カラスと不死鳥(弟) リドリー・スコット 『グラディエーター』
昨日地上波でやっていたので。
あー、わたしね、これ大好きなんですよ。皇太子の嫉妬を買い、全てを奪われた剣闘士マキシマスの復讐の物語。
弟は「これって『ブレイブハート』のパクリじゃん」っていってましたけど、だからいいんじゃねえか! じゃなくて、『ブレイブ』は将たる人物の大義の話という印象ですが、こちらは個人的怒りが主題となっている気がします。
監督はリドリー・スコット。『エイリアン』『ハンニバル』といった残酷系の、感情の入る余地のない作風で知られていますが、今作は何を思ったか男節大全開。ラッセル・クロウ演じるマッキーの涙に泣き、雄たけびに燃える二時間です。だけどボンクラとしては、ホアキン・フェニックスのバカ皇帝の気持ちもなんとなくわかるんですよね。あー、どっちも可哀相、みたいな二律背反に苦しめられます。やはりそもそもの元凶はじっちゃん皇帝のケア不足にあったんでは、と思います。
泣き所は町山智人氏が言っていたように、対戦相手がだんだんしょぼくなってしまうところ。「ラスボスがスライムのドラクエみたいじゃねえか」とありましたが、そりゃあんまりだよ・・・ と思いつつも納得。最後ドラゴンかなんかに乗って戦えばよかったんですよ。ホアキンは。しかし全体からみればそんなことは大したキズじゃございません。
興味深かったのは最高権力者の皇帝といえど、「民衆の人気」を気にしなければやっていけない、という点。どこの国家にも言えることかもしれませんが、ことローマはそういう傾向が顕著だったようですね。
好きなところを挙げていったら、もうキリがありません。早回しとスローを巧に取り入れたアクション。ハッタリの利いた衣装やヨロイ。ジュバにプロキシモにキケロにイノキに・・・・・・全員好きです。
あとこの作品のもう一つの主役ともいえるコロッセウム。「ひとが作ったものとは」というセリフがありましたが、やはりデカイ。現在の競技場にはない荘厳な雰囲気が、さながら異世界の物語のような錯覚を覚えさせます。
そしてクライマックスのひとつひとつ。「そうだろ、兄弟!」と悲しみをぶつけるコンモドゥス。お互いヨレヨレになりながらの死闘。決着のあと、畑の向こうで待っている妻子の元に向かう主人公・・・
ラストシーン、人のいないコロッセウムで友に思いを馳せつつ、遺品を埋めるジュバ。「いずれまた会おう。だが、今は・・・」 なんつーかね、もう問答無用です(この文章あとで読んで恥ずかしくなりそうだな・・・)。
さて、昨年だったか『グラディエーター2』が作られるという噂をきいたんですが、その企画が二転三転して、今度やる『キングダム・オブ・ヘブン』になったのでしょうか。タイトル『クルセイダー』でもよかったんじゃないの? まあ、期待です。
Comments
こんにちは。
SGA851様はどちらかといえば軽妙洒脱、機知に富んだ作風と存じ上げておりますが、今回はアツいですね。士、別れて三日(三日も別れてない)剋目して相対すべし。
…で。いきなりこのアツい人間ドラマに水を景気よくぶっかけるようでナンですが。
「ローマは職業軍人制なので、普段は農民である将軍というのはありえない」
という相方のツッコミをご用意させて頂きました(笑)←ここがまず映画としての泣かせポイントなのに、容赦のない奴…
ともあれ、私も映画館で観た時はラストで不覚にも泣きましたね。…今はDVDで見直すと、「ね~ちゃんの衣装がコロコロ変わって豪気やね~」としか思えずですみませんが(密林でもそのようにレビューしていたりする)。細かいことにこだわっちゃいけないんですね。第一印象はとにかく泣けました。
私としてはもうデレク・ジャコビが見られただけでも幸せ。
でも、このDVD、特典が豪華なんですよ。必見。
物語に戻ると、軍人制度も含めた思い切り「ありえねえ」設定でまず息子が父(名優リチャード・ハリス)をブチ殺し…といいつつも、意外に史実も織り交ぜつつ。あの哲人皇帝は五賢帝のラストで、それまでは息子ではなく有能な養子を迎えて5人名君が続いてきた、その終わりという意味ではうまい設定でした。名君と呼ばれた男が最後の詰めを誤って国家を危機にさらす…
私もあのおばかちん息子好きですね。役者も好きで(横浜の佐々木に似てませんか?)。次に出た作品、ジェフリー・ラッシュがカサノヴァ役を演じた「クイルズ」ではカタブツ神父。
TVをつけたらちょうどやっていたのが、コンモドゥスがローマに戻り、パンとサーカスで民衆の人気を煽って、元老院が、政治の中心がコロッセオに移った、と苦々しく思っているところでした。でも人気と政治力、両方なきゃだめなのもほんとよ、陛下~。
お姉さんとちょっと境界を越えそうな感じは、実の姉(妹?)と相姦関係にあったという暴君カリギュラ帝も入っているんでしょうね。
アツく燃えるのがお好きなら、デレク・ジャコビが語り手、イアン・ホルム(若い)が将軍役で登場する、ケネス・ブラナー主演「ヘンリー五世」は外せません。これ、犬塚様もお好きだったはず。いやー、アツいですぜ!
リチャード・ハリス(ものすごく若い)主演のミュージカル大作「キャメロット」はアーサー王の物語。王妃はヴァネッサ・レッドグレープ。そんなに熱くないですが、色々と貴重です。こないだの映画よかよっぽどいいような。
…なわけで、今はちょっと醒めちゃってますが、実はこの映画を見た後、俄に私の中に「古代ローマブーム」が起こり、まとめて(一般書ですが)ローマの歴史の本を読んだのを思い出します。こんなことばっかりやってますね。
あの時代がご専門で、映画のプログラムにも文章を書かれている本村凌二先生(最近「ローマ皇帝最期の都ソンマ」にも出てらしたりNスペのローマ帝国の監修とかブレイク中)の本とか。特に『ポンペイ・エロチカ』は、ポンペイの廃墟に残る卑猥なものも多い落書から当時の世相を読み、グラディエーター制度についても述べられています。
相方もローマやカエサル大好き男だし。
ペトロニウスの『サテュリコン』なんかはSGA851様が苦手な「あら~ん」な冒険物語ですv
「クルセイダー」…今色々と、こういうまんまなタイトルはよくないのかもしれませんね。だって宗教って特に、お互い自分だけが正しいと言っていて、妥協点が見つからないから余計大変です。
でも、こういうご時世だけは利用しようとしてはいるんでしょうね。
Posted by: 高野正宗 | March 20, 2005 01:50 PM
うわ、懇切丁寧な解説ありがとうございます。これあれば私の下手なレビューなんかいらなかったような。
>普段は農民である将軍というのはありえない
ああ、やっぱしそうですよね・・・・ ボキもなんかおかしいな、とは思ってたんですが
>デレク・ジャコビ
あー、あの議員さん、そんなに名の知れた方だったんだ。他にもベテラン色々出てますが、オリバー・リードが一番光ってましたか。死ぬ直前だったてえのにすごいなあ。
>おばかちん息子
いいですよね。最近はシャマランに気に入られているみたいで。兄貴も草葉の陰で喜んでいることでしょう。
>古代ローマ
実はそんなに詳しくありません。本当にフィクションでちょくちょく触れるくらい。
キューブリックの『スパルタカス』も好きです。よく「中身ない」とか言われるけど、おれは泣いたぞ!
古めの作品では『聖衣』というのもよかった。ン・・・なんか忘れてるな。あ、『ベン・ハー』だ。
Posted by: SGA屋伍一 | March 20, 2005 09:41 PM
いえいえ。
あ、あともう一つ。
「あの時代、ローマにはまだ鐙というものがない」
鐙というものができて乗馬術が変わり、飛躍的に距離も延びるなどなど歴史は大きく変わった…らしい(by相方)
♪君の いくさが変わったと キスを避ける仕種で気づく(byプトレマイオス)
あ、映画が違った。
Posted by: 高野正宗 | March 21, 2005 10:05 AM
相方さま、博識ですね。
そう言えば前にフルタから剣闘士の食玩(遺跡から出土したものを参考にしている)が出てて、大体集めたんですが、兜はゴテゴテしてるわりに、胸板は剥き出しみたいなコーディネートが多かったかな?
解説には「グラディエーター」の名の由来も出ていて勉強になりました。
Posted by: SGA屋伍一 | March 21, 2005 09:01 PM