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January 09, 2005

サイバラ・クロニクル 西原理恵子あれこれ

わたしは西原理恵子が好きだ。
といっても、好みのタイプとかモノにしたいとかそういうわけではない。純粋に彼女の作品が好きだということ。
例えば、『まあじゃんほうろうき』の中で登場人物のひとり、“すえいどん”はこう語る。
「だいじょうぶ。借金は大きいいほうが人間が大きくなるよ。それに返したくないんだったら返さなくってもいいんだし。ぼくなんか絶対に返すつもりないよ(ちなみにこの時点で6億円) ほっほー」
こういうセリフを読んでいると、自分がチマチマしたことで悩んでいる事が、まことに馬鹿らしく思えてくる。

昨年末、『毎日かあさん』が文化芸術メディア賞、とやらを受賞した。でも彼女は「賞なぞどうでもいいが、いったいいくらもらえるんだ」と思っているにちがいない。この『毎日かあさん』オビにはこう書いてある。
「家庭円満マンガを書こうとおもったら、連載中に離婚してしまいました(笑)」
相変わらず、彼女の言葉はパンチが効いている。しかしその一方で、「このひとも変ったな」と感じざるをえない。かつて彼女はエッセイやインタビューで「子供は大嫌い」「子育てなぞ絶対にするつもりはない」と語っていた。しかしこの作品に満ちている、あふれんばかりの母性愛はどうだ。結局どれだけひねたふりをしていても、彼女のDNAには土佐の肝っ玉かあさんの情愛が刻まれていた、ということなのだろう。あと、先の言葉のひとつは、『まあじゃんほうろうき』で海千山千の雀プロどもにいいようにしゃぶられていたころのものなので、神経がいいかげんささくれだっていたのかもしれない。

この『まあじゃんほうろうき』、読んでみると田舎から出てきた純朴な少女が、都会の荒波にもまれてどんどんたくましく、あるいはひねていく様子が大変よくわかる。最初はさくらももこに毛の生えたような自画像が、最後にはまなじりを逆立てて鼻血・耳血を噴出しているところに、それは如実にあらわれている。まあ、ごの豪快な捨て鉢ぶりが、わたしを含めた多くのひとを虜にしてしまったわけだから、彼女の出費や出血もけっして無駄ではなかったのだろう。

さて、文化芸術メディア賞受賞とほぼ時を同じくして、西原はまた一冊の本をだした。タイトルは『上京ものがたり』。『まあじゃん』以前の上京してからデビューに至るまでの、彼女の鬱屈とした日々が叙情的につづられている。
この作品、彼女のこれまでのマンガとは決定的にちがうところがある。笑えないのだ。むしろ読んでいて苦しくなる。
これまでずっと豪快で破天荒な作品を発表してきた西原。しかし彼女にも自分が何者なのかわからず、ただもがき苦しんでいる時代があったのだ。それは考えてみれば、当たり前のことなのかもしれない。

昨年最後の『毎日かあさん』、元夫に「きみはなにか欲しいものはないの?」と聞かれ、彼女は「ない、全部持ってるから」と答える。
(そう、欲しいものは全部持ってる) そう胸の内でつぶやき、子供たちと夜の街を駆ける西原。
うん。そうか。よかったですね。

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Comments

西原理恵子は私も好きです(^_^;
毎日かあさんの、鴨ちゃんと離婚したあたりのくだりはギャグなのに泣けますね。
最初の頃の「可愛いけど毒がある」路線から、毒とギャグが左ワキえぐりこむよに爆発した時期をすぎて、毒に愛情がにじんで来た今へ。やはり「かあさん」になったからでしょうか。

そうは言っても、やはりあの強烈な毒は健在ですが(^_^)

Posted by: 淳庵 | January 18, 2005 at 01:02 AM

淳庵さま、いらっしゃいませ。
>鴨ちゃんと離婚したあたりのくだり
「一度好きになった人を嫌いになるのはむずかしい」というあたりでしょうか。それともまだ単行本未収録の部分かな?
わたし、鴨ちゃんも嫌いじゃないんですよね。『アジアパー伝』のマンガ部分だけ読むと、まるでむさ苦しい太宰治のようで、カマっ気もないのに、なんだか母性愛をかきたてられちゃいます(オエ)。

>あの強烈な毒は健在
新聞マンガとはいえ、その辺は忘れないサイバラが素敵

淳庵さまのブログ(淳庵堂 ttp://jun-an.at.webry.info 時事問題やパソコンなどについて、大変タメになり、かつわかりやすいブログ)にスマトラ地震について拙文寄せさせていただきましたが、西原(元)夫妻、『できるかなリターンズ』でインドネシア暴動の際、取材に行っているんですよね。
「今回の暴動とー スハルト大統領とハビビをどう思いますかー」
「それは誰だー」
そう答えて網を下ろしていたあのじーさんは、今も元気なのでしょうか。

Posted by: SGA屋伍一 | January 18, 2005 at 09:53 PM

インドネシア取材、思い出しました。
じいさん、多分ジャカルタ近辺でしょうから大丈夫だとは思いますが、確かに・・・大丈夫でしょうか。
>鴨ちゃんと離婚したあたり
そう、まさにあの台詞です。
そして、沖縄に会いに行った話。
おとうさんとおかあさんの手をつなごうとする娘。涙ぐむ鴨ちゃん。
鴨ちゃんは私も嫌いじゃないです(^_^)

Posted by: 淳庵 | January 20, 2005 at 02:04 AM

>インドネシア
考えてみりゃ、あそこも本当に災難が多く、気の毒な国です。東ティモールの問題もありました。空は抜けるように青く、美しいのに。

>鴨ちゃん
いちいち泣かせてくれますね。でも彼、離婚したあとも、普通にマンガによく出てきます(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | January 21, 2005 at 08:49 PM

西原さん毎日新聞に続いてついにNHKに進出したもよう(^_^;
http://www3.nhk.or.jp/asadora/midokoro/daiji.html

Posted by: 淳庵 | April 02, 2005 at 04:00 AM

うわ~(絶句)
この絵を気に入って、『ぼくんち』とか「読んでみようかしら」なんて思う純真なお嬢様がいないことを祈ります。
『毎日かあさん』第2巻「お入学編」、出ましたね。既に買いました。

PS.インドネシアはまた大変だったようですね。もうなんか言葉もないです。

Posted by: SGA屋伍一  | April 02, 2005 at 08:55 AM

私も買いました~。
いや、ぼくんちならまだしも鳥頭紀行あたり・・・(^_^;
今回の朝ドラは、ハッピーとも言えない話らしいので、ひょっとしたら西原作品に近い部分があるのかも知れないですね。

インドネシアに関しては、本当になんと言ったらいいか・・・。とにかく、出来るだけ多くの人が助かってくれ、と思うばかりです。

Posted by: 淳庵 | April 05, 2005 at 03:00 AM

>いや、ぼくんちならまだしも鳥頭紀行あたり・・・(^_^;
・・・確かに。書店は本のそばに「要注意」とか、書いとかないと。

>インドネシア
『毎日かあさん』二巻に「アジアの子供たち」という話がありましたよね。インドネシアで鴨さんがサイバラに隠れて・・・という所でなんともいえない気分になりました。あれから今はさらに過酷な状況になってしまった・・・

Posted by: SGA屋伍一  | April 05, 2005 at 07:40 AM

 どうもサイバラさんは前から米ントしたかったのですが
のびのびになってしまいました。では行きます。
 >すえいどん
 言ってることがすでにダメですもんね。
サイバラさんに「すえいどん、それは勝っていないぞ」
と言われるくだりが好きです。
 >鴨さん
 離婚されたんですか。精神病院に入院したり「ちっちぇえ」と
という辺りから苦労してるとは思いましたが、でも伊集院静の本
では一緒にいますが、こっちは離婚前ですかね。
 鴨さんもポルポト派のゲリラに捕まったこともありました。それを
サイバラ先生は帰省本能でちゃんと帰ってきた、と言っていまし
たが、それは運が(ものすごく)良かったというのでは?
 イスラエルのガザに行ったり、あとインドネシアにも行ったんで
すか?次は海賊にでも捕まるかもしれませんね。
 >ゲッツ坂谷
 この人も言わないと。どうみても外見があれですが、本を見ても
言いたい放題の事を言っておりますが、別に腹もたたないし、
イヤミではないのは、裏があるわけではないし、ちゃんと相手の
事も考えてもいるからでしょうね。
 ダメ家族の中で唯一まともな母ちゃんの為に泣いたりする話は
いいっすよね。

Posted by: 犬塚志乃 | April 08, 2005 at 09:21 PM

どうもです。犬塚さまも愛読されてましたか。
こうして見ると類は友というべきか。彼女の周りにはスゴイひとばかり集まってきますね。他にはホモの勝谷さんとか花田編集長とか。
>すえいどん
前にパチンコガイドだかのCMに出てました。女装して・・・・ ダメです(笑)

>鴨さん
上にも書きましたが、離婚後もよくマンガに出てきます。子供らに定期的に会わせる約束をしているのでしょう。
本当にいつ何に捕まってもおかしくない彼ですけど、師匠の橋田氏は昨年痛ましい亡くなりかたをされたので、気をつけてほしいと思います。

>ゲッツ板谷
家族愛は強いみたいですね
この中で一番サイバラさんと付き合い長い人。写真観ましたが、路上であっても絶対目を合わせたくないタイプ。

Posted by: SGA屋伍一  | April 08, 2005 at 10:06 PM

なんで離婚しちゃったんですかねー…
本当にショックだ

Posted by: 維持見 | May 11, 2005 at 08:24 PM

維持見さま、はじめまして。
自分も別れて欲しくはなかったですけどねー。なんせお互い爆弾みたいなふたりですから。漫画読むかぎりでは。

Posted by: SGA屋伍一 | May 11, 2005 at 09:17 PM

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言わずと知れた、りえぞうちゃんの初期作品であり、代表作であります。全4巻やけど文庫なら全2巻であります。1巻目なんかあまりに初期なため、りえぞうちゃん自身の自画像もかたまっておらず(「ちくろ幼稚園」の最初のころ風)、真ん中あたりでやっとこさ見覚えのあるりえぞうちゃんが誕生してる状態なので、これを一気に4巻読むと、りえぞうちゃんの漫画家バブルの大山を一緒に体感してる気分になれるっちゅーもんでありますよ。「まあじゃんほうろうき」は麻雀パイも触ったことない状態のりえぞうちゃんが、麻雀を覚えていくさまを「近... [Read More]

Tracked on May 08, 2005 at 09:14 PM

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