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March 11, 2005

注・へレン・ケラーとは関係ありません 真保裕一 『奇跡の人』 虚構編

うーん。この本は紹介するのがむずかしい。なぜかってーと、この作品が何年か前に発表されたとき、ある評論家がかなりネタをわった書評を書いてしまい、大々ひんしゅくをかったことがあったからだ(しかもそのあと開き直ったような発言をしたことが、さらにひんしゅくをかった)。
そんなわけでなるたけ慎重に行きたいものだが、なにせ天性の地雷ステッパー、あんまり自信がありません。でもとりあえずがんばっていきたいと思います。
自分が読んだのはハードカバーだったが、現在は新潮文庫版が手に入りやすい様子。真保裕一というと『ホワイトアウト』が有名だが、わたしはこの作品の方が好き。『ホワイト』も良いけれど。

物語は瀕死の重傷をおった我が子を懸命に介護する母親の手記から始まる。この辺が真保氏の筆達者なところだが、このお母さんの献身ぶりが真に迫った筆致で描かれていて、ついジンと来てしまう。
そんな努力の甲斐あって、すっかり記憶は失われたものの、青年はなんとか普通の状態まで回復する。しかしそこで気がぬけてしまったのか、母親はあっけなく死んでしまう。
悲しみの中、強く生きようと誓う青年。そして彼を暖かく見守る周囲の人々。
この周囲のひとたち・・・ご近所さんやお医者さん・・・が本当にやさしくて、いちいち泣ける。
また、主人公は赤ん坊からいったん人生をやりなおしているため、ナリは30でも、ココロは純真な十代の少年
なのだ。だからモノにたいする見方や感じ方がとても素直で、読んでいて大変微笑ましい。
さて、なんとか生活のメドがついたある日、主人公は母親の手記を読んでいて、ある疑念を抱く。もしかすると母は、自分の過去について何か隠していたのかもしれない。疑念はどんどん膨らんでいき、青年は激しい不安にかられる。そして青年は自分の過去に何があったのか? なぜ自分は重傷をおったのか? その答えを見つけるための旅に出る。

作者は以前インタビューで、「いままでの記憶喪失ものに対して、ある疑問があった」と語っていた。記憶を失っていた人々は、物語の終盤、たいていサーッと目がさめるようにそれを取り戻す。しかし不慮の事故で脳の一部をうしなってしまったとしたら、そこにあった記憶ははたして取り戻せるだろうか。
・・・・・・あー、なんかもういい加減ネタをわっている気がするが。あんな前口上を言った後で本当に気がひけるのだが。すいません! ぶっちゃけちゃいます!
この話、最後まで彼に記憶がよみがえることはありません!
それで果たしてカタルシスが得られるのか、疑問に思われる方も多々おられることだろう。「読んでよかった」と思えるかどうかは諸氏の判断にゆだねるしかないが、わたしは本当に「出会えてよかった」と思えた。

さて、先に紹介した『ボーン』シリーズもそうだが、フィクションの世界においては「記憶喪失」は本当によくあることだ。しかし実際、本当に記憶を失ったという人に、みなさんは会ったことがあるだろうか。軽い記憶障害といった程度のものではなく、自分の名前から何から全て忘れてしまった人。
実はわたしも会ったことはない。だが昨年、友人が実際にそういう人に会い、なかなか大変な経験をした。「実録編」ではその話について語ります。

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Comments

ああっ!これ!読んだのに!
めちゃめちゃ感動したことしか憶えてない!!
本当に「奇蹟の人」だったよ!
ついでに、同名のドラマの原作だけど、ドラマは全然違う話だったよ!

Posted by: 高野正宗 | March 11, 2005 11:18 PM

あ~、ありましたね~。ドラマ。
初回の5分くらいしか観ませんでした。山崎まさよしはけっこうイメージにあってたんだけど、原作にいない松下由樹が重要な役というあたりで「なんだかな~」と。この長さの話をワンクールドラマでやると、やはりけっこう色々肉付けしなきゃならないわけで、原作の無駄の無さが気に入っているわたしとしては、「もういいや」と。
『ホワイトアウト』なんかは映画よく出来てましたね。つっこみどころもありましたが。そういや芹沢鴨が不潔そうな頭で出てたなあ。

Posted by: SGA屋伍一 | March 12, 2005 09:24 AM

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