたせることもなくすぐ終ってしまう。読者の感傷を拒絶しているような感さえあります。やはり司馬氏の手による短編集『幕末』もそんなテイストでした。
新選組の特長の一つにいわゆる「血の粛清」があります。退けば切腹、進めば斬り死にというあまりにも過酷な環境。本書では「血風録」とあるように、新選組の持つ、そんな血生臭い一面がよく現れています。また、どこに裏切り者がわからないという緊迫感も常にあります。ハンパな私立探偵が裸足で逃げ出すくらい、ハードボイルドな世界なんですね。
例えば「弥兵衛奮迅」というエピソードに出てくる富山弥兵衛の生涯は、固ゆで卵どころか、重金属なみにハードです。事実は時として、フィクションを軽く越えてしまうということを実感させられます。本当にこんな人がいたんだなあ、と。
そんな中にあっても、たまにひょうひょうとしたユーモアが漂っているのが多少救いになっています。やけに念入りにモチを焼いている土方とかね(笑)。くれるのかと思って手を差し出す山崎にむかって、「あげない」と言うとこがまた笑えます。
本書で目立っているのは、この二人の他にやはりというか、沖田総司。だけどこの沖田が、かなりヘンな奴なんです。芹沢排除決定のしらせを聞いたとき、「えー。芹沢さんかわいそう」と言ったすぐあとで、「でも最初の一撃はぼくがやりたい!」とぬかす。後半に入るとやや持ち直しますが、こんな変人に、よくあれだけ熱心なファンが付いたなあ、と思わずにはいられません。初期のドラマで沖田を演じた島田順司さんの功績でしょうか。
他にも近藤はもちろん、原田、永倉、斎藤、源さんがメインのエピソードもあります。観柳斎の話もありました。司馬先生と三谷さんでは、「へタレ」の扱いに大きな差があることがよくわかりました。
個人的には先にあげた「弥兵衛奮迅」と、山崎の皮肉な出自が描かれた「池田屋異聞」、近藤と沖田、それぞれの佩刀にまつわる物語「虎徹」「菊一文字」の4編が、とくに印象に残りました。
仮に幕末に生まれたとしても、絶対に新選組だけには入るまい・・・・そんな思いをいっそう強くさせられました。別項でも書きましたけど、夢を追うということは、本当に狂気と紙一重なんですねえ。

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