October 12, 2025

2025年8月に観た映画

君といた夏は遠い夢の中… この時期は子供向けの作品を多くみてました。

 

☆『国宝』

今や歴代実写邦画1位にも迫る大ヒット作。歌舞伎に情熱を燃やす二人の役者の一生を描いた作品。

自分はもういい年なので子供もいないのに若い子が一生懸命がんばってるとつい保護者目線になってしまうというか、舞台のシーンでいちいち「こけるなよ! とちるなよ!」とハラハラしたり胸をなでおろしたりしてました。そういう点ではアクション映画と同じくらいスリルがありました。

『べらぼう』以外で初めて横浜流星君の演技を拝見しましたが、大河では主役らしい絶対的なオーラを放ってるのに対し、こちらではちゃんと引き立て役というか副主人公にふさわしいくらいの光り方でありました。主役を太陽とすれば月くらいの。その辺は映画の撮り方によるものか、彼の演技力によるものか。

おネエ言葉もぞくっとするくらい似合う田中泯さんや、最初二人と大喧嘩しながら、その後は何くれと世話を焼いてくれる三浦貴大氏の役どころもよかったです。

 

☆『星つなぎのエリオ』

CGアニメ本家のピクサー最新作。宇宙へ旅立つことを夢見ている少年が偶然にも異星人との交渉に成功。自分が地球の代表と見栄を張ったためにピンチに陥ってしまう…というストーリー。

予告でおおよそかわいいとはとても思えない芋虫のエイリアンが登場するのですけど、なんとこの芋虫とエリオ君の友情が重要な要素となっております。うーん、悪趣味…と最初は思いますが、子役君のかわいい声のおかげでだんだんキュートに感じられてくるから不思議です。考えてみれば不気味芋虫に愛情が湧いてくるSF、前例が幾つかありました。風の谷のナウシカ、DUNE、今年ではミッキー17もそうでした。

ハッタリかました主人公が機転と運で難題を乗り切っていく様子は植木等さんの「無責任シリーズ」に通じるところもあり。

 

☆『ジュラシック・ワールド 復活の大地』

シリーズ7作目。過去シリーズの登場人物が一切出てこない仕切り直し的な作品。

今回は新薬に必要な恐竜・翼竜・海トカゲ竜の遺伝子をゲットしてくるというミッションに、旅行中恐竜無法地帯に迷い込んでしまった親子が合流してしまい…という流れ。とりあえず「3つのアイテムを集める」ってわかりやすいゲーム的なコンセプトはよかったです。あとラスボスはなんじゃこりゃ、という感じでしたが、既存?の恐竜たちは概ね見せ方がうまく魅力的に描かれてました。ティラノさんの活躍シーンに関しては「ティラノさん、それじゃ追いついちゃうよ! もっとセーブして!」という監督のダメ出しが聞こえたような気もしましたけど。

自分はもっと人間社会の中に恐竜が闊歩してるような映像が観たいので、冒頭のアパトサウルスが大都市で渋滞を引き起こしてるような映像も楽しかった。次回作ではもっとそういうのお願いしたい。あといまだシリーズに登場してない首長竜をなんとか。

 

☆『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』

毎年恒例のクレヨンしんちゃん映画シリーズ。今回はしんちゃん一行がインド旅行に行った際に、レギュラーのぼーちゃんに異変が生じるという内容。しんちゃん映画は観たり観なかったりなのですが、今回はインド映画のパロディがちりばめられてると聞き面白そうだな、と。

しんちゃん映画のキモってドラえもんのような子供の好きな王道(冒険とか恐竜とか)的題材ではなく、庶民的・不条理的なモチーフをひっぱってきてヘンテコなお笑いで観客を包み込み、ついでにあるかなしかの教訓を残してくようなところだと思うのです。そこいくと今回はそのヘンテコなぶっ飛び具合が少し足りなかったかな…と。ただこれ言うのは簡単だけどかなりの高等テクニックが求められるわけで。しんちゃん映画のスタッフって本当に大変だと思います。もっとも興行成績は昨年より劣るものの普通に20億を突破してるので商売的には悪くない模様。

クライマックスでインドの食材「チャパティ」が大暴れするところはよかった。チャパティってお茶かなんかだと思ってたので勉強になりました。

 

☆『大長編 タローマン 万博大爆発』

NHKで3年前突然製作されたいかれた特撮番組『タローマン』。芸術家岡本太郎の作品・メッセージをふんだんにとりこんで無理やりウルトラマンのパロディにしたてあげたべらぼうででたらめな作品なのですが、その奇天烈さに一度はまるとドラッグのような中毒性があり、自分も社会復帰するのに相当苦労させられました。

その『タローマン』が105分の映画になって帰ってくるという。元々が1話5分のものを一度にそんなに摂取したらオーバードーズで昇天してしまうのでは…と決死の覚悟で臨みましたが、無事生還いたしました。

まあ今回作るにあたり監督はちゃんと「1本の映画らしいものを作ろう」と心がけておられたそうで、奇天烈なデザインはそのままに、約一時間半にふさわしいストーリーが用意されていました。ひたすら「でたらめ」「べらぼう」を主張してきた本シリーズですけど、劇場版を観ると「やはり生きていく上には多少の常識も必要では。最低限の常識があったればこそでたらめは輝くのでは?」という気がしてきます。こんなことを書くと草葉の影から岡本太郎先生に怒られそうですが。

ひとつ気になったのは監督のつぶやきによるとどうもやる前から赤字が確定してるみたいなこと。っていうかそれで映画って公開できるものなんですか??? ある意味大爆死した方が「マイナスに飛び込め」という岡本太郎イズムにふさわしい気もするのですが、監督が胃潰瘍にならないためにもせめてプラマイゼロくらいにはなってほしいところです。

 

次回は『Chao』『8番出口』『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』『ヒックとドラゴン』『チェンソーマン レゼ編』『ボーイ・キルズ・ワールド』などについて書きます。

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September 21, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 8月編

☆第29回「江戸生蔦屋仇討

意次を失い恨みの権化となってしまった誰袖。蔦重はそんな彼女を救うため、意次の敵討ちとして「江戸生浮気樺焼」という黄表紙を上梓する。

意次レクイエム編完結編。重苦しいムードが続いていましたが、1作の黄表紙を丸々劇中劇として再現するという大胆な構成。そのとんでもな内容に凍りついていた誰袖の心もようやく人間らしい感情を取り戻します。

佐野善左衛門の刃傷はどうして『忠臣蔵』ほどの伝説にはならなかったのか? 諸説あると思いますが、やっぱり「松の廊下」によく似てて二番煎じっぽかったことと、『忠臣蔵』でいえば内匠頭が切腹したところで終わってしまうので盛り上がりに欠けるためかな…と。当時はそりゃ大変な事件だったでしょうけどね。

「江戸生浮気樺焼」の挿絵のキャラが矢本悠馬に似てるから佐野役に彼が起用されたのでは…なんて説がXでは噂されてましたが、本当だったら面白い。

 

☆第30回「人まね歌麿」

新作の売れ行きも好調な中、蔦重はここらで本格的に歌麿を売り出そうと策を巡らす。だが歌麿は見捨てた母親のことがトラウマで未だに夢でうなされ続けていた。

夏らしい怪談調のお話。昔は特撮でも夏になると無駄に怪談的なエピソードやってたような。

これもXの受け売り(…)なんですけど、なるほどと思ったのは蔦重は人を集めたりとか宣伝の才は抜きんでているものの、創作の方は自分でも認めてたようにいまいちなところがる、ということ。だから創作の苦しみにウンウン苦しんでる歌麿の問題を解決してあげることは出来ない。それが出来るのは同じ絵描きである石燕先生だった…という流れ。

かくして無事蔦重の元に戻って来た歌麿ですが、一皮むけるために彼の元を離れることに。なんだか『北の国から』みたい。歌麿が去って寂しそうな蔦重を寂しそうに見るおていさんがちょっとかわいかったです。

 

☆第31回「我が名は天」

度重なる異常気象のため、江戸では米不足が深刻な問題に。めぐりめぐってそれがささやかな幸せを育んでいた新之助一家に悲劇をもたらしてしまう。

打ちこわし編前編。これまでで一番辛い回でした。善意で蔦重が与えていた米が遠因で、ふくさんと赤ちゃんが犠牲になってしまう。こんなことなら吉原足抜けのところでそのままフェードアウトしちゃえばよかったのに… 「鬼の森下脚本」の噂は度々聞いていましたが、その真骨頂を見せていただきました。鬼!! そして普通なら復讐の鬼と化しそうなところで、下手人と自分を重ねてしまう新さんがまた悲しい。

十代将軍徳川家治さんもこの回がクランクアップ。悪の首領である一橋治済に詰め寄るシーンは鬼気迫るものがありました。それでも悪の方がだいぶ長生きしてしまうのが史実の悲しいところ。アホと思われてた将軍が新解釈で描かれていたのは『篤姫』の堺雅人を思い出したり。

 

☆第32回「新之助の義」

さらに加速していく米不足。しかし幕府の政争や米問屋たちの企みのために問題は一向に収束の兆しを見せない。貧しい人たちの怒りはついに頂点に達する。

打ちこわし編中編。恐らく2,3年前から書かれているであろう本作ですが、令和7年のあれやこれやとシンクロすることがあまりにも多く、今回の米問題にいたっては「森下先生って予言者?」とささやかれるほど。

町人の身でありながらなんとかことを穏便に運ぼうとする蔦重。しかしお上の怠慢のせいで空回りして長屋のみんなからボコボコにされてしまいます。それでも全くめげずにまた長屋に来るあたりすげえと思いました。そういやこの人ボコボコにされるの割と得意?だったわ… そんな彼の打たれ強さに改めて感心。

本格登場となった松平定信(ウルトラマンタイガ)、長屋の感じ悪いヤンキー(仮面ライダーパラド)と、特撮出身者の活躍が目立った回。『キングオージャー』でブレイクした「丈右衛門だった男」矢野聖人氏の暗躍ぶりもヒートアップ。コンビで芝居してる妙に顔のいいホームレスは誰だ?…と思ったら悪の首領・一橋治定でした。ヒマなのか趣味なのか…

 

残りもいよいよ3分の1となりました。なのに写楽が一向に出る気配がない(笑) 終盤駆け足になりませんように。

 

 

 

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September 14, 2025

だいたい2025年7月に観た映画を振り返る

この月はアメコミ映画とアニメ映画ばかり観てました。アメコミ映画を観ることは自分にとっての義務なので…

 

☆『かたつむりのメモワール』

2011年マイベスト作品であった『メアリー&マックス』のアダム・エリオット待望の新作。今回も一人の悩める少女が、自分の繊細な内面と厳しい現実をどうやって渡り切っていくか…という話。しんどい内容を柔らか味のあるコマ撮りアニメで、お笑い混じりに語っていくスタイルも一緒。

ただ今回は精神疾患や変態性欲に関するエピソードも出てくるので、ギリ子どもも観られたであろう前作と比べると若干えぐみがきつい気がしました。えぐみが増したのはモノクロだった『メアリー~』にくらべ、今回は淡いながらもフルカラーだったせいもあるかも。

それでもまあ彼女の苦労が報われる優しい結末には大層ほっこりいたしました。今年度のアカデミー賞長編アニメ部門にもノミネート。

 

☆『スーパーマン』

新DCユニバースの第1弾となる作品。既に何度か映画化されてるキャラということもあり、今回はオリジンはすっ飛ばしてもう地球に色々超人たちがはびこっていて、スーパーマンも活動して何年か経っているところから始まります。

異国の紛争といえど人命が関わっていたなら立場に関わらず救助に行くべきでは?という現在の世界情勢を反映したような内容になっていますが、脚本が書かれたのは恐らく数年前のことなのでここ最近の中東の事情を意識していたのかというとやや微妙であります。

あと『ドラゴンボール』の悟空の出自はスーパーマンを模倣したようなところがあるのですが、今回は「元々地球を征服するための先兵だった(かもしれない)」というあたりはもしかしたら逆に『ドラゴンボール』をオマージュしているのかもしれません。出自はどうあれ、育った環境と本人の資質でいくらでも「ヒーロー」になれるというお話は気持ちよかったです。

あと犬と無駄にムーディーな異次元クラゲがお気に入りです。

 

☆『ヘルボーイ/ザ・クルキッドマン』

4度目の映画化、2度目のリブートとなる「ヘルボーイ」。北米では配信限定だったのに、なぜか日本では小規模ながらも劇場公開してくれてありがたい限りです。

原作ヘルボーイは長編と短編があり、長編がスペクタクル調なのに対し短編は『ゲゲゲの鬼太郎』のような民話テイストの作品となっております。で、今回は短編の方のカラーを再現していて、「オバケはヨモギを焚くと逃げる」みたいな民話のシュールな部分が大事にされています。

なのでこういう世界が好きな方にはたまらないでしょうが、そうでない人にはこぢんまりした印象を受けるかも。自分は嫌いじゃないですが、全体的に暗めのシーンが多いので少々眠くなりました。

 

☆『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』

もう知らない人はいないくらいの超絶大ヒット作品。先日『千と千尋』も越えたそうですし、日本の歴代の興行成績のワンツートップを「鬼滅」が占めることになりました。おそろしや。

ここ最近映画館でかかった「遊郭編」「刀鍛冶の里編」が「無限列車編」と比べるとまったくパッとしない成績だったゆえに、「鬼滅ブームもだいぶおちついたよな」とか思ってたんですが… やっぱり「TVの再編集」と、「劇場でしか観られない」の違いでこんなにも差が出るということなんでしょうか。

改めてこの作品って教訓的というか、この歳でも学ばされたり共感する言葉が多いです。「幸せの箱云々」とか。あと原作もそうでしたが激しいバトルの応酬の後に山本周五郎になるところが好きです。

エンドロール後に当然第2章の予告があるかと思ってたら何もありませんでした。こりゃ続きは当分先になりそう… 無限城のCGはそりゃすごいですけど、あれでべらぼうに時間がかかるのであればもっと手を抜いてもいいんですよ!

 

☆『F1』

こちらはぐっとシンプルなタイトル。文字通りF1を題材にした映画。20世紀末活躍したF1ドライバー(セナとかシューマッハと同年代?)が、友人に請われ心残りを解消するためもあって、低迷を続けるチームに加入するというお話。

モータースポーツものって力作・傑作が多いですけど、日本ではいまひとつヒットしないことが多く。ところがこちらは珍しく20億円という大健闘。ブラピ主演だから?…とも思いましたが彼主演でも伸びなかった作品はいっぱいあるし。それとも「『トップガン マーヴェリック』のスタッフ」というところに惹かれた人が多かったのか。いずれにしても迫力・ストーリー・カタルシス共に申し分ない作品でリピーターもいっぱいいた模様。

自分としてはどんなにひどいことを言われてもヘラヘラしてて熱血漢とは程遠いのに、チームのこととなると激しく怒る主人公像が面白いな、と。あとジョセフ・コシンスキー監督は本当におじさん世代が若い世代に何かしら継承させていく話が好きですね。

 

☆『ファンタスティックフォー ファーストステップ』

これまた4度目の映画化で2度目のリブート。そしてMCU最新作。特色としてはこれまでのマーベル世界とは別の並行宇宙であり、レトロチックな60年代の世界を舞台にしているところ。自分が生まれる前の古いながらも心安らぐ風景を、当時の作家が考えたような「未来メカ」が活躍する映像が好みでした。

また2作目でモヤモヤしたエネルギー体のように描かれていたギャラクタスが、今回はちゃんとリアルな大巨人になっていたのがよかった。終盤彼がNYを蹂躙するシーンは怪獣映画のようで興奮いたしました。そんな星をも食うような巨人をどうやって退けるのか。この辺をFFの面々が苦しみながらも考えだしていくプロセスも興味深かったです。

赤ちゃん一人を救うために地球を丸ごと危機にさらしてもよいのか…というテーマもあります。現実的にはまずありえないながらも、だからこそ世界の人々が彼らを応援するくだりにはしんみりしたり。

アメコミ映画としてはスーパーマンの直後で、映画館的には鬼滅ブームの真っ只中で影が薄くなってしまったのが悔やまれます。

 

次回は『告白』『星つなぎのエリオ』『ジュラシックワールド 復活の大地』『クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』『劇場版タローマン』について書きます。

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August 31, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 7月編

☆第25回「灰の雨降る日本橋」

あきらめかけた日本橋の店が、ひょんなことから蔦重の手に入ることに。そんな折浅間山が噴火。江戸の町に灰が振り始める。

前回から続く蔦重結婚編の中編。これまでのベストエピソードのひとつでした。

日本橋に異様な風体でやってきた蔦重が、次から次へとアイデアを繰り出して、カチコチ頭だった人たちを次々と虜にしていくあたりがめちゃくちゃ痛快。その活躍ぶりにまずメガネ女子のおていさんが落ち、ついで難攻不落だった鶴屋さんがついに陥落。蔦重の婚宴にお祝いの品を持ってきて「歓迎します」とおっしゃってたくだりには劇中の面々同様こちらもアホみたいに泣いてました。

この回の『風雲児たち』ポイント:浅間山噴火の様子。天明年間は災害が多かったようで。

この回の使える中国史ポイント: は確か呉越の興亡に出てくる人物。『キングダム』のもっと前の時代ですね

 

☆第26回「三人の女」

晴れて夫婦となった蔦重とてい。だが二人はまだ色々とぎこちなく… そこへ蔦重を捨てた実の母がひょっこりと飯をあてに戻って来る

蔦重結婚編完結編。自分に価値がないと思ってた人が「そんなことはない!!」と力説される話に弱いものでこの回も号泣でございました。おていさんが蔦重をどんどん見直していく過程が小説版ではもう少し詳しく描かれています。

蔦重の実母役を演じるは高岡早紀さん。昔はそれなりに憧れたことがあったような… 「ババアババア」と連呼されるのがちょっと悲しい。いまやすっかり貫禄ある名女優となりました。

この回の使える江戸知識:江戸時代の人々はお数が少ないせいで米ばっかり食ってたとか。鬼平犯科帳とはちょっと違うイメージ

 

☆第27回「願わくば花の下にて春死なん」

互いの仲を深めていく誰袖と意知。蝦夷地への方針も進み順風満帆だった意知に、突然の凶刃が迫る。

意知レクイエム編前編。田沼意知殺害に向けてばらまかれていた伏線が、この回のクライマックスで一気に結実していきます(しなくていいのに)。

その下手人となる佐野善左衛門、『風雲児たち』ではひたすら身勝手で勘違いなアホ野郎として描かれていましたが、『べらぼう』では不器用で父親思いだったところを一橋側に上手に利用されて…という風になってました。この辺に森下先生の優しさが感じられます。お互いを想う二組の父子の対照的な様子が印象深い回でした。

意知に刃が降りかかる直前で「次回」のテロップ。そして次週は参院選のためこの状態で2週待たねばならなかったという…

 

☆第28回「佐野世直大明神」

田沼意知、江戸城内にて切り付けられ、ほどなくして死去。若すぎる死を悼む人々をよそに、田沼をさらに追い詰める陰謀が進んでいた。

この回はやはり大切な人を失って慟哭する意知と誰袖の姿が辛すぎました。前回があまりにもハッピームードだったゆえに…

善左衛門の凶行の流れは『風雲児たち』とほぼ一緒。江戸城内では刃傷沙汰が幕政が続いた期間7回もあったそうです(城外付近を含めればもっと)。これを「あり過ぎ」と考えるべきか、「2百数十年も続いたんだからこれくらいは」ととらえるべきか。

意知の葬列に石が投げられるくだりも『風雲児たち』にありました。政治は庶民が中心でなければなりませんが、とかく庶民というものは扇動に操られやすい。自分も庶民の一員として気をつけていきたいです。

陰で暗躍する「丈衛門だった男」。『鎌倉殿』の善児を彷彿とさせます。演じるは『キングオージャー』で目的のため悪者のふりをしていた「ラクレス様」こと矢野聖人氏。こちらでの結末は果たして

 

 

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August 03, 2025

大体2025年6月に観た映画

このあたりはえぐかったりこわかったりする映画をよく見てました。そういうのむしろ苦手だったりするのですが

☆『サブスタンス』

先のアカデミー賞でヘアスタイリング&メイクアップ部門を受賞 …とは思えないくらい趣味の悪い映画。だいぶいい年になってしまった往年の人気タレントが、若さと美しさを兼ね備えた自身の分身を生み出すという話。『笑うせえるすまん』にいかにもありそうな。こんな底意地の悪い話よくおもいつくなあと。

確かに発想と展開は独創的で面白いんですけど、鑑賞中はひたすら不快でした。ただ一晩経って「もしかして壮大な冗談だったのかな?」と思えてきて、多少許せる気分になってきたりして。

 

☆『JUNK WORLD』

個性的なアートと作風で世界から高い評価を受けた『JUNK HEAD』の続編。というか前日談。1作目が寓話というか落語というかファンタジー味が強かったのに対し、今回は同じ世界観の話でありながらややシリアスでハードSF的な要素が強い感じでした。

その硬派なムードを粉々に壊してくれるのが2バージョンあるうちの片方の「字幕版」(もしくはゴニョゴニョ版)。未来の人間・生物がその時代の言葉でしゃべっている、という設定なのですが、「ガッテンショウ」とか「スイヨウドウデショウ」とか明らかにふざけまくった現代日本語なのでそっちに気をとられてしまって困りました。滅法面白いのですが…

自分は字幕版だけ見る予定でしたが、渋滞に巻き込まれた関係で冒頭が観られず、頭に来てすぐ次の吹替え版も観ました。こちらはすっきりストーリーと画面に集中できるので吹替→字幕という鑑賞がおすすめです。

 

☆『見える子ちゃん』

人気ホラー漫画原作。人に見えない幽霊がつい見えちゃうという困った体質を持つ女の子が、やばい霊につかれてしまった友人を救うべく奮闘する話。このヒロインが鬼太郎みたいなオバケとバトルする力とかもってるわけではないので、自前で色々調べて霊を追っ払おうとする姿が健気でした。

某名作をほうふつとさせるオチがあるのですけど、そのまんまパクってるのではなく応用を効かせて数パターン持ってきたあたりが見事でした。あと霊の怖さよりも原菜乃華さんはじめ若い女優さんたちのキラキラとしたまぶしさの方が勝っていました。

 

☆『Mr.ノボカイン』

無痛症の青年が強盗にさらわれた恋人を助けようとがんばる、いわゆる「なめてたやつが〇〇だった」ジャンルの変奏曲。ただ彼の持ち前の武器は「痛さを感じないこと」くらい。体がいくらズタズタのぐちゃぐちゃになっても戦うことをやめないので、観ているこっちが目をそむけたくなるという… 「痛さを感じないっていいな」と思いがちですけど、それはそれで大変なことがたくさんあり、痛覚の大切さや無痛症の苦労がよくわかる作品になっております。

脚本のひねり具合や、人生の渋みと甘味がバランスよく描かれてるところが好感が持てました。

 

☆『メガロポリス』

先のラジー賞で最低監督部門に輝いた名匠コッポラの最新作。古代ローマになぞらえられた未来都市を舞台に一人の建築家の苦悩が描かれる…という話だったんだろうか? 彼に時間停止能力があったり、未来が舞台ななのにそんなに現代と変わらなかったり、唐突にハッピーエンドになったりと、「???」となる要素が幾つかあります。

印象に残る映像もそれなりにあり、つまらなくはなかったのですが、途中ちょっと眠くなりました。

 

☆『罪人たち』

『クリード』『ブラックパンサー』などアフリカ系をよくテーマにするライアン・クーグラーの最新作。今回は人種差別と音楽と吸血鬼を無理やり1本の映画にぶちこむという実験に挑んでます。なんかこれ、明確な意図があるんやるか…とそれなりに考えて思いついたのは、アフリカ系アメリカ人とアイルランド人(吸血鬼)には

・陽気でさわがしい音楽が好き ・キリスト教はよそから植え付けられたもので微妙な感情もあるけれど、今となっては愛着の方が上

という共通点があることくらいでしょうか。

主人公が兄弟二人なんですけど、別々にキャスティングするのではなく双子という設定にして両方マイケル・B・ジョーダンにやらせるあたり、監督のMBJ愛がさらに強まってる…と感じました。そこまでくるとちょっと重くないか

 

次回は『かたつむりのメモワール』『スーパーマン』『ヘルボーイ ザ・クルキッドマン』『F1』『鬼滅の刃無限城編1章』『ファンタスティックフォー ファーストステップ』あたりについて書く予定です。

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June 29, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る⑥ 6月編

☆第21回「蝦夷桜上野屁音」

蝦夷へと関心を向ける田沼親子。その密談が吉原で行われたことから、誰袖は意知に急接近していく。一方後輩の政演にお株を奪われた春町は酒席で不満を爆発。きまずい場面で窮地を救ったのはなんと…

おなら編前編。この回から蝦夷を治める松前藩がクローズアップされていきます。凶悪な藩主を演じるのは元名子役のえなりかずき氏ですが、悪代官的な役がとてもはまっておりました。

誰袖は蔦重に熱を上げていたのにあっさりと意知にシフト。この辺の移り気なところは瀬川との差別化でしょうか。

もしかすると次郎兵衛兄さんが最も役に立ったかもしれない回。おならをネタに歌いながら踊る当時の文化人たち。その中に人気声優水樹奈々さんまで混じっているのがなんとも豪華?

この回の『風雲児たち』ポイント:松前藩と『赤蝦夷風説考』。あと島津重豪

 

☆第22回「小生、酒上不埒にて」

とことんまで機嫌を悪くしてしまった春町は絶筆を宣言。撤回してもらうべく蔦重たちは心を砕くが…

おなら編後編。このドラマを観るまで恋川春町という人のことを知らなかったのですが、すっかり「面倒くさい人」としてインプットされました。まあ愛すべき面倒くささではあります。演じる岡山天音君は『キングダム』の尾平が印象的でしたけど、この不器用な作家を見事に熱演というか怪演しておられました。

おならの借りをおならで返すのはミが出そうでヒヤヒヤしましたw でも作家同士の嫉妬とかリスペクトで春町と政演が和解するのはなんだかとても微笑ましくてちょっと泣きそうになっちゃいました。日本漫画では絵も話も作家がやるのが普通ですが、当時の戯作者たちではこの二人くらいだったんですね。

悩みもそれなりにありつつ、この頃が蔦重にとって最も幸せな時代だったのかも。この後のバックラッシュがちょっと怖い。

 

☆第23回「我こそは江戸一利者なり」

太田南畝と共にブレイクした蔦重は一躍江戸の有名人となり、耕書堂は大繁盛。周囲の人からも進められて、彼は日本橋への進出を決意。だがそれが養父の駿河屋との対立を招くことに。

いままで殴られっぱなしだった蔦重が、とうとうコワモテのおとっつあんに正面切って立ち向かうことに。遅すぎた反抗期とも言うべきか。しかし彼の「吉原者のステータスを上げるため」という目的が、差別されてきた駿河屋の心を動かします。それを転げ落とされた階段を登りながら言うシーンが象徴的でした。流星君の気迫もあってこのドラマ有数の名場面になったと思います。

高橋克実氏演じる駿河屋はいつも怒るか怒鳴るか、という描かれ方ですがウィキを見ると文芸系の著作もあり、なかなかの文化人の一面もあったようです。

この回の『風雲児たち』ポイント:蔦重が「風雲児、風雲児」と連呼されているのはやっぱり『風雲児たち』を参考にされているからですか!? 森下先生!?

 

☆第24回「げにつれなきは日本橋」

吉原の後ろ盾を得て、本格的に日本橋へ店を探すことになった蔦重。だが吉原者への差別、鶴屋の妨害、そして候補の店の主人・ていが筋金入りの堅物であることなどから計画は難航する。

後に蔦重の夫人となるおていさんが本格的に登場した回。綺麗系の橋本愛さんが特長的なごつい眼鏡を装着したビジュアルがインパクト大ございます。残念な(笑)行き違いもあって蔦重の渾身のプロポーズは大決裂してしまうわけですが、ここからどうやって結婚までもっていくのか森下先生の描く大逆転劇に期待です。

しかしこの蔦重の顔も頭もいいし、その上色里の育ちなのに自分の色恋はからっきし…というキャラクター本当にいいですね。でもちょっと腹立つ。

この回の『キングダム』ポイント:韓非子、こないだ出てきてすぐ亡くなりましたね…

 

話数的にはこの辺がちょうど半分かと。ただお話し全体のターニングポイントは次回あたりのような気がします。

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June 22, 2025

2025年5月に観た映画

恐ろしいことに今年もぼちぼち半分終了です。5月はメジャー系の洋画をよく観てました。

 

☆『サンダーボルツ*』

MCU最新作。原作最初期は悪者たちがヒーローチームを偽装していたら、そっちの方が気持ちよくなっちゃって善玉に路線変更した…という流れだったと思います。映画版はこれまで出て来たやや後ろ暗い過去のある脇役たちが、闇落ちしたスーパーマンみたいなキャラと戦うことになる…という内容。このサンダーボルツの面々がそんなにすごいパワーがあるわけではなく、少々肉体改造されたようなメンバーばかりなのでどうしたって分が悪い。ただ相手側は善悪の間をふらついてるようなキャラ(セントリーと言います)なので、戦いながら一生懸命「いい子ちゃんに戻れよ!」と説得するわけです。この辺先の『キャプテンアメリカBNW』とかぶってしまった感はありますが、精神世界を舞台としたクライマックスはなかなか面白かったです。

残念だったのは予告やポスターでバーンと映っていたタスクマスターが序盤であっさり…となってしまったこと。演じるオルガ・キュリレンコさんも多忙なようなのでなんか事情でもあったんでしょうか。

 

☆『マインクラフト ザ・ムービー』

子どもたちを中心に世界的な人気を誇るブロックゲーム?の実写映画化。実写といっても背景の半分以上はCGですが。ゲームが原作で現実世界から架空世界の危機を救うために冒険するという内容や、髭のおやじの二人組がいるところなどはこないだのスーパーマリオのアニメ映画とよく似てます。

ただこちらは生身の人間が演じてるので、もじゃもじゃ度が一層アップ。さらに架空世界のキャラがみなカクカクしてるので毛深さがどうしたって強調されてしまいます。今頃の季節見たら暑苦しいでしょうが、ゴールデンウイークだったのでまだよかった。

お子様と一緒に笑いながら見る分には十分な出来。このゲームのファンの姪っ子がとても楽しんでくれたのでよかったです。

 

☆『パディントン 消えた黄金郷の秘密』

名作童話を原作とした『パディントン』シリーズ8年ぶりの3作目。…もう前からそんなに経つのかよ。今回パディントンはロンドンを飛び出し生まれ故郷のペルーへ、おばさんを探す旅に出ます。

これまた普通によく出来たファミリームービー。あとメジャー映画でペルーが舞台というのが珍しい。まあそれだけで十分なんですけどやっぱりパディントンにはロンドンの街並みの方がよく似合うなあ、と。あと子供たちが二人ともでかくなってしまい、『トイストーリー3』の時のアンディを見るような寂しさを感じてしまいました。弟くんとかこの映画以外に特に出演ないみたいですが、ずっと付き合ってくれてえらい。

日本ではマイクラとぶつかってしまったのが不運な成績でしたが、2027か28 に既に4作目が公開予定とのこと

 

☆『ミッション・インポッシブル ファイナル・レコニング』

1作目だけ映画館で観てませんが、実に約30年の長きに渡ってつきあってきたミッション・インポッシブル完結編。というか前作と合わせてひとつの大きなエピソードになってるので、正確には完結編の後編ですね。

先のクレイグ版007がああいう形で終わったので、イーサン・ハント死んじゃうのでは…とドキドキしながら観てました。実際はどうだったかというと(以降白字)引退もせず代替わりもせず、普通にこれまで通りという変わった形の完結編となりました。1作目から皆勤賞で出てた主人公の相棒は亡くなりましたが…

とりあえずこの30年のシリーズが走馬灯のようにばーっと思い出されたのと、さわやかに手紙でしめくくられるラストに感極まったのでよかったです。自分はBANANA FISHとかメイズランナー完結編とか手紙のモノローグで終わる話に弱いんです。

 

☆『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

お笑いコンビ・ジャルジャルの福徳秀介氏が書いた恋愛小説を映画化。大学になじめない陰気な青年の出会いと別れを描いた内容。

重要なモチーフとしてスピッツの「初恋クレイジ―」という彼らの中ではマイナーな曲が使われてるのですけど、これがとても印象的で観終わるとしばらく耳から離れなくなります。

序盤は自分もぱっとしなかった大学時代を思い出したりしてノスタルジー的に観てましたが、中盤ドキッとするような展開があり、主人公がどんより落ち込むあたりからしんどいのに目が離せなくなっていきます。そしてようやく持ち直したかな…と思ったらさらに重いもう一山があったり。

いま大活躍中の河合優実さんも存在感ばっちりでしたが、それよりも忘れがたいのは伊東蒼さんの切なすぎる長回し。彼女は私が観た範囲では可哀そうな役ばかり演じてるので、次はバカバカしいコメディとかに出てほしいです。公開前から「これはすごい」と聞いていたのですが、その評価に間違いはありませんでした。

 

次回は『サブスタンス』『JUNK WORLD』『見える子ちゃん』『Mr.ノボカイン』と、観られたら『メガロポリス』か『F1』について書く予定

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June 08, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 5月編

☆第17回「乱れ咲往来の桜」

瀬川や源内への恩に報いるため、「日本一の本屋」を目指すことを決意した蔦重。そんな彼のところへ久しぶりにうつせみと共に姿を消した新之助が訪ねて来る。

まだ吉原限定でしか本を出せない蔦重が、販路拡大のため見出したジャンルが江戸の外での学習本。地方の庄屋さんに関わらせることで「これ、俺がスタッフだったんだよ!」と自慢させてあげることが出来るという… 庄屋さんの気持ちわかるなあ。ダチョウ倶楽部の人も版木を抱きしめながら「俺の娘」と言ってたし、本って作った人にとっては本当に宝物なんですね。そういう感覚、いっぺんくらい味わってみたいものです。

この回で特に和んだのはもう何回目かの次郎兵衛兄さんが蔦重をわしゃわしゃするシーン。戦国か源平大河だったら次郎兵衛は追い込まれて蔦重と戦になって敗死しそう。江戸時代でよかった。

この回の『風雲児たち』ポイント:田沼様は地元の領民に大層慕われてたというエピソード。吉良上野介とちょっと似てます。

 

☆第18回「歌麿よ、見徳一炊夢」

耕書堂に持ち込まれたある本の絵を見て、蔦重はそこに自分の元から消えた唐丸のタッチを思い出す。この作者はもしや唐丸では…と絵師を探す蔦重。一方そのころ朋誠堂喜三二に最大のピンチが迫っていた。

というわけで唐丸=歌麿が確定した回。てっきり彼は写楽になるものとばかり… ただ歌麿は歌麿で出自とかほとんどわかってない謎の人だったようですね。そんな「べらぼう」版歌麿の地獄のような生い立ちが語られます。まるで『ベルセルク』のガッツみたい… NHKでここまでよくやりましたね… そんな歌麿の兄貴となり光となる蔦重。調べたら弟分のはずの染谷君の方が流星君より4つ上(32)でしたがヨシとしましょう。

地獄話と並行してまあさんのアホらしいエピソードが進行していきます。この落差がすごすぎた… 夢で×××が断ち切られるシーンは一瞬「ファンタジー要素も取り入れちゃうのか?」と焦りました。

 

☆第19回「の置き土産 」

唐丸と念願の再会をはたし、ますます上り調子となる蔦重。そんな彼の耳に因縁浅からぬ鱗形屋の苦境の知らせが入って来る。煮え湯を飲まされた相手ではあるが、負い目もある蔦重はなんとか力になろうと動くが…

というわけで意外にもしぶとかった鱗形屋さん、とうとう今度こその退場回。蔦重がどうしても彼を憎めなかったのは、やはり「本」への愛情がある人だったからでは…と思います。「最初に小遣いで買った本」を前に二人が和解するシーンは本ドラマ中屈指の名シーンでした。

恋川春町先生が「あんたは古い」と鶴屋からいろいろ注文されるくだりは、『ブラックジャック』を書き始めたころの手塚治虫先生を思い出したり。あと家治様が田沼様をめちゃ高く評価するシーンもよかったですね。家治様は『風雲児たち』ではアレな描かれ方でしたが、将棋は上手かったそうです。

  

☆第20回「寝けて候」

耕書堂の評判は江戸市中でもうなぎ上りに。ついには鶴屋に従っていた本屋仲間からも、耕書堂から本を仕入れたいという声が上がり始める。

このころを代表する文化人たちが一挙にドバっと登場する回。ただ当時の文化人というはちょっとかわってて、くだらないことをいかにも高尚に言うのが「粋」だったようで…(そこがいいんじゃない!)

クライマックスは鶴屋さんのところに自ら乗り込んでいく蔦重。口喧嘩ってのは怒った方が負けなんですよね。そういう意味ではいい勝負でしたが、蔦重の方がやや優勢でした。

この回の『風雲児たち』ポイント:大田南畝とか土山宗次郎とか工藤平助とか… 南畝初登場シーンはいかにもで笑いました

しかし特に意味なく声優さんたちを多く起用するのは何か狙いでもあるのかな?にぎやかでいいけど

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June 01, 2025

2025年4月に観た映画

二ヵ月遅れの映画感想。この月はなぜかアクション系の映画ばかり観てました。

 

☆『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

そんな中、これは唯一ほぼ戦ってない映画。あの『レゴ・ムービー』シリーズ久々の最新作(なのか?)ということで観てきました。タイトルのファレル・ウィリアムスさんについてはほとんど知らず。でも劇中でかかってた超有名な曲「HAPPY」はさすがに聞き覚えがありました。

実在ミュージシャン映画の定型どおり、ファレルさんもサクセスして後、売れないころとはまた別の悩みを抱えることになります。お金目当てのビジネスマンたちに取り囲まれてしまうのですね。ただファレルさんの人柄かレゴで再現されてるゆえか、他のミュージシャン映画ほどには落ち込みパートがエグくありませんでした。その分いまいち印象が薄くなってしまったり。難しいですね。

 

☆『アンジェントルメン』

ここんとこイマイチ話題にならないガイ・リッチー監督の1年遅れの公開作(自分『コヴェナント』とか大好きですけど)。第二次大戦中スパイ活動に従事し、後にMI6の基礎を築いたメンバーの「実話に基づいた話」ということですが、確実に特盛くらいにお話を盛ってるものと思われます。

ベテランのガイさんの作品なので、全編普通に楽しい。問題は一番楽しくて気持ちよかったのが冒頭のパートだったというところです。あとナチスドイツ兵の命が紙切れよりも軽い。まあナッチだから仕方ないか…とは思いつつちょっとかわいそう。

 

☆『サイレントナイト』

ジョン・ウー久しぶりの公開作(そしてこちらは2年遅れ…)。ギャングに愛息を殺された男が決死の復讐に挑む物語。珍しいのは主人公が声帯をやられてしまったゆえか、全編ほぼセリフがないという。ただストーリーがこれ以上ないくらいどシンプル(よく言えばわかりやすく、悪くいえばよくある話)なので、言葉がなくても普通についていけます。

ジョン・ウーといえばグラサンにコートでキメキメの主人公が華麗に銃をぶっぱなし、ついでにハトも飛んだりする作風で知られてますが、この映画はあまりそういった「ウースタイル」が見かけられず、もっと泥臭く痛々しい仕上がりになってます。ウー監督ももう79才ということですが、そんなお年になってもこんなぎらついた映画が作れるのはすごい。

不満は去年の『モンキーマン』もそうですが、(白字反転)ラストで復讐を遂げたあとに自分も死んでしまうところ。多くの人を巻き込んだのだから彼もまた罪の報いを、ということなのかもしれませんが、可哀そうな目にあったんだから安らかな余生をあたえてあげましょうよ。

 

☆『アマチュア』

これまた主人公が組織に対し単身復讐を挑む話。本当に最近そういうの多いっすよね… ただ各作品さすがにその辺わかってるのか、自分たちなりの特色を打ち出そうとしています。この『アマチュア』の場合、ヒーローが腕っぷしはてんで弱いもののIQとIT技術が超人的で、計算とその場その場の機転でピンチを切り抜けていくところが痛快でした。

ほんでこの映画も『サイレントナイト』と同じく泥臭いところがあって、「みんなぶっ殺したるわー!」と息巻くものの、こないだまで一般人だった人間がいざ殺しに関わってしまうと、やはりとてつもない負担が胃に来る描写などありました。うん、そうよ… やっぱり復讐は何も産まないのね… でもフィクションでは割り切ってスカっとさわやかにやり遂げてほしいわ…

主演が『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレック氏だったせいか、この時期のアクション作品が興行的にどれもパッとしなかった中、この映画だけはそこそこヒットしました。

 

☆『プロフェッショナル』

ここんとこ主演のアクション作品がトマトで低スコアを連発していたリーアム・ニーソン。でもこの映画は久しぶりになかなかの高評価となっています。舞台はIRAの活動が盛んだったころのアイルランドの小さな村。殺し屋を引退して静かな生活を送ろうとしていた主人公。しかし村にテロリストのグループが隠れ住むようになったことから彼の望みに暗雲が垂れ込めて来ます。

この作品の特色は一応アクション映画ではあるものの、あえてカタルシスを弱めてある点。リーアムさんはベテランの殺し屋だけど決して無双な人ではないし、敵対するIRAの女リーダーもいかん人ではあるけれど、罪の意識や可哀そうな過去があったり。

色々とやるせない話ではあるのですが荒涼としつつも穏やかな村の風景や、幕切れがとても爽やかだったこともあって後味は良かったです。『ゲーム・オブ・スローンズ』でひどい役を演じていたジャック・グリーソン君が、こちらでもいけすかない主人公の同僚を役をやっているのですが、彼とリーアムさんの交流にもホロホロと泣かされました。

 

というわけで今月の「男がほぼ一人で組織に戦いを挑む系」の映画、お気に入り順に並べると プロフェッショナル>アマチュア>サイレントナイト となります。ほんでこのジャンル、来月も『Mr.ノボカイン』があり、公開未定のものも含むと『ザ・コンサルタント2』『Mr.ノーバディ2』『ワーキングマン』などが続きます。USAの人は本当にこういうの好きですね…

次回は『サンダーボルツ』『マインクラフト ザ・ムービー』『パディントン 失われた黄金郷の謎』『今日の空が、まだ一番好きと言えない僕は』『ミッション・インポッシブル ファイナル・レコニング』について書く予定です。

 

 

 

 

 

 

 

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May 11, 2025

2025年3月に観た映画

恒例の二ヶ月遅れの映画覚書。3月はアカデミー賞関連の映画ばかり観てました。

☆『ANORA アノーラ』

カンヌのパルムドールに加え、アカデミー監督・作品・主演女優他計五部門を受賞。しかしのっけからアダルティなお店の描写がグイっと入って来るので、家族連れにはまず向かない作品。

バカップルがはしゃぐ序盤、どんどん収拾がつかなくなっていく中盤、祭りがだんだん収束していく終盤にわかれていて、もちろん楽しいのは中盤のビッチさんとヤクザの用心棒みたいな連中が行く先々で騒動を巻き起こすあたり。ただバカ騒ぎでは終わらず人生の哀歓をしんみりと描く終盤あっての映画賞高評価でしょうか。

ショーン・ベイカー監督の前作『フロリダ・プロジェクト』もそうでしたが、あけっぴろげでも物悲しいヒロイン像は西原理恵子の『ぼくんち』などを思い出させます。

 

☆『名もなき者』

☆『ベターマン』

前者はボブ・ディランの若き日をつづった作品、後者はロビー・ウィリアムズが猿に扮して半生を語った映画。ノミネートはされたけど無冠に終わりました。

こういう実在のミュージシャンを題材にした作品ってだいたい流れが決まってて、無名のころの苦労→ブレイクして大スターに→サクセスしてしまったゆえの苦悩→一皮むけて成長するか死んじゃうか という感じでしょうか。この2作品は主人公がまだ存命なので明るい感じで終わってます。

『名もなき者』は監督・アーティストの特性のゆえか全体的に爽やかなムード。恩人たちや恋人との関係にほっこりしたり切なくなったり。ボブもそれなりにドラッグにふけってた時期があったそうですが、そこはスルー。『ベター・マン』の方は対照的にドラッグ描写がっつりでギラギラした仕上りになってます。

ひとつ疑問だったのは『ベター・マン』で両親・祖母へのリスペクトは満載なのに一緒に育ったというお姉さんに関しては全く触れられずその辺ちょっとひっかかりました。

 

☆『Flow』

長編アニメ部門受賞作。どうも人類が滅亡したっぽい世界で猫と仲間たち?のサバイバルな船旅が描かれます。こう書くと息詰まるアクション映画のようですが、キャラ達がのんきな上に美術があたたかなパステル調なので気を引き締めないと寝そうになります。画風は名作ゲーム『人食いの大鷲トリコ』とどことなく似てたり。

全編セリフがなく動物が喋ったりはしませんが、明らかに猫が猫を越えた行動を取ることもあり、その辺のリアリティラインが興味深かったです。

落ちはもしかするとバッドエンドを予期させるものとも解釈できますけど、自分はなんとなく作風からそれはないんじゃないか…と思ってます。

 

☆『教皇選挙』

偶然でいまめちゃくちゃタイムリーな映画になってしまった脚色賞受賞作…ということは原作があったのね(今気づいた。英国の小説だそうで)。スルー予定でしたが映像がとても美しいと聞いて見ることにしました。

タイトル通り教皇の座を巡る暗闘を題材にした作品。ただ候補たちがみなそれなりにお上品なおじいちゃんなので、流血沙汰とかにはなりません。それでもひねった謎・伏線がちりばめられていて、一風変わったミステリーのような趣があります。日本でも実際のコンクラーベより前から地道にヒットしてたのは、その辺に理由がありそう。

 

☆『ミッキー17』

こちらはアカデミー賞関係ないですけど、前作『パラサイト』でフィーバーしたポン・ジュノ待望の新作。ハリウッド製作で、荒廃した寒そうな世界を舞台にしたSF映画ということで『スノーピアサー』を思い出しますが、どっちかというとがっつり似てるのは『風の谷のナウシカ』だったり。

アメリカメインのキャストなせいか、あんなにくどめだったポン監督の個性がやや薄めになってしまったきらいはあります。それでも監督お得意のポカーンとさせられる必殺下ネタは健在でした。主人公が限りなく底辺の存在というところもそうかな。そんな最低辺のミッキーに美女が寄ってくるのが謎なんですけど、そこはやはりロバート・パティンソンだからでしょう。

ポン作品のラストはいつもいい意味でモヤモヤさせられるのに、こちらは割とすっきりさっぱりだったのはらしくなかったです。新境地でしょうか。

 

今年のアカデミー作品部門、DUNE2を別枠とするならその中で最もツボにはまったのはアノーラでしょうか。次いで教皇選挙、ブルータリストという感じ。

次回は『ファレル・ウィリアムス ピース・バイ・ピース』『アンジェントルメン』『サイレントナイト』『プロフェッショナル』『アマチュア』について書く予定です。

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May 01, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 4月編

☆第13回「お江戸揺るがす座頭金」

鳥山検校に身請けされた瀬川だったが、蔦重への思いを見抜かれ、次第に二人の関係はぎくしゃくしていく。その一方で盲人たちの組織による無法な高利貸しが問題となり、ついには幕府中枢にまでその影響が及ぶことに。

「べらぼう・闇金ウシジマくん編」。今回は蔦重の影が薄く、江戸時代における借金蟻地獄のえぐい様子が丹念に描かれます。別に贅沢してるわけでもないのにちょっとしたことがきっかけでいつの間にか膨大な返済を抱えてしまう… この辺この時代も現代もあまり変わりありませんね。あーやだやだ

「検校」という言葉、ちらちら時代もので耳にしてましたが、このドラマでやっと正確な意味を知りました。勝海舟の何代か前の人もそうだったとか。あと幕府が盲人を保護するようになったのは『どうする家康』の於愛の方につながると聞いて目が鱗。

 

☆第14回「蔦重瀬川夫婦道中」

座頭金が問題となり捕えられた鳥山検校と瀬川。だが瀬川はあっさりと釈放される。これで離縁がかなえば誰はばかることなく夫婦になれる。そんな夢を描く蔦重と瀬川だったが…

1回目から正ヒロインであった瀬川さん退場の回。借金が生んだ負の連鎖が語られる一方で、人を想う心の連鎖も描かれます。一億数千万払って身請けした女を、その幸せのためにあえて手放す検校。そして蔦重の夢のためにそっと姿を消す瀬川。ふううう… なんでこうなるの!!

何気にゲストのお奉行にベテラン声優井上和彦さんが登場。目をつぶってセリフを聞くと確かにSFヒーローの声でした。

 

☆第15回「死を呼ぶ手袋」

次代将軍と目されていた西の方・家基が狩りの最中突然の死を遂げる。田沼は陰謀の匂いを感じ源内にその真相を探らせるが…

タイトルからして横溝正史っぽい回。さすがは元金田一耕助だけあって源内より先に真相を見抜いた白眉毛様でしたが、まさか第二の被害者となってしまうとは… 反目してた田沼様とようやく和解できたかと思ったらこの展開。史実は非情です。

この回から名前だけは知ってた山東京伝が登場。こんなに軽い人だったの??

この回の『風雲児たち』ポイント:やっと出ましたの杉田玄白。前野良沢は出ないっぽい

 

☆第16回「さらば源内、見立は蓬莱」

田沼より捜査の打ち切りを命じられ、怒りをあらわにする源内。かねてより精神的に参っていたこともあり、源内はさらに常軌を逸した行動を取るようになる。それを陰謀の黒幕が見逃すはずはなかった。

唐丸の退場以来ベロベロ泣かされた回でございました。蔦重もこれまでにないくらい泣いてましたが、本当に彼は源内先生が大好きだったんですね… 先生の方は蔦重に対してはけっこう適当でしたが。須原屋市兵衛さんの「語り継いでいく。どこにも収まらねえ男がいたってことを」のセリフが胸を打ちます。源内先生こと安田顕さん、熱演お疲れ様でした。

この回の『風雲児たち』ポイント:源内が凶宅に移り住み、図面の件で腹を立て…というとこまでは一緒。その先が自分の罪ではなくハメられて、というのはドラマオリジナル。こんなドラマをつむげる森下先生はすごい。でも憎い。好き

 

ここで1週お休みを挟んで、「第1部完」的なムードが漂っておりました。全体の1/3が終わったわけで。第二部は田沼の没落に伴い寛政の改革に苦闘していく蔦重の姿が描かれていくと予想。引き続き期待しております。

 

 

 

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April 06, 2025

2025年2月に観た映画

恒例の2か月遅れ映画感想。2月はなんか戦ってる映画を多く観てました。

☆『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』

日本での上映館はそれほど多くないものの、熱心なファンの支持によりいまだに公開が続いている香港(中国)映画。

大陸からいい暮らしを求めて世紀末の香港に渡って来た青年が、貧民街「九龍城砦」で新たな家族を得てその場所を守るために戦うというあらすじ。

自分は「どこにも居場所がなくてさまよってた若者がやっと安住の地を得る」という話に弱いので、そこが特にツボにはまりました。でも香港はこの数年後に返還されいまはもうかなり様変わりしてしまった模様。かつて「中国」とはまた違う混沌と活気に満ちた「香港」という町があったんだな…なんてことを思い出し、おじさんは郷愁にひたってしまったのでした。

映画とともにひそかなブームを呼んでるのが劇中に登場する「叉焼飯」。そのうち中華街あたりで探して実際に賞味したいものです。

 

☆『アンダーニンジャ』

ヤングマガジン連載の人気コミックを妙なお笑いセンスで定評?のある福田雄一監督が映画化。令和になおも存続していた忍者組織の暗闘を描いた作品。

青年誌のバトル漫画を山崎賢人主演で実写化…となるとやはり『キングダム』や『ゴールデンカムイ』を思い出しますが、こちらはあんなにダイナミックな作風ではなく、アクションはあるもののムードはゆるく予算もそんなにかかってなさそう。一部では評判の悪い福田ギャグも自分は3割くらいの確率で笑わせてもらいました。ただお笑いの感覚って人それぞれなんで、合わなそうと思った方は避けてください。

ハイテク手裏剣とか透明スーツとか、現代に合わせてアレンジされて忍者ガジェットが面白かったです。

 

☆『野生の島のロズ』

本年度アカデミー賞アニメ長編部門にもノミネートされたドリームワークスのCG作品。万能お手伝いロボが飛行機事故で人間のいない島に落ち、そこで新たな家族を得てその場所を守るために…あれ?

原作はジュブナイルらしく、SFと童話が融合したような作風になっているのが独特。ロボが島の動物たちと普通に会話しながら絆をはぐくみ、侵略者に立ち向かうあたりは昔懐かしのアニメ『星の子チョビン』を思い出しました(あれはロボでなく宇宙人でしたが)。独特といえば洋画アニメにおける主人公ロボって大抵男性・少年属性なものですが、こちらの「ロズ」はCVがルピタ・ニョンゴ(吹替は綾瀬はるか)ということもあり女性属性であり「お母さん」なんですよね。その辺がなかなか目新しかったです。

明らかに「続編を待っててね!」という感じではなく「この後はみんなで想像してね」という幕切れも上品で好印象でした。

 

☆『キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド』

MCU最新作。ここのところ宇宙やマルチバースを扱うことが多かったMCUではひさしぶりに地に足のついた作品(主人公よく飛びますけど)。初代から盾と称号を受け継いだ二代目キャプテン・アメリカ=サム・ウィルソンが大統領を巡る陰謀に巻き込まれていきます。

どうしても大傑作『ウィンターソルジャー』と比べたくなってしまうのですが、サムはまだ伝説ではなくその途上にある男。既に伝説であるスティーブとは違い、これから成長していくわけで。同じようにBNWも前シリーズと比べないでこれはこれで温かく見守っていきたいと思います。

あと一応世界のリーダーたるアメリカが激情を制し対話で解決しなければ…というメッセージはやはり大事だと思いました。現実に怒りっぽそうな大統領が就任してしまっただけに。この辺は偶然シンクロしてしまったんでしょうけど。

 

☆『ブルータリスト』

本年度アカデミー賞長編部門ノミネート作品。ホロコーストを生き残ったユダヤ人の建築家が移住したアメリカで苦労したりスポンサーの富豪から歪んだ愛情をぶつけられてしまうというストーリー。

タイトルの「ブルータリスト」とは「文化的要素が低く無骨な意匠を建物の外観に多用する。建築資材の質感が強調された建築様式」の「ブルータリズム」から来ています。もっともらしい入場特典のせいもありてっきり実話かと思っていたら、これモデルは何名かあるものの巧妙なフィクションでした。そのいかにも本当にありそうな歴史秘話を作る才能に感服させられます。

全200分という長尺ながら休憩が15分あったせいか長さは苦痛ではなかったです。最近バトル系のわかりやすい映画ばかり観てたので、独特なストーリー運びに当惑させられつつ楽しみました。

監督さんは調べてみたら子供の頃から俳優としても活躍してて、あまりパッとしなかった人間版『サンダーバード』で主演つとめたりしてた方でした。何かのインタビューで「アカデミー賞にノミネートされても食えない監督はいっぱいいる。この映画も儲けはちょっと」みたいなことを言っててちょっぴり切ない気分になりました。

 

次回は『アノーラ』『名もなき者』『FLOW』『教皇選挙』『ベターマン』『ミッキー17』について書きます。

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March 30, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 3月編

☆第9回 「玉菊燈籠恋の地獄」

瀬川の身請けが決まりそう、という話を聞いてようやく彼女への恋心を意識する蔦重(おせーよ)。年季明けまでお互いを待とう…と秘かに約束を交わすが、やり手の松葉屋夫妻がそれを見逃すはずがなかった。

『べらぼう』ロマンス編の前編と言うか吉原地獄変。第1回以来がっつりと吉原がいかに「苦界」であるかか描かれており、五社英雄とか宮尾登美子が関わってそうなエピソードでありました。そんなきっつ~い地獄の後だからか、夢をあきらめた二人が本の感想に紛らせて別れを語るシーンがとてもさわやか。

モニターチェックの時?に「誰この妖怪ババアと思ったら自分だった」とコメントしてた水野美紀さんがおちゃめ

・足抜け失敗した新さんが切腹しかけて「あっ いて」とつぶやくのは、今までにない切腹描写でした。

この回の『機動戦士ガンダムジークアクス』ポイント:「間違いない… ありゃマブだよ!」

 

☆第10回 「『青楼美人』の見る夢は」

瀬川の身請けが確定。その卒業パレードの際に蔦重は豪華な錦絵本を作って彼女の旅立ちに花を添えようと決意する。

『べらぼう』ロマンス編の後編というか吉原夢幻編。史実によりますとこの時代鳥山検校という人がいて、瀬川という花魁を1億4千万相当の金で身請けしたことは確かなようで。その瀬川が錦絵本では書物を読んでる姿で載っている…この要素だけでこれだけのドラマをつむげる脚本家森下先生の才能に脱帽です。三谷幸喜先生が「大河ドラマは史実の間に『ドラマ』を作らなきゃいけない」みたいなことをおっしゃってましたが、まさにその言葉の通りだなあと。

先回鬼のようだった松葉屋主人が「本なら自分で渡せよ」と粋なところを見せます。人間ってやつは奥が深いですね。ラスト付近、朝焼けの吉原大通りをバックに、豪勢な衣装と華麗な足取りで行進していく瀬川=小芝風花さんがファンタジックで美しゅうございました。ただ彼女の物語はまだ終わらないようで。

 

☆第11回 「富本、仁義の馬面」

せっかく気合を入れて作った『青楼美人』ではあったが、高額のため売れ行きは伸びず。次の一手として蔦重は親方衆の意見も取り入れ、浄瑠璃のスター馬面太夫を吉原の「俄祭り」に招くことを企画する

今回のメインゲストは『鎌倉殿』の公暁こと寛一郎君が演じる馬面太夫。浄瑠璃の名手と言うのはこの時代の歌謡スターみたいなものだったようで。でも吉原の女郎たちはそれらのスターたちを噂でしか知ることができない。彼女たちに実際にその姿を拝ませてやろう、そんで吉原嫌いの馬面太夫の心もゲットしちゃおう…という蔦重の情と策士ぶりがみごとにフュージョンしておりました。

「男なら」「男ってもんだ」「男のすることか」と男の意義が問われた『魁‼男塾』的な回でありました。メイン忘八衆に反旗を翻す「若木屋」を演じる本宮泰風氏と山路和弘氏がにらみ合ってる図を観て特撮オタクとしては「ピーコックアンデッドと烏丸所長の再戦だ…!」と一人盛り上がってました。

この回の『風雲児たち』ポイント(久々):やっと出ましたのエレキテル

 

☆第12回 「俄(にわか)なる『明月余情』

俄祭り開催に向けて盛り上がる吉原。蔦重はその準備に奔走する間に朋誠堂喜三二という戯作者と出会い、彼に自分のところでも本を書いてくれるよう頼み込む。

第2回から画面の端々をうろちょろしてた尾美としのり。その正体がようやく明かされます。「吉原あげて…」の言葉に目を輝かせるも、義理人情のためその誘いをあきらめる姿が笑えて泣けました。

この回のクライマックスはピーコックアンデッド若木屋対チビノリダー大文字屋の100日耐久ダンスバトル。最後の最後にエールを交換して仲良くなるあたりは激闘の果てに友情が芽生える少年漫画みたいでした。そのさなかにそっと二人で姿を消すうつせみと新さん。「祭りは神隠しにつきもの」とうつせみを送り出す松ノ井ねえさんにホロリとさせられました。

ちょうど一昨日「100カメ」でこちらのメイキングが放映。いつになくかっこいい次郎兵衛兄さんを盛り立てようと演出を提案する流星君や、カムロ役の女の子がメイクされながら小芝風花への熱い推し愛を語る映像にほっこりしまくりでした。

この回の『風雲児たち』にはなかったポイント:『金金先生』を楽し気に読む定信君。この人はカチコチ真面目な印象がありますが意外にエンタメ好きな一面もあったそうで

 

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March 09, 2025

2025年1月に観た映画

ようやく今年の映画の覚書です。今年は去年以上に適当に行きます。

☆『はたらく細胞』

2年連続でウンコが漏れそうになる映画が年明けの1発目でした。そんなくだらない体内の細胞たちのドタバタと、後半の深刻な闘病ものとのギャップに当惑させられます。細胞たちの生命のサイクルが短いこともちゃんと描かれていて観終わったあと諸行無常的な気持ちになりました。こんなシュールで殺伐とした映画が興行収入60億突破ってすごい。

 

☆『ビーキーパー』

ジェイソン・ステイサム主演のアクション映画。定食屋でほっと落ち着く「そうそう、いつものこの味…」的な作品です。ジャンル的には「なめてた相手が殺人マシンだった」系になるのかもしれませんが、悪者がなめる間もなくサクサクバタバタやられてった印象でした。

それにしても昨年の『シビルウォー』、本作品、『キャプテン・アメリカBNW』と最近の映画界の米国大統領は人でなしのような輩ばかりで、ハリウッドの政治不信の濃さがうかがえます。これらト〇ンプさんが就任前に作られてるはずなんだけど

 

☆『カルキ 2898-AD』

珍しいインド初の本格SF映画。ただSFに普通に『ラーマーヤナ』の神様の生まれ変わりがバンバン出てくるあたりが、インドのお国柄と言うか信心深さを感じさせます。日本で例えるならガンダムに天照大神とかスサノオノミコトが出て来ちゃうようなものでしょうか。

2時間48分飽きずに観てられましたが、こんだけ付き合わされたにも関わらずすごくキリの悪い所で「続編につづく」となります。ま、想定内です。

 

☆『室町無頼』

応仁の乱直前の時代を舞台に室町幕府にケンカを売った無頼たちの物語。これまた先の時代劇映画『十一人の賊軍』『八犬伝』と同じく山田風太郎テイストを強く感じました。武芸の才に秀でながらあっけらかんとした明るい主人公像は山風描くところの柳生十兵衛を彷彿とさせます。これを演じるのが大泉洋氏なのですが、意外に悪くなかった。今までで一番かっこいい大泉だったのでは

 

☆『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』

話題沸騰のガンダム最新作。TV版の先行上映ということでスルーでいっかな…と思っていたのですが「すげえびっくりする。ネタバレ厳禁」という噂を聞いて気が変わりました。ガンダム映画ってそんなネタバレを気にしなきゃいけないものだっけ…と頭の中に「???」を抱えながら鑑賞に臨みましたが、うん、普通にたまげました。うじゃうじゃ続編が作られたガンダムシリーズですが、まだこんなやり方が残っていたか…と感心することしきり。小説にしろ映画にしろすぐれた「古典」というものは大胆に翻案されたりするもので、まさに『機動戦士ガンダム』第1作が「古典」になった瞬間に立ち会えた気がします。あとTV版の先行でありながら十分IMAX映えする映像だったのもよかった。

4月から本格的に地上波放映が始まるとのことで非常に楽しみです。つか、全部映画館でやってくれても一向にかまわないんだけど。

 

次回は『トワイライト・ウォリアーズ』『アンダーニンジャ』『野生の島のロズ』『キャプテン・アメリカBNW』『ブルータリスト』について書きます。

 

 

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March 01, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 2月編

☆第5回「蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)」

本屋たちへの仲間入りを拒否された蔦重は、なんとかして版元になる道をみつけようと奔走する。その裏で唐丸に近づく怪しい浪人の影があった。

蔦重のサイドキック…かと思われた唐丸が5話にしていったん退場。「何か隠してるだろ?」という蔦重の問いに何とも言えない表情をして「何もない」と答える唐丸。それを観ながら轟々と泣くワシ。なんだか大河ドラマというより山本周五郎の人情時代劇を観ているような気分でした。落ち込む蔦重を「楽しい想像をしようよ」と励ます花の井がまたよい。明らかに自分のせいじゃないのに「自分で高いもの買ったんでしょ」と言われて「うーん、オレなのかなあ」とつぶやいてる次郎兵衛兄さんがさらにまたよいです。

この回の『風雲児たち』ポイント:須原屋市兵衛来ました。『風雲児たち』ではぐるぐるメガネでしたが… 林子平も出るか?

 

☆第6回「鱗(うろこ)剥がれた『節用集』」

癪には触るが鱗形屋に頭を下げ、のれん分けをしてもらおうと企む蔦重。だが彼の下で働いているうちに犯罪の証拠を見つけてしまい…

この回は当時本の種類に「赤本」「青本」なるものがあったことを学びました。赤本は子供向けの絵本、青本は字主体だけど絵も入ってる物語。当時青本は人気がなく、面白いものをこさえようとストーリーを練る蔦重と鱗形屋のやり取りが、漫画雑誌の編集会議のようで本当に楽しそう。しかし鱗形屋は蔦重を食い物にすることしか考えてなく、因果応報的な顛末が彼を待っています。いやあ、この頃から海賊版ってあったんですね。

意外に早く再登場を果たした長谷川平蔵。カモ平から少しずつ鬼平にシフトしている様子がうかがえます。自分にとって良い結果になったにも関わらず、罪の意識を感じて浮かない蔦重。こういうこずるいところもあるけれど、人並みの良心も持ってる人物造形が身近で好感が持てます。

この回の『風雲児たち』ポイント:池に捨てられた佐野善左衛門の家系図。ああ…

 

☆第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」

鱗形屋不在を幸いとばかりに、本屋連中に自分の仲間入りを認めさせようとする蔦重。その条件として、「倍売れる売れる細見を作る」と大見得を切るが、果たしてその勝算やいかに。

前回は面白い娯楽本を考える話でしたが、今回は使いやすいガイドブックを作ろうとする話。それには持ちやすく、薄い本を…をとアイデアを絞る様子が面白い。それに付き合わされるのが源内先生のお弟子さんの新之助さん。何度も作り直しをお願いされてしまいにゃ相当キレてましたが、恋人に会うお金を工面するために耐えておられました。

あとこの回で爆笑したのは最初断ってたのに吉原への宴会をエサにされたらパタッと手の平を返すダチョウ俱楽部肥後さんとか、『鎌倉殿』でもジェラシーに身を焦がしてた芹澤興人さんとか。いつもよりお笑い要素50%増し、みたいな回でした。

そして怖かったのが鶴屋喜右衛門を演じる風間俊介君。顔は笑ってるんだけど目が笑ってない。失礼ながらサイコパス役とかけっこうはまりそうな気がします。

 

☆第8回「逆襲の『金々先生』」

軽装版細見の評判は上々で、蔦重にもいよいよ本屋の仲間入りの道が開けてくる。だがその道の前に本屋のリーダーである鶴屋喜右衛門と、意外とあっさり帰ってきた鱗形屋がたちはだかる。

最初「絆の強い兄妹」みたいな関係なのかな…と思っていた蔦重と花の井(瀬川)ですけど、花の井の方はガッツリ蔦重のことが好きだったようで。そんな思いも知らずに「金持ちに身請けされるといいな」とのたまう蔦重に綾瀬はるかはじめ全国の視聴者が「馬鹿! ニブチン!!」とつっこんだ回でした。ただ花の井は蔦重のああいう博愛主義的なところに惹かれたんじゃないかな…とも。

1話では親方衆から階段落としを喰らっていた蔦重。ところがこの回では蔦重との約束を反故にした鶴屋が階段落としを喰らいます。いつの間にか忘八たちから一目置かれていた重三郎。そんな立場の変転が印象に残りました。もうひとつ印象深かったのは金貸しなのに気配だけで相手の感情を察する武闘家のような検校(演:市原隼人)。『鎌倉殿』からの共通キャストもこれで4人目くらいかな

鱗形屋が出した青本の進化系「金々先生」は、後に「黄表紙」と呼ばれるものの先駆けだそうで。「金八先生」ってここから名前取ったのかな?とも考えたのですが、さすがに関係ないようです。

 

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February 09, 2025

2024年12月に観た映画を振り返る

今頃暮れの映画について振り返ります。通常ペースに戻ったということですね。

☆『ザ・バイクライダーズ』

同名の写真集からインスパイアされた1960年代のバイカー集団の盛衰を描いた物語。まぎれもないフィクションなんですが、メンバーがめちゃくちゃ実際にいそうな人だったり、その死にざまがあっけなかったりといかにも本当にあったような話になっております。

自分このジェフ・ニコルズ監督の『MUD』という作品が好きだったんですけど、優し気なジュブナイルだったそちらと比べると、こちらはビターで感傷を突き放すような仕上りになっておりました。走り出したら止まらないような、オースティン・バトラー演じる主人公が強烈。彼のにやけ顔を背景にしたタイトルバックが特に印象に残りました。

 

☆『ロボット・ドリームズ』

俺は涙を流さない ロボットだから マシンだから だけどわかるぜ 燃える友情 君と一緒に 夏を待つ

同名のコミックを元に作られたアニメ映画。ポスターを見ててっきりロボが犬を飼う話かと思ったら逆だったという… 全編ほぼセリフなしで、そんな一匹と一台の切ない擦れ違いが語られていきます。ハッピーとはいいがたいけど、決してバッドでもない独特の後味が胸に残ります。

自分この監督の作品で残酷版『白雪姫』とも言える『ブランカニエベス』という映画も見たことあるのですが、こちらはそちらに比べると意地悪さはそのままに暖かさを増したような作りになっておりました。

特に「あるある」と思ったのはドッグとダックとのくだり。これでけっこう仲良くなったかな?と思い、実際気まずくなることがあったわけでもないけど、相手の方は…みたいな。ふう。人生はビターですね。

 

☆『クレイブン・ザ・ハンター』

スパイダーマンの出てこないソニーのスパイダーマン・ユニバース最新作にして最終作。ロシアン・マフィアのボンボンに生まれたクレイブン君が野性に目覚めちゃって悪人ハンターになるものの、最愛の弟が抗争に巻き込まれたりド悪人の父との関係に悩んだり…というお話。

自分はぬるい映画ファンなのでSSU6作品、どれも普通に面白かったんですよね。本作品もアーロン・テイラー・ジョンソンが体を張ってアクションをがんばってましたし。でもこの「どれも普通」というのがよくなかったのかもしれない。1、2本くらいは大傑作がないと。それでもダークユニバースに比べれば頑張ったよな…と、クレイヴン父役のラッセル・クロウを見ながら思いました。また10年後くらいにソニーのアメコミ映画総決算…みたいな映画が作られたらクレイヴンやモービウスとも再会できるやもしれません。

 

☆『モアナと伝説の海2』

あの冒険から数年後、外界との接触を探し求め続けてたモアナは、それを阻もうとする邪神から狙われることに。モアナは島の仲間とマウイと共に試練に立ち向かう。

いや、よく出来た続編でしたがもうだいぶ忘れてる… 加齢っていやね… 辛うじて覚えてるいいところは、前作で悪役だったココナッツの妖精みたいなやつがかわいくてがんばっててフィギュアが欲しくなったりとか。あとやっぱり巨大な怪獣とか海が大荒れしてる映像はCGアニメの大家ディズニーだけあって大層な迫力でした。

世界でも日本でもかなり売れたそうで、そんだけ子供たちから評価されてるということなのでしょう。わたしが観てた時近くの席でちびっこが「マウイかっこいいねー!」とはしゃいでいたのがかわいかったです。

 

☆『ソニック×シャドウ TOKYO MISSION』

ソニックの映画シリーズも早くも3作目。長年秘密研究所に囚われていた謎の宇宙生命体シャドウと、我らがソニックチームが対決。それと並行してミスター・ロボトニック親子とロボトニック助手の愛憎劇が繰り広げられていきます。

相変わらずソニックたちはぬいぐるみみたいだし、ロボトニックのギャグがいちいち脱力するほどくだらないのですが、シャドウの悲しい過去と暴走を反省するソニックの姿に泣かされてしまいました。自分の情緒も大概おかしいと思います。

ただモアナにもソニックにも最近のそういう作品全般に言いたいのは、最後に「戦いはこれからだぞ♪」的なエンドロール後のオマケを出すのはいい加減やめましょう。続きがいつ見られるかとか、そもそも無事作られるのかとかわかんないんだからさ!!! ソニックとモアナはけっこうヒットしたようなので大丈夫な気はしますが。

 

次回は『はたらく細胞』『ビー・キーパー』『カルキ』『機動戦士ガンダム ジークアクス』『室町無頼』について書く予定。

 

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February 02, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 1月編

前から期待はしてましたが、始まってみると予想を越えてべらぼうに面白い大河ドラマ『べらぼう』。加えて『風雲児たち』ファンには見逃せないところも色々あり、3年ぶりに大河レビューを再開いたします。果たして完走できるでしょうか。

☆第1回 ありがた山の寒がらす

吉原大火から始まる第1回(吉原はよく燃えたらしい)。彼の地の案内所で働く青年蔦谷重三郎は、かつて世話になった元花魁が困窮の果てに亡くなったことに衝撃を受け、吉原に勢いを取り戻すために知恵を絞る。

恐らく登場時で22才ほどの蔦重。彼は決して長生きした方ではないんですが、さらに幼少時を回想3分で消化するというストロングスタイル。

この回のキーパーソンはやはり時の老中田沼意次。渡辺謙氏が演じているゆえイメージよりややかっこいい感じですが、賄賂も受け取りつつ私欲よりも国益を優先させているやり手の政治家として描かれていました。あと先走った蔦重が親分から喰らった「桶伏せ」の刑が面白かったです。

この回の『風雲児たち』ポイント:明和9年は「迷惑」に通じる

 

☆第2回 吉原細見『嗚呼 御江戸』

吉原に客を呼ぶにはガイドブック「細見」をいいものにすること、と思いついた蔦重は、人気作家平賀源内に序文を書いてもらおうと考える。だが平賀源内はなかなか見つからない。

平賀源内という人間の面白さがとりわけ印象に残る回。正体を隠して蔦重を翻弄するあたり時代劇の『暴れん坊将軍』か『水戸黄門』のよう。男色一筋だった、というのは知りませんでした。かつての恋人を思い目をうるませる姿にはホロリとさせられたり。

1回目から出てる鬼平は池波正太郎版よりちゃらい感じ。ひいきの花魁に気に入られるためにお金をばらまく姿は現代の配信者への「投げ銭」とよく似てます(スパチャって言うの?)

この回の『風雲児たち』ポイント:コマーシャルソングの先駆け「漱石香」の歌

 

☆第3回 千客万来『一目千本』

来客があったため冒頭12分ほど見逃し。江戸城内で権力をめぐる暗闘があったっぽい。

細見は良い出来だったが、いまひとつ吉原への客足が伸びない。文章だけでなく絵を載せたら…と蔦重は思いつく

人気の女郎たちをそれぞれ花に見立てるというアイデアはキャラに属性をあてはめるカードゲームのよう。苦労が多いのにみんなで理想の本を作るのがめちゃくちゃ楽しそうなあたりは同人誌作りのようでした。自分同人誌作ったことないけど。

今の蔦重が必死になってるのは、吉原に客を呼んで食うにもこと欠く女郎たちを食わせること。ただ彼が後世に名を馳せているのは吉原の大店の主としてではなく、写楽や八犬伝を世に送り出した本屋さんとして。自分のやり方に限界を感じ方向転換をすることになるのか?…は見続けてみないとわかりません。

鬼平はお金が尽きたのでいったん退場。名実共に「鬼平」となって再登場か。

 

☆第4回 『雛形若菜』の甘い罠

『一目千本』が大当たりし、ひとまず吉原に活気が戻る。親方衆は次なる一手として錦絵を載せた本を出せば勢いが続くのでは…と考え、その出版を蔦重に丸投げする。

冒頭で忘八の親方衆がなぜかみんな猫を抱えてニャアニャア言ってたりして、何を見せられてるんだ…とは思いましたがかわいかったからよし。そしてこの回では猫が大事な下絵を台無しにしてしまうという猫あるあるな現象も描かれます。ここで発揮されたのが蔦重のサイドキック唐丸のスーパー模写パワー。のちの写楽はこの子で確定でしょうか。

版元になる夢を抱くも組合の掟に阻まれ手柄を横取りされてしまう蔦重。西村まさ彦が西村屋をやってるのはスタッフのギャグでしょうか。

この回の『風雲児たち』ポイント:『放屁論』と『解体新書』。「田安家を絶やすけ」

 

老眼に鞭打ってまた一年がんばろうと思います。

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December 30, 2024

2024年、この映画がアレだ!!

当ブログもいつのまにか始めて丸20年が経ってしまいました。最初の記事を書いたころに生まれた子がもう成人してるわけです。本当に俺は何をやってるんだろう…

ま、気を取り直して本年の映画ベストを考えます。まずはワースト、リバイバルから

☆ワースト部門:該当作なし

今年はめでたいことにれといってワーストと言える映画が思い当たりませんでした。わけわからん映画とか、あまりにもな低予算がにじみ出てる映画はありましたが、憎いとか腹が立つというほどのものはなく。まあわたしの心は元々宇宙より広いんで。

 

☆リバイバル部門 『名探偵ホームズ』

宮崎駿氏がまだいまほどメジャーじゃないころ作った「犬版」ホームズ。やっぱりもっと元気のあるうちに、こういう毒にも薬にもならないハチャメチャな冒険活劇をたくさん作って欲しかった。『この世界の片隅に』の片渕須直氏もけっこうがっつり関わっておられますね。次点に『男女残酷物語 サソリ決戦』

ではいよいよベスト発表。まずははっきり良かったけど惜しくもランク外となった13作品。

・ゴールデンカムイ

・カラオケ行こ!

・アーガイル

・リンダはチキンがたべたい!

・異人たち

・マッドマックス フュリオサ

・猿の惑星 キングダム

・潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断

・フォールガイ

・エイリアン ロムルス

・シビル・ウォー アメリカ最後の日

・ザ・バイクライダーズ

・クレイヴン・ザ・ハンター

 

続きましてベスト20、一気にガーッと参ります

第20位 『碁盤斬り』 大晦日に観返したくなる映画

第19位 『マダム・ウェブ』 主演が「出るんじゃなかった」とか言ってましたが、そういうこと言うなよな 

第18位 『ゼーガペインSTA』 えんたんぐる!! プラモ買いました

第17位 『侍タイムスリッパ―』 つい「タイムストリッパ―」と読んでしまう。いけないわ

第16位 『ラストマイル』 ア〇ゾンで買い物がしにくくなってしまった

第15位 『最後の乗客』 「カレンの復興カレンダー」とかあったね…

第14位 『十一人の賊軍』 白石和彌監督2本目。『仮面ライダーBLACK SUN』とはなんだったのか

第13位 『ロボット・ドリームズ』 バーディヤー これも一種の異類婚姻譚か

第12位 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ』 人は誰も寂しがり屋さん

第11位 『機動戦士ガンダムSEED FREECDOM』 結局ズゴックが全部もっていった気がする

第10位 『グラディエイターⅡ』 デンゼルさんがマッコールさんだったら勝ってた。あぶなかった

第9位 『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』 「つまらないけど嫌いになれない。むしろ好き」 とさんざん言われた映画。みんなひねてるなあ

第8位 『ルックバック』 漫画家残酷物語。『シャークキック』ってやっぱり『チェンソーマン』みたいな作品なんですかね

第7位 『クワイエット・プレイスDAY1』 久々の「泣けるホラー」の大傑作。猫も大活躍

第6位 『デューン 砂の惑星 PART2』 無事完結…とはならなかった。本年度IMAX映え大賞

第5位 『サユリ』 久々の「燃えるホラー」。霊に拳を。人には愛を

第4位 『コヴェナント 約束の救出』 ガイ・リッチーっぽくないけどガイ・リッチー最高傑作。つくづく『リボルバー』とはなんだったのか

第3位 『アイアンクロ―』 おじさんなのでこういうあまりにも悲しすぎるお話に漂う暖かさ・優しさに本当に弱い

第2位 『デッドプール&ウルヴァリン』 監督とライアン・ゴズリングの人脈により集められた超豪華メンバーが織り成すアメコミ・スラップスティック。わたしの青春の思い出となりつつある20世紀FOX版X-MEN。ずっと忘れないよ… たぶん

そして栄えある第1位は

☆『鬼平犯科帳 血闘』

でございました。これ脚本的にちょっと苦しいところもあるんですけど(原作の問題か?)今年一番泣かされてしまった映画なのでどうしようもないのです。興行的にアレだったのがまた泣ける。『侍タイムスリッパ―』の後だったらもう少し売れたのだろうか。来年は大河ドラマにも「鬼平」が出るらしいですが。

 

駆け足でしたが本年度マイベスト映画でございました。来年もMCU版ファンタスティック・フォーやアバター3,スーパーマンにJUNK HEAD続編、ポン・ジュノの新作など色々楽しみです。それでは皆様良いお年を

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December 28, 2024

第21回SGA屋漫画文化賞

この線香花火より存在感の薄い漫画賞、もう21回目なんですよね… なんというか、こう、アレですよね…

気を取り直していきましょう。仕事納めでヘロヘロで風呂入って酔っぱらいですが、がんばって書けるだけ書きたいと思います。

2024年わたしが読んで特に励まされた・感銘を受けた漫画作品に与えられる「SGA屋漫画文化賞」。例によって賞金も賞品もありません。

まずここ数年の間ずっとわたしの支えとなってくれている3作品をまとめて

 

●常連部門

萩原天晴・上原求・新井和也 『1日外出録ハンチョウ』

コージィ城倉(原案:ちばあきお)『キャプテン2』

☆丸山恭右 『TSYYOSHI 誰も勝てない、アイツには』

去年とまーーーーったく変わらないラインナップですね。今年も辛い時苦しい時癒しとなってくれてどうもありがとうございました。終わってしまったら確実に生きる気力が数%失われてしまうので、永遠に終わらないでほしい。つか、わたしが死んでから終わってください。

今年『キャプテン2』では実に『プレイボール』連載開始から51年かけてとうとう墨谷高校が甲子園出場を果たしました。本当におめでとうございます。

 

●ヒューマン部門

☆鍋倉夫 『路傍のフジイ』

旧Twitterというか現Xのプロモで流れてきて、つい気になって全話読んでしまった作品。主人公フジイ君は多く人から「つまらないやつ」と思われております。自分もつい誰かことを「退屈な人だ」と思ってしまうことがあります。でもそれはその人いいところがわかってないだけでは? そして自分はそんなことが言えるほど面白い人間なのか? そもそも人の真の価値は「面白い・つまらない」で測れるものなのか…とこの漫画を読んでると色々考えてしまいます。ことしを代表するクリエイターである横槍メンゴ先生・吉田恵里香先生も絶賛されてました。

 

●グルメ部門

☆久部緑郎・河合単 『らーめん再遊記』

わたしこのシリーズの前作である『らーめん才遊記』も全部読んだですが、そちらは本当に良くも悪くも「ふつーに面白い漫画」という印象でした。ところが続編のこの作品は明らかに前作よりもべら棒に面白い。それはたぶん自分がゆとりちゃんのように夢や希望にあふれたキラキラした若者ではなく、今作の主人公芹沢のような少し人生に疲れたおっさんだから…だと思います。彼のような才能や人脈はないですけれど(髪はある)。ねじりん棒のようにひねくれまくった芹沢が縁もゆかりもなかった人たちとつかの間触れ合い、ささやかな笑顔と共に別れていく。そんなストーリー構成はまさしくラーメン・ハードボイルドと言えるかもしれません。

 

●スポーツ部門

☆蒼井ミハル 『クレイジーラン』

『明日私は誰かのカノジョ』が終了し、『TSUYOSHI』くらいしか読むものがないな…と思っていた「サイコミ」で突然グン!と存在感を増してきた陸上漫画。陸上ってそもそも漫画の題材にするのが難しそうなスポーツ(思い浮かぶのが『スプリンター』と『奈緒子』くらいしかない)ですが、団体競技である「駅伝」にスポットをあてることによって一癖も二癖もあるキャラたちの群像劇として『ちはやふる』や『帯をギュッとね!』みたいな痛快作に仕上がってます。どっちかというとずっとギャグ>燃えみたいなムードでしたが、最新エピソードである競技大会のくだりは嘘のような盛り上がりというか燃え上がりを見せてくれました。経験者による解説もいちいち興味深いです。

 

●新星部門

☆葉月セン 『一月の白魔』

このブログも旧Twitterもそれなりに長くやっておりますが、フォロイーさんが連載を始められて単行本が世に出る…という体験をしたのは初めてでございました。

太宰治を彷彿とさせるペシミスティックな世界観と、柔らかく繊細、かつスッと突き刺さりそうな画風が見事にマッチ。つぶやきのひょうひょうとした先生の人柄からは想像もつかない人間の暗部がまざまざと描き出されていて、それがまた意外すぎて興味深い。この辺ちょっと山岸涼子先生と似たところも感じられました。

寒い夜コタツでぬくぬくしながら、しんしんとした恐怖を味わいなおしたい1作でございます。

 

●アニメ部門

☆大張正己 『勇気爆発バーンブレイバーン』

今年は年明けからこいつのインパクトに思いっきりやられてしまい、そして結局この衝撃を越えるアニメがなかったというね… さんざん視聴者を当惑させておきながら1クールですっぱり終わり、我々を置いてけぼりにしていったひどい作品でございました。でも勇気をありがとう、イサミ。そしてブレイバーン。バンバンババンバババババババ ブレイバー―――――ーン!!! (間奏) この星の嘆く声を聞(略)

 

●大賞

☆芥見下々 『呪術廻戦』

『僕のヒーローアカデミア』『推しの子』とメガヒット作が次々と完結していった2024年。異論はありましょうが、その中で一番見事なクライマックスを描ききったのが本作品かと思います。絶対的な拠り所であった師匠の死→絶望的な状況から綱渡り的に繰り出される「奥の手」の数々→「最強」を手に入れながら「最悪の敵」に慈悲を忘れない主人公… といった大河バトルのお手本のような幕引きでした。この漫画は『鬼滅』と違ってまた続編なりスピンオフなど作れそうですけどね。

それにしてもこう次々とビッグタイトルが終了してしまうと、今後の漫画界の隆盛がちと心配です。次なる人気作が生まれればいい話ですが、空いた穴がちょっと大きいなあ…

 

ネガティブな締めになってしまいましたが、来年もまた良い漫画に巡り合えますように~

 

 

 

 

 

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December 22, 2024

2024年11月に観た映画

年の瀬ですなあ… 11月に観た映画のまとめ記事です。

☆『ヴェノム ザ・ラストダンス』

スパイダーマンの出てこないソニーのスパイダーマンユニバース第五作にして、『ヴェノム』シリーズの完結編。シンビオートの創造主であり最大の敵であるヌルが覚醒。その追っ手を振り払うべくヴェノムとエディは東海岸まで旅に出る。

思ったのですが、このシリーズってアメコミの中でもとりわけ藤子不二雄作品に近いところがあります。エディというのはいいおっさんでありながら、いまだにちゃんとした大人になりきれてない男。ファンとしては一人と一匹の愉快な活躍をいつまでも観ていたいところですが、少年が一人前になるためにはいつかはドラえもんなりオバQなりとお別れしなくてはいけないのです。

といいつつも今回の映画のヴェノムはよくできたキャラだったのでお別れはやっぱり寂しいし、このまま退場はもったいない。またそのうち復活してくれることを望みます(そういうことを言ってるからいつまで経っても自分はこどおじなのでしょうか)

 

☆『十一人の賊軍』

☆『八犬伝』

時代劇を2本まとめて。両者とも2時間半の大作でしたが、あまり長さは気になりませんでした。

前者は幕末の新発田藩で起きたあるエピソードを膨らませ、捨て石とされた身分の低い者たちが決死の作戦に挑む姿を描いた作品。この決死隊の戦いが上り調子の時はまことに観ていて痛快なのですが、後半になると話が「こうなりませんように…」という方へどんどん進んでいきます。

ですので鑑賞直後はやや微妙な気持ちだったのですが、よく考えたらこれわたしの好きな山田風太郎の黄金パターンでございました。権力者のいいように利用された者たちが、最後に人としての誇りを見せて一矢報いて散っていく。そしてあるかなしかの小さな希望を残していく。それを思い出したらなんか「これはこれでいいか」という気分になりました。いい加減なものです。

 

後者はもとから山田風太郎原作。有名な『八犬伝』のダイジェストと曲亭馬琴の半生がザッピングしながら語られていきます。原典を読むのがハードルが高いのでいまいち全貌を知らなかった『八犬伝』ですが、この映画のおかげで大体どういう話かわかりました。

こちらで山風テイストを感じたのは馬琴を鶴屋南北や渡辺崋山といった、当時の著名人とすれ違わせるあたり。特に「悪」「リアリズム」を重んじる南北との対話にはワクワクドキドキしました。悲惨なニュースばかりで気が滅入るこのご時世に、ニチアサヒーロータイムが存在する意義とは…を問うた作品でもあります。

 

☆『グラディエイターⅡ 英雄を呼ぶ声』

2000年の名作『グラディエイター』の実に24年ぶりの続編。数奇な運命に弄ばれた前作主人公マキシマスの息子が、父同様剣闘士としてローマに戻ってくるお話。なんというか作中のキャラ達も作り手の心情も本当にみんなマキシマス大好きなのね…ということがビンビン伝わってくる映画。脚本的にはローマ憎しだった主人公がコロッとローマ立て直しに転じたり、ラスボスであるデンゼルワシントンの行動に疑問を感じたりと、ひっかかるところが幾つかあるのですが、あのエンヤみたいな前作の主題曲を流されてしまうと強引に感動させられてしまうというか。適当なものです。

あとやっぱり剣闘士の映画ってなかなかないのであるだけ貴重です。

 

☆『最後の乗客』

『侍タイムトリッパ―』の好演で注目されてる冨家ノリマサ氏が、やはり異常な状況に巻き込まれて…という内容。世界の映画祭で幾つも賞を取っているということで全編55分というのに固定料金1600円というストロングスタイル(夏の『ルックバック』を思い出します)。果たしてその価値はあるか…と思いながら鑑賞に臨みましたが、料金以上の価値がありました。

このブログ基本感想を書く時はほぼほぼネタバレでやっていますが、この映画に関しては内容には触れないことにします。興味を持たれた方は観る機会が訪れた時にご自分の目で確かめてください。

 

☆『リトル・ワンダーズ』

最近のアメリカ映画なのにどこか一昔前のヨーロッパ映画のような雰囲気が漂う作品。子供ながら欲しいもののためには手段を選ばない「不死身のワニ団」の3人は、手に入れようとした玉子を先取りした男からそれを奪うことを計画。しかし男はプロの犯罪者集団の一員だった…という物語。ある種の児童文学と言えないこともないですが、とにかく主人公の少年たちの行動が教育的に悪すぎる。ですので児童向けというより、悪ガキの活躍が好きな大人向けの作品です。

年端もいかない子供たちが銃を扱う大人集団を敵に回すのでちょっとだけハラハラするのですが、全体的にゆるいムードなので「そうひどいことにはならんだろう」という安心感がありました。本年度まったりうっかり大賞をさしあげます。

 

12月の映画感想は年間の漫画ベスト・映画ベストを書いたのちに上げます。

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