モンスター・クリスト伯 A・デュマ 前田真宏 『巌窟王』
少し前に終了した深夜アニメでございます。
原作は誰しも耳にしたことがあるであろう、アレクサンデル・デュマの大衆小説。それを近未来に置き換えての映像化です。本当は監督の前田氏は、やはり名作と言われるA・ベスターのSF小説『虎よ、虎よ』をやりたかったそうなんですが、こちらは著作権などの問題で許可をとるのがむずかしく、『虎よ、虎よ』のさらに原案と言われるこの古典を選んだとのこと。
時代背景だけでなく、前田氏は原典にさらにひとひねりを加えています。原典は主人公・エドモン・ダンテスが親友に騙されて無実の罪で流刑にされ、いろいろあって金と力を得て、名を変えて復讐のために戻ってくるという、非常にオーソドックスでスカッとする復讐譚であります。けれど今回前田氏は、エドモンがパリにもどってくるまでの流れを大胆にカット。謎の人物モンテ・クリスト伯がパリの有力者の息子、アルベールと出会うところから物語は始まります。で、本作ではエドモンにとっての元恋人と宿敵の息子である、このアルベールくんが主人公となっています。まことにカッコよく金もあるモンテ・クリスト伯爵にどんどん惹かれ、崇拝に近い気持ちをいだくようになるアルベール。しかしやがて彼の真の目的を知ったとき・・・・・というのが前半のおおまかな流れ。そんな多感な青年の愛と裏切りがえんえんと描かれてまして、どちらかというと復讐のもたらす苦い面の方が強調されています。
この作品でまず目をひくのは、キャラに貼られた「テクスチャ」っていうんですか? 髪や服がガラスのように透けていまして、人物が動いてもその裏の模様は動かないという、ちょっと前衛的な手法。そうした演出は近未来というより、なんだか70年代のラブ&ピースでサイケデリックなアートを思い起こさせます。
そしてもう一つ気になるのは、おフランスが舞台のせいなんでしょうか。あからさまな描写はないものの、かなり濃厚なホモ臭さが漂っているんです。みなもと太郎版の、バカ丸出しのアルベールを知っている身としては失笑を禁じえないのですが、「伯爵とはなれたくない!」とモンテ・クリストにすがりつく彼、それをイライラしながら見守り、なんとか伯爵の足元を救おうとする親友のフランツ―という構図はちょっとげんなりします。
しかしこのフランツ、自分の思いは決して口に出さず、愛するアルベールのために命さえも投げ出そうとします。その純粋さは、ホモながらまことに天晴れ。
また、復讐のために全てを捨てたはずなのに、親友と恋人、両方の面影を宿す青年に、いつしか愛情をおぼえてしまう伯爵の煩悶も、このアニメの見所のひとつといえるでしょう。
萌え系アニメが幅をきかすなかで、こういう人間関係のヒダヒダを丁寧に描く姿勢には好感がもてます。監督は往年の出崎統作品なんかも念頭においていたそうなんで、『宝島』『ベルばら』が好きな方は気にいられると思います。そう言えば、伯爵とアルベールの関係は、『宝島』のシルバーとジム少年のそれに少し似ています。
マンガ版も『アフターヌーン』誌にて連載中。復讐はやっぱりイクナイ!、ということで。
Comments
レンタルで一話二話見ましたが、イヤー
面白かったですねー。続き見ます。
前田真宏だったと思います。ラピュタにも
参加しています。
このブログの続きも書きたいです。
Posted by: 犬塚志乃 | April 24, 2005 10:15 PM
前半がちょっとタルいかもしれませんが、がんばって観てください。後半の疾走感はなかなかみごとです。お洒落なパワードスーツもいいです。
>前田真宏だったと思います
失礼しました(汗) こんなオトナ・・・、修正されてやる!
>このブログの続きも書きたいです
ちょっと厳しいかも・・・ ビデオ全部とっとけばよかったなあ。
Posted by: SGA屋伍一 | April 25, 2005 08:37 AM
ゴンゾはバジリスクとかラストエグザイルなど、映像や世界観
はすごいけど、展開がやや暗く、あとで思い返すと微妙な評価
な作品が多い気がするのはどうしてでしょうか?
どれも最初はすごい、と思うのですが。だんだんボルテージが
下がっていくような。
ガラスの艦隊も評価が微妙、な意見が何故か多いような、、、。
Posted by: 犬塚志乃 | June 07, 2006 05:09 PM
確かに後半失速系の作品多いかな。最近はGONZOさんもいろいろご商売を広げておられるので、全部はおっかけきれてないですけど。
『巌窟王』はわりかし盛り上がった方だと思います。
GONZOさんはよそがやらないような独自の企画を立ち上げてくるところが好きですね。んなわけで、今シーズンも『SAMURAI7』と『ウィッチブレイド』をチェック中。
Posted by: SGA屋伍一 | June 07, 2006 08:21 PM