May 15, 2019

中華で一番! 原泰久・佐藤信介 『キングダム』

Sga2 9年前から当ブログで推していた一大歴史コミックが、とうとう映画化となりました。ちょっとおっかなびっくりでしたが、こりゃ観に行かないわけにはいかんでしょう!! というわけで『キングダム』ご紹介します。

時は紀元前の中国春秋戦国時代。秦国の奴隷の少年・信と漂は貧しい身分から抜け出して剣で出世するため、日々二人で武術の稽古に励んでいた。ある日都の貴族の目に止まった漂はその才能を見込まれ、王宮に使えることになる。一人残された信はくじけず下働きと修行を続けていたが、そんな彼の元に都にいるはずの漂が血まみれで転がり込んで来る。それをきっかけに信は秦国を揺るがす騒乱へと巻き込まれることになるのだが…

というわけでこれは「秦の始皇帝」を題材にした物語でございます。始皇帝・嬴政といえば世界史的には超メジャーな人物でありますが、その苛烈な政策などからどちらかといえば悪役として扱われることがほとんどのような。またお話の主人公としてはその死後台頭してきた項羽と劉邦の方がよっぽど務める数が多い気がします。始皇帝がどのようにして青春時代を過ごし、やがて中華統一を成し遂げたか…ということはあまり知られていないのでは。『キングダム』はその辺にスポットをあてた作品となっています。

ただ主人公を務めるのは始皇帝ではなく、彼に仕える信という少年。後の「李信将軍」であることはまちがいないのですが。これまた紀元前ゆえに謎が多い人物です。『キングダム』はそんな未知の部分が多いのをいいことに、存分に空想の翼を広げた一大活劇となっております。まあぶっちゃけやがて嬴政が列強を打ち破って中華を統一するのはわかりきっているわけですけど、それでも読んでいてハラハラさせられますし、毎週続きが気になって仕方ありません。ここから原泰久先生のストーリーテーリング力がなみなみならぬものであることがうかがえます。

ちなみに原作は現在54巻を数えていて、ぼちぼち全体の6割くらいはいったかな…というところw 映画版はその本当の序章となる5巻までを扱っております。映画版でまず感じたのはその予告編 の出来のよさ。原作ファンとしてはその映像の美しさと叙情性に心打たれて公開前から何べんも何べんも繰り返し見ておりました。こりゃ今までの日本映画の殻を破るような大傑作になるかも…と期待していたのですが、ふたをあけてみたらよくも悪くも日本映画らしい仕上がりとなっておりましたw そんなわけで非常に泥くさい部分も多いんですが、やっぱり若い子たちがボロボロの姿で一生懸命やってる姿を見てるとおじさんとしては胸が熱くなってしまうわけです。特に原作より際立っていたのは信と漂の絆の部分。お話の大切なところで必ず信は漂を思い浮かべるんですが、そういうのずるいぞ!と思いながら鼻水をずるずるとすすっておりました。

信と政の間柄が徐々に変わっていくあたりも感慨深いものがありました。最初は「殺してやる」「利用するだけだ」と言い合っていた二人ですが、苦楽を共にするうちにいつしか双方にとって大切な存在となり、クライマックスで「まちわびたぞ」「おれがついていく」と言葉をかける場面はなんとも言えんものがありました。このあたりがあまりに気持ちよかったので先日二回目を観に行ってしまったほどです。さらに大沢たかお、橋本環奈、長澤まさみといった面々もキャスティングを知った時は「?」と思いましたが、それぞれ原作のキャラを生かしつつ独自の存在感を出していて大変良うございました。また、アクション面では『アイアムア・ヒーロー』『いぬやしき』ほかの佐藤信介監督が本領を発揮し、特に主演の山崎健人君とラスボス坂口拓氏の対決では息をのむほどのチャンバラを展開しております。

最近少年・青年漫画原作の映画が次々と映画化されていますが、正直『銀魂』以外はどれもぱっとした成績をおさめていなくて、今回の『キングダム』も心配しておりました。ところが『コナン』や『アベンジャーズ』といった強豪の下で現在35億という興行収入を達成しております。佐藤監督も山崎君もこれまでで最大のヒット作となったのではないでしょうか。好調の要因は「中国の時代劇」という題材が中高年にもとっつきやすかったことと、やっぱり原作のヒットが示すように元のお話が普遍的に面白いものだったから…と考えております。

はやくも続編の声を望む声が上がっている『キングダム』ですけど、大長編ゆえに次はどこまでやるかが難しそう。とりあえず連載も負けずに引き続きもりあがってくれることを望みます。あと30巻くらいかな…??

 

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May 13, 2019

北欧テレホンショッキング グスタフ・モーラー 『THE GUILTY/ギルティ』

アンデルセンとデニッシュの国、デンマークよりえらくとがったサスペンス映画がやってまいりました。本日はロッテントマトにおいて99%をたたき出したその『THE GUILTY/ギルティ』をご紹介します。

深夜の警察の緊急コールセンター。とある事情でそこにいやいやながら勤めているアスガーは、任期も終わりに近づいた時一人の女性から助けを求める電話を受ける。何者かに誘拐されているらしい彼女を助けるため、アスガーは知恵を絞って各方面に連絡するのだが…

この映画の特色はなんといっても主人公が「建物のその階から1歩も外に出ない」というところにあります。他の登場人物はコールセンターの同僚らと、電話で声しか聞こえない人たちだけです。そんなわけでストーリーはもっぱら電話のやり取りだけですすんでいきます。

こういうスタイル、ほぼパソコンの画面だけで進行していた昨年の『search/サーチ』 を思い出させます。しかし時間が飛ばされたり主人公がしょっちゅう外に出ていたそちらと比べると、 『ギルティ』の方はさらに限定的です。普通なら我慢できず現場に急行するんじゃないか?というところでもアスガーは持ち場を離れません。理由のひとつはやはり感情的になって外に飛び出すよりも、そこで電話を受けたりかけたりしたほうが対象を助けられる可能性が高いから…ということがあげられます。そしてもうひとつは監督の「おれは意地でもこのスタイルを貫くから!」というこだわりゆえでしょう(推測ですが)。

そうしたコンセプトから連想したのはミステリーの「叙述トリック」という型式。文章だけなのを逆手に取って読者をひっかけるタイプの小説です。目で色々背景がわかってしまう映画では不可能な方式だろう…と思っていましたが、「声しか聞こえない」という状況を用意することで限りなく「叙述トリックの映像化」に近いものを作り上げていたと思います。

あと舞台がほぼ固定されていて二三の部屋を出入りするだけ…という設定は非常に演劇にもむいてそうです。演劇と違うのは頻繁に主役の顔が大写しになってその焦燥や苦悩が伝わりやすいことですね。で、この主演の方、まあまあ整った顔立ちをしてるんですが「美しすぎる」というほどでもない、長時間の大画面アップにちょうどいい顔面力でございました。くどすぎず、ずっと落ち着いて見られるルックスというか。日本で言うなら誰にあたるか… うーん、おもいつかない。

そんな風に映画の作りは大変面白いのですが、ストーリーの内容はけっこう重苦しかったりして。「国民の幸福度」が世界ランキングでかなり上の方のデンマークですが、抱える悩みの量や重さ、種類は日本の我々とさほど変わらないのでは?と思ったり。出身監督で有名な人と言えばほかにラース・フォン・トリアーやニコラス・ウィンディング・レフンといったダークな方たちでありますし… お隣のスウェーデンでも『ミレニアム』とか『ぼくのエリ』とかありましたしね…

もうおおむね公開終了してしまった『ギルティ』ですが、世界での好評を受けて早くもハリウッドでのリメイクが決まっているとのこと。主演はジェイク・ギレンホールだそうで。ちょっとオリジナルと比べると顔が濃いように感じられますが、評判がよかったらそっちも観てみるつもりです。

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May 08, 2019

ビリー・バットソンと魔法の呪文 デヴィッド・F・サンドバーグ 『シャザム!』

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現在マーベル・シネマティック・ユニバースの総決算である『アベンジャーズ/エンドゲーム』が絶賛公開中ですが、その一週前に封切られて地道にがんばっているもう一本のアメコミ映画があります。本日はそんな健気な『シャザム!』をご紹介します。

幼いころ母親と生き別れた少年ビリーは、里親に引き取られては脱走を繰り返し、実の母を必死で探していた。ある時新しい里親の元で共に暮らしている少年をいじめっ子からかばったビリーは、彼らから逃げる途中不思議な洞窟のような空間にワープしてしまう。その空間の主である老魔術師シャザムは自身の能力を受け継ぎ、邪悪な闇の勢力と戦うようビリーに申し渡す。言われるがまま魔術師の名を唱えた途端、ビリーはモリモリマッチョの超人へと変身。新たな「シャザム」が誕生した瞬間であった。

シャザムが世に出たのは第二次大戦勃発の翌年の1940年。フォーセットという今は亡き出版社から発行されておりました。当初は「キャプテン・マーベル」という名前で、「シャザム」はビリー少年が超人に変身する時の呪文でありました。漫画の読者と同じ年頃の少年がスーパーヒーローとして活躍するこのコミックは大変な人気を呼び、一時期は元祖アメコミヒーローのスーパーマンと人気を二分したほど。しかしその人気をDCからやっかまれたキャプテン・マーベルは「変身後がスーパーマンに微妙に似てる→パクリだ」と訴えられてしまいます。その後廃刊になったり、DCに権利が買い取られたり、MARVELが同じ名前の「キャプテン・マーベル」というヒーローを作って商標登録したために本のタイトルに自身の名が使えなくなったり、DCの名だたるヒーローたちの活躍のためだいぶ影が薄くなったり、もうこの際まぎらわしいんでヒーロー名も「シャザム」ということにしちまおうとなったり… ま、そんな様々な苦労を積み重ねて今日に至っております。

それがともかくこのヒーローの最大の特長はやはり中身は普通の子供であること。親を失って放浪生活を送っていた…というあたりはディケンズの小説か世界名作劇場を彷彿とさせます。実際初期は名作劇場の主人公よろしく不幸な境遇でも明るさと正義感を失わない、みんなのお手本のような少年でした。それが最近ではやや現実的になり、リニューアルの際に喧嘩や悪さも上等的な、やや斜に構えた性格に変更されてしまいました。それでも根の部分には弱者を見捨てないヒーローらしい性分を抱えているので「シャザム」として選ばれるわけですが。こうした設定はこの度の映画化にも影響を与えております。というか、映画版ではえらくお笑い要素がギュウギュウに詰め込まれていてちょっとびっくりしました。ある評者は「DC版デッドプール」と例えたほど。シャザムと言えば一応正統派ヒーロー…というイメージがあったので少々面喰いましたが、普通に考えればリアル十代の遊びたい盛りの少年がスーパーパワーを得たら、こんな風にいたずらしたい放題のはしゃぎ放題になるでしょう。あと他のDCヒーローのいじりネタがいちいち痛快だったので「もうこれでいいや」という気になりました。

とはいえこの映画はおふざけだけでなく、ビリー少年がなぜヒーローたりえるのか、ヴィランはなぜヴィランになったのか…というアメコミにおいて重要な主題もきっちり描いています。またアメコミものにしてはけっこうきつい真実がビリーを待ち受けていたりもします。そんな彼の助けとなるのが里親のバスケス夫妻と同じ境遇の養兄弟たち。性格も年もバラバラですけど、決して押しつけがましくなくビリーのために奮闘してくれます。この辺のほっこりした描写は実の兄弟の話ではありましたが『ひとつ屋根の下』とか『てんとう虫の歌』(古いなあ…)を思い出したりしました。

そんなわけで大ヒット作の影に隠れてる感じではありますが、ここんとこのアメコミ映画と比べて同様のハイレベルを維持している本作品、興味があるのに観そびれているならぜひ公開中に映画館に行ってほしゅうございます。かかってるのたぶんあと二週くらいなので… DCフィルムズユニバースの次なる作品は来年2月に本国公開予定の『バーズ・オブ・プレイ』。『バットマン』に登場する女性キャラチームの活躍が描かれます。DCサイドもここんとこ一定の質を保っているのでこの調子でがんばってくださいー

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May 07, 2019

離島猫歩き ねこまき・岩合光昭 『ねことじいちゃん』

十連休も終わり、ほぼ二週間ぶりの更新です。うほっ 本日は猫カメラマン(他の動物も)の第一人者岩合光昭先生が映画監督としてデビューを飾られた『ねことじいちゃん』をご紹介いたします。

猫と漁師と老人の多いとある島で。元教員の大吉さんは飼い猫のタマと共に、周りの人々と触れ合いながら悠々自適の日々を過ごしていた。しかし島の人々の高齢化と人口の減少はそんな大吉さんたちの暮らしにも次第に影を落としていく。離れて暮らす大吉さんの息子は父親を心配し、都会で共に暮らそうと持ちかけるのだが…

…なんか暗い感じのあらすじになってしまいましたが、全体的にのんびりまったりした映画です。だってこの映画のメインとなるのは島のそこかしこをうろちょろしてる猫なんですから。大画面にいっぱいに写るごく普通の猫と、館内に響き渡るゴロゴロ音… お好きな方にはたまりません。

監督の岩合先生の猫を撮る力は疑いようもございません。BSの『世界ネコ歩き』を観てもわかるようにまったく猫に警戒されずに撮影をされています。どころか猫の方からそっちに寄ってきたりする。体がマタタビで出来てんじゃないか?と思うほどの猫吸引力です。ただ猫は撮れても人間も出てくる普通の映画は作れるのか…というと未知数です。しかしまあその点は優秀なスタッフに恵まれたのか(失礼)、一応人間ドラマとしても完成された作品になっていました。出演者・柴咲コウさんの「監督は猫ばかりに集中していて人間の方はおざなりだった」なんてコメントもありましたが。

猫吸引力といえば主演の立川志の輔氏も大したもの。タマちゃんが本当に自然に氏に寄り添っていて、前かがみになった背中にポンと乗ったりする。もっともこれはもう一方の主演である猫のベーコンさんの演技力に負うところも大きいかもしれません。これまでにTVドラマ「ようこそ、わが家へ」、映画『ねこあつめの家』、太陽生命CM「かけつけ隊サービス『太陽生命が大切にするもの』」篇などに出演おられるそうです。いずれにしてもそんな一人と一匹のアンサンブルが大変見事でした。

そういえば先日30日は平成の終わりだけでなく、当ブログもにぎわしてくれたモンさんの二周忌でございました。仰向けに寝てるとおなかにポンと乗ってきたモンさんの感触を思い出しながらこの文章を書いてました。体重もなかなかだっただけに、あれは苦しゅうございました(笑)20070531183006_1thumb1

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April 24, 2019

トランスフォーマー・ハチの大冒険 トラヴィス・ナイト 『バンブルビー』

Bbb 「火薬のメガ盛り」と言われた劇場版『トランスフォーマー』シリーズ。しかし爆発量にも限界が見えたのか、ここにきて急にスイーツ路線に転換。果たしてこのバクチうまくいくのか…?? 『バンブルビー』紹介します。

遠い宇宙のセイバートロン星では、機械生命体がふたつの勢力に分かれて争っていた。正義の集団オートボットは劣勢になり、体制を立て直すべく銀河の各地に散る。場所は変わって80年代の地球。実の父を失い、家族の中で孤独を感じている少女チャーリーはいきつけのスクラップ屋でぼろいビートルを見つける。強引にそれをゆずりうけたチャーリーは修理しようと張り切るが、それはオートボットの戦士バンブルビーが擬態した姿だった。

今回「違うな」と思った点のひとつはまずストーリー。これまでのTFは予告ではすごくシリアスさをあおって実際はおちゃらけムード…というパターンでしたが、『バンブルビー』はちゃんと予告通りでした。孤独な少女と宿無しの動物のハートフルなお話になっておりました。この辺はやはり家族を恋しがる少年の物語であった『KUBO』の監督(トラビス・ナイト)だなあと思いました。

もうひとつ違ってたのはアクションのスタイル。マイケル・ベイの作品では大体終盤までダラダラと戦い続け、終盤で急にオプティマスが本気出して勝つという流れがほとんどでした。この度はバンブルビーの元が乗用車ということを生かして頭を使ったバトルを色々見せてくれました。まあ常識的に考えて自動車が戦闘機や軍用ヘリにパワー勝負でかなうわきゃないんですよね。そこで機転を利かしてピンチをすり抜けていく描写が大変見事でありました。

デザインも少々変わってましたかね。ベイ版では画素がやたら多く細部がガチャガチャしていたロボットたちが、今回はぐっとシンプルにおもちゃをそのまま巨大化させたようなビジュアルになっておりました。これがビー君のかわいさをさらに際立たせておりました。敵ロボットは容赦なくズタズタのバラバラにするくせに、キュートな少女の前では子犬のように甘えるビー君。はっきり言ってあざとい。でもまあかわいいんで許します。

個人的にテンションが上がったのは冒頭のセイバートロン星での乱戦シーン。情報参謀サウンドウェーブの胸からばびょーんとカセットが飛び出して動物に変形するあのギミック、子供のころ大好きだったんですよ。戦術的に何か利点があるのかというと全くわからないのですが、面白いからいいんです。たぶんこの映画が80年代を舞台にしてるのはまだカセットテープが幅を利かせてる時代だったからでは。サウンドウェーブの出番、ちょびっとだけでしたけどね… 彼も現代ではCDプレイヤー型に進化したりしてるのでしょうか。

冗談はさておき、この映画なんで80年代が背景となってるのでしょう。旧TFの前日談という位置づけにするためでしょうか。それにしては1作目と矛盾する部分も少々あるような。実際この映画、これまでのプリクゥエルなのか、リブートなのかということでファンの間では意見が別れているようです。ただアニメ・コミックのトランスフォーマーはどっからどこまでがつながっててどこまでがパラレルなのかさっぱりわからない状態なので、映画の方も「どっちでもいい」という解釈でいいんじゃないですかね。煮え切らない性分の自分はそんな風に思うのでした。

ちなみに『バンブルビー』は映画TFシリーズでいまのところ最低の売上だったりします。丁寧でいい作品なんだが… が予算もこれまでの6割くらいなため、辛うじてプチ黒字にはなってはいるようですが。果たしてTFシリーズはこの先どこにいくのでしょう。できれば現在のスイーツ路線でがんばっていってほしいものです。

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April 23, 2019

二段ソファの逆襲 マイク・ミッチェル 『レゴRムービー2』

Lgm1thumb1 すべては最高~ みんないいかんじ~♪ あのC調の曲とともにさえないミニフィグのエメット君が帰ってまいりました。つぶつぶの世界の冒険を描くシリーズ最新作『レゴRムービー2』、紹介します。第1作の感想はこちら

冒険の末にお仕事社長と感動的な和解を果たしたエメットたち。だが直後にデュプロ星人の猛攻を受け、レゴシティは壊滅。完全にマッドマックス状態になってしまう。それから数年後ひと段落した街に再び宇宙から奇妙な客がやってくる。わがまま女王の使者と名乗るその来訪者は、女王の結婚式に招くためと言って強引にエメットの仲間たちを連れ去ってしまう。大事な友達を救うためエメットも後を追って宇宙へ飛び出すのだが…

えーー、今回は最初からネタバレ全開で…

第1作から実に5年後。もっとはやく作れなかったのか?と思いましたが、おそらく間を空けた理由はスピンオフの企画があったのと、お子様の成長に合わせて…ということもあったのかもしれません。エメットの魅力とはなんぞや。それは純真で誰にでも優しくてアホなことばっかり考えているということです。実在の人物でいうと林家木久扇師匠がかなり近いと思われます。前作の実写パートの坊やフィン君もまさしくそんなエメットのようなお子様でした。しかし子供の成長は早いもので、5年の間に坊やは自分が男子であることを意識するようになり、かつて自分を叱ったお仕事大王のようなポジションにおさまってしまっています。そんなフィン君の心の変化がレゴ世界に深刻な影響を及ぼしていきます。とはいえかつての無邪気な部分も彼の中にはちゃんと残っていて、それが世界崩壊を防ぐ希望にもなっているわけです。

この度エメット君の敵?になるのは正体不明の「わがまま女王」(まあ大体想像つくけれど)。ご本人は不定形で素っ頓狂でありますが、仕える者たちやご住まいはいちいちキュートだったりキラキラしていて主人公たちを翻弄します。なにより恐ろしいのはそのルビドコ療法のような音楽テロ攻撃。無限に繰り返される「この歌あたまにこびりつくよ♪」というメロディと歌詞が客の脳をあっという間に侵食していきます。最初に観てからほぼひと月たってようやくわたしの耳からもあの曲が消滅した気がします。この歌頭にこびりつくよ、この歌頭にこびりつくよ… ハッ!! youtubeにはこの曲が10時間ぶっ続けで流れる動画もあるとのことなので、我こそはという方はぜひチャレンジされてください。この辺のラリリ具合はやはりフィル・ロード&クリス・ミラー製作であります。キッズ映画と言えどもトリップ描写には手を抜かない。まったく恐ろしいやつらです。

もう一人新顔で印象深いのはエメットの助っ人として現れるレックス・デンジャーベスト。カウボーイであり、宇宙海賊であり、恐竜の調教師でもあり… まあ中の人クリス・プラットの人気キャラを無理やり一つに詰め合わせたようなやつです。で、ここでまた容易に正体に想像がついてしまいます(笑) わたしが『2』で特に笑ったシーンが彼のタイムスリップのシーンで、とりわけ泣かされたのが同じくタイムパラドックスのくだりでした。後者は最近『仮面ライダービルド』で良く似たエピソードがありまして。ああいう風にひねてたやつが微笑みながらさわやかに退場していく話に弱いんです。

「今度こそ終わり」と言われてしまった『レゴムービー2』。果たしてさらなる展開はあるのでしょうか(『レゴバットマン』の続編企画が進行中という噂は聞きましたが)。もし仮に3が出来たとしても『トイストーリー3』ように「いい年してレゴで遊ぶのはやめよう」…という話にはならないでしょうね。あのうちはお父さんですらレゴに熱中してたわけですから。これからも幾つになってもレゴ・おもちゃで遊び続ける「いい大人」でありたいです。 

1作に十分ひけをとらなかった本作品。しかし日本では大幅にスクリーンを減らされ、多くの劇場では明日終了だそうです。未見の人、まだ間に合います! 『アベンジャーズ/エンドゲーム』にすべてが呑み込まれる前にこちらもぜひご覧ください!

 

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April 17, 2019

国民の暴走性 スパイク・リー 『ブラック・クランズマン』

今年のアカデミー賞関連の話題もこれが最後かな。本日は黒人系の映画で『ブラックパンサー』『グリーンブック』と火花を散らした『ブラック・クランズマン』をご紹介いたします。

1970年、アメリカ中南部のコロラドスプリング市では差別問題に抗議する黒人の党派「ブラックパンサー」が熱心に活動していた。それに対し、白人至上主義を掲げる結社KKKも彼らの台頭を良しとせずなんらかのアクションを起こそうと計画を練っていた。市で初の黒人警官となったロン・ストールワースは手柄を立てるため、白人警官のフリップと組んでKKK内部に潜入しようと試みるのだが…

監督は熱い人柄で知られるスパイク・リー。自分実は彼の作品は『セントアンナの奇跡』くらいしか観てないのですけど、『マルコムX』を撮ってたり、先のオスカー授賞式で『グリーンブック』が受賞してたことを怒ってたと聞いたので、こちらも人種差別に対する煮えたぎるような憤怒がほとばしった映画かと予想してました。が、実際に鑑賞してみますと本編の8割くらいはなかなかにユーモラスというかお笑いムードに包まれていたりして。実際にあった事件を元にしているにもかかわらずです。

まず黒人の刑事が電話対応だけ担当して、白人刑事をKKKに潜入させるという作戦が人を食っております。どこまで事実に即しているかは謎ですが、白人と黒人の発音の違いをていねいに指摘するシーンなどはコントの台本そのまんまでした。またあえて滑稽に描いてるんでしょうけどKKKの構成員や活動がいちいち幼稚だったり珍妙だったりするのには度々苦笑させられました。

主人公二人のロン(デンゼル・ワシントンの息子)とフリップ(アダム・ドライバー)もそれなりに差別を経験してて、真剣にやってるとは思うのですがなんでかぼーっとした空気を常にまとっております。

さらに作品にゆるい雰囲気をもたらしてるのが画面をゆきかうアフロヘア―の数々。正直こんなにアフロ大行進の映画は初めて観ました。当時は政治的立場を主張した攻撃的なヘアスタイルだったんでしょうけど、やはり他では喜劇くらいでしか見ないので、どうしても笑いがこみあげてきてしまったのでした。

ただですね… 以下ラストまで大体ばらしているのでご了承ください。

わたくし鑑賞する前にツイッターなどで「衝撃の結末」「最後に観客をぶんなぐってくる」という評判を聞いてまして、さんざん笑わせてくれた後にショッキングな展開が待ってるのかな…と身構えておりました。一番予想できるのはやっぱり主人公に残酷な死が訪れるというものです。実際予備知識なしで観るとそれを匂わせてエピローグへ…という風に取れなくもない。ですが後で調べてみたらこれロンさんが最近になって出版した体験談が原作のですね。とりあえず彼が死んでなくてようございました。代わりにスパイクさんが突きつけてくるのは今なお米国で激しさを増している人種間の憎悪。ここで突然昔々のお話がわたしたちの時代とそう変わりないことを思い知らされます。なるほど、こういうメッセージを抱えながらこの映画を作っていたとしたら、やはり『グリーンブック』にはぬるさを感じたとしても仕方ないでしょう。でも『グリーンブック』だってそれなりに現実の厳しさを訴えていましたし、ああいう人種問題に希望をもたらしてくれる映画もまた必要ではないでしょうか。

ですから『グリーンブック』と『ブラック・クランズマン』両方観ることがバランス的にちょうどいいんじゃないかな…と思いました。日本では『グリーンブック』ばかりが売れてますがね…

ちなみにわたしがこの映画を観ようと思った動機のひとつは「アダム・ドライバーが出ているから」というものでした。先ほども少し書きましたけど、彼、見てくれは悪くないのになんかそこにいるだけで名状しがたいおかしみのようなものを感じさせてくれるんですよね。引き続きスターウォーズやジム・ジャームッシュ監督のゾンビ・コメディでも活躍するようなのでそちらも楽しみです。

 

 

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April 10, 2019

マイルドスピード/ゆる~いミッション クリント・イーストウッド 『運び屋』

イーストウッド、実に10年ぶりの監督&主演作。御年88歳にしてまたもや剛腕ぶりを見せつけてくれました。『運び屋』、ご紹介します。

園芸課の老人アールは商売に行き詰っていたところ、孫娘の知人から運び屋の仕事を紹介される。単純な仕事の割に高額な報酬が払われることをいぶかしんだアールは、やがて自分が運んでいるものが麻薬であったことを知る。しかし金に困っている家族や友人のため、彼は危険なブツを安全運転で運び続けるのであった。

ここのところを「本当にあった話」ばかり撮り続けていたイーストウッド。今回もまた実際にあった出来事を題材としております。wikiによりますと80代でマフィアの運び屋として名を馳せた退役軍人の園芸家レオ・シャープという人がモデルとのこと。育てていた花がデイリリーというとこまで一緒ですが、「実話を元にした」ではなく「実話に着想を得た」となってましたので、家族とのあれこれやマフィアとのやりとりなんかはかなり創作してるのではと思います。

そんな風にフィクションの割合が高かったり同じ年代の人物を演じていたりするせいか、今回はいつもよりさらに主役に自分を重ねているように感じられました。『ハドソン川の奇跡』にせよ『アメリカン・スナイパー』にせよ『15時17分、パリ行き』にせよ登場人物に対して距離をとった俯瞰的な視点でお話が語られていましたが、『運び屋』では本当に主人公に入り込んだ目線でストーリーが進んで行きます。最近の作品もどれも非常にひきこまれましたが、やっぱりイーストウッドの映画はイーストウッドが主演してる方が面白いように感じられます。そういう作り手と登場人物が同化してる映画の方が主人公に感情移入しやすいですからね。

そう、もしアールと同じ立場に立たされたらどうしよう?と考えずにはいられません。自分は相当要領の悪い人間なので犯罪に手を染めたら速攻で逮捕されるのは容易に想像がつきます。でもどうしにもお金が必要な時に「ちょいと車で運んでもらうだけだから」と言われたら心がぐらぐら揺れてしまいそう。いや、小心者なんで結局はやらないとは思いますけどね… 

あとこの作品、意外だったのが、近年のイーストウッド作品の中ではかなりユーモラスであったということ。普通車で犯罪をする映画と聞けば激しいカーチェイスが繰り広げられるんだろうな~とか思います(『ベイビードライバー』とか『ワイルドスピード』とかね)が、アールさんはご老体だけあって大変安全運転でした。だからこそ警察の目をかいくぐれるわけですけど、急がなきゃいけない時でものんびりしてるので、お目付け役のマフィアなんかは相当キリキリ来るわけです。「このジジイぶっころそうかなー」とまで考えてたりする。ですがじいちゃんと一緒に行動をしているうちにいつのまにかのんびりペースに巻き込まれてしまい、親しい間柄になってしまったり(笑)。この辺は先の『グリーンブック』や漫画『一日外出録ハンチョウ』の大槻&宮本にも通じるものがありました。マフィアのボスもそれなりに悪人なはずなのにやけにアールに親切だったりします。

しかしやってることはやっぱり犯罪ですし、雇い主は凶悪な麻薬カルテルなので、いつかは破局が訪れるわけなのです。

老いてからのイーストウッド主演作は「反省」をテーマとしていることが多いですが、今回もそうでした。もう米寿なんだから「若いころのことはええやん」と水に流しても良さそうなもんですが、年を経ても変わらず反省し続ける。ちょっと前のトランプ支持発言には「???」でしたが、そういうところは見習いたいものです。とりあえず闊達な姿が久しぶりにスクリーンで拝めてよかったです。いつまでもお元気で~

 

 

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April 08, 2019

ゴッドファーザーの島の少女 ファビア・グラッサドニア アントニオ・ピアッツァ 『シシリアン・ゴースト・ストーリー』

1990年代のイタリア・シチリア島。まだ中学生のジュゼッペとルナはお互いにほのかな恋心を抱いていた。だがある日ジュゼッペは忽然と姿を消してしまう。彼の父がマフィアの情報を警察に密告したために拉致されたらしい…と知ったルナは、ジュゼッペを救おうと手を尽くすが十代の少女に出来ることはあまりにも少なく…

都心のシネマカリテなどで上映されてた作品が数ヶ月遅れでこちらでも公開されたので先日鑑賞してきました。シチリアといえば少し前『アクアマン』でも出てきましたが風光明媚な観光地である一方で、マフィアを多く輩出してるというダークな土地柄でもあります。わたしが観ようと思った動機は主に予告にあった「ギレルモ・デル・トロを彷彿とさせる」という文句。確かにどこまでが現実でどこまでが夢かわからないストーリー運びや、薄暗い幻想的な映像、センチメンタリズムと残酷さが入り混じったカラーはギレルモさんと通ずるものがありました。ただ映像に酔いしれるには、あまりにお話が重すぎてつらかったです。ルナに関するあれこれは完全に創作だと思うのですが、これ、一応現実にあった事件に着想を得て製作された映画なのですね。最後の最後に事件の顛末を短く言い表した一文が出てくるのですが、これがまたズシーンと来ます。おそらく監督さんもこの事件を知った時、同じように深いショックに打ちのめされたのでしょう。この作品はマフィアにさらわれた哀れな少年に魂だけでもなんとか救われてほしい…そんな悲痛な願いから作られた気がしてなりません。

特に印象に残った映像がふたつありました。ひとつはジュゼッペが残したおもちゃのフィギュアを抱きしめてルナがむせび泣く場面。そのフィギュアが『ドラゴンボール』の悟空だった(あちらで人気があるのでしょう)のでなんだか日本人としては妙にシュールに感じてしまいました。

もうひとつはルナと親友の女の子が谷を隔てて夜にモールス信号を送りあってるところ。ひたすら陰惨なお話の中で、山間の少女たちの素朴な友情が微笑ましく、ほっこりさせてくれる大変貴重なシーンでございました。

それにしても先の『ア・ゴースト・ストーリー』といい、昔の『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『ゴースト NYの幻』といい、「ゴースト」と着くとおどろおどろしいはずの心霊話が切なげなラブストーリーになってしまうのはなぜなんでしょう。一応『ゴースト・エージェント』も(ただし『ゴーストバスターズ』は例外です)。不思議だわ…とそんなことを考えているとついオネエ言葉になってしまうのでした。おっさんなのに…

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April 03, 2019

モヒカン姉さんとモフモフ猫さん アンナ・ボーデン&ライアン・フレック 『キャプテン・マーベル』

Photo_1いよいよ今月末マーベル・シネマティック・ユニバース11年の総決算たる『アベンジャーズ/エンドゲーム』が封切られます。はあ、もうどうなっちゃうんでしょう… すーはーすーはーぜーはーぜーはー と、その前にもう一本重要なファクターとなるであろう作品が公開されています。90年代を舞台としたMCU初の女性単独主演作品『キャプテン・マーベル』ご紹介します。

勇猛な戦闘種族として宇宙に名を轟かせている軍事国家クリー。その兵士であるヴァースは記憶がないことに悩みつつも宿敵のスクラル人との戦いに身を投じていた。ある任務の途中スクラルに捕まった彼女は、なんとか脱出し銀河の辺境にある星に逃げ延びる。そこで彼女はその星…地球の風景に見覚えがあることにきづく。果たしてヴァースと地球にはいかなる関わりがあるのか。

『キャプテン・マーベル』が最初に書かれたのは1960年代(DCにも同名のヒーローがおりますがそれについて説明するとややこしくなるのでカット)。地球人に扮したクリーの戦士マー・ベルが正義のヒーローとしてそう名乗っていたのでした。が、彼はわりかし早々と死亡。恋人のキャロル・ダンバースがその能力を受け継ぎ、「ミズ・マーベルという名で活躍するようになります。その後本当にいろいろあって現在ではキャロルが「キャプテン・マーベル」の称号を継承しております。

わたしがアメコミを読み始めたころ、彼女はX-MENのローグに力を吸い取られてずっと寝たきりでありました。さらに魔界の王子様に洗脳されて地獄に嫁がされたり、自分の名がタイトルになってる冊子がながいこと途絶えたまんまだったり… そんな風に「不幸」「不遇」というイメージが強いキャラでありました。どうもマーベルはこういうスーパーマン的な万能ヒーローをひねくったりもてあましたりする傾向があります。しかし2000年代に入り髪型や服装がガラッとボーイッシュになると人気が急上昇。主役タイトルが復活し、さらには単独映画まで製作されることになりました。

スーパーヒロイン映画としては一昨年『ワンダーウーマン』がありましたが、あちらを「姐さん」とするならば今回のキャロルは「兄貴」という感じでありました。もちろん容姿やハンデを背負わされてるところは紛れもなく女性なのですが、何度逆境にあっても立ち上がりどんな強敵にもひるまないあたりはまさに王道的なアメコミヒーローであります。というか最近のヒーローはむしろウダウダと悩んでることの方が多いか…? 周りの男たちも彼女を対等の人間として扱い、友情はあっても恋愛感情は全然ないあたりも多くのヒロインと一線を画しております。

アメコミファンとして嬉しかったのは今回はじめて「スクラル」が登場したこと。マーベルコミックスではクリー、スクラル、シャイアの3帝国が宇宙における3大勢力とされております(ただしシャイアはX-MENと関わりが深いためこの度はオミット)。このスクラル、自在に容姿を変えられるという能力があるせいかコミックでは極めつけの悪役としてよく登場しております。そんな色物的宇宙人を『ローグワン』『レディプレイヤー1』で悪役としてならしたベン・メンデルソーンさんがほぼメイクしっぱなしで演じられていたのですが、これが大変すばらしかったです。

あとなんといってもこの映画のもうひとつの魅力は猫のグースちゃん。これまでアメコミ映画では猫系のキャラとしてキャットウーマンやブラックパンサーなどがおりましたが、彼らはやっぱり人間ですし。しかしグースちゃんはどっからどう見ても猫。地球の存亡がかかっているその時に猫がいったいどうやってお話にからむのか??? その辺はぜひご自分で確かめていただきとうございます。いやあ、しかし本当にかわいかったな~~~ そういえばキャロル役のブリ―・ラーソンさんは幼少時『セーラームーン』が好きだったとのこと。月野うさぎの傍らにもマスコット的な猫がいましたが、こういう偶然面白いですね。

そして当然のごとくキャロルさんはすぐ次の『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも登場なさいます。彼女の力を得てアベンジャーズたちは絶対神となったサノスに立ち向かうことが可能となるのか。ああ~もう~ すっはすっはすっは あと23日こんな風に過呼吸を繰り返しながら待たねばならないのでしょうか。あたしもう我慢できない!!

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April 02, 2019

大いなるキャラには多くの分身が伴う ボブ・ペルシケッティほか 『スパイダーマン/スパイダーバース』

Photo Photo 本年度アカデミー作品部門受賞作品の次は長編アニメ部門をゲットした映画について語ります。長年のディズニー独占にくさびを打ったそのタイトルは『スパイダ―マン/スパイダーバース』。例によってあらすじから。

蜘蛛の力を持つ超人「スパイダーマン」が活躍する世界。彼にあこがれている少年マイルズ・モラレスは遺伝子操作された蜘蛛に噛まれたことにより、その世界における二番目のスパイダーマンになってしまう。さらにある悪漢が自分の願望をかなえるため次元を操作する実験を行ったことから、様々な時空のスパイダーマンがマイルズの世界に転送されてしまう。

映画ファンにとってスパイダーマンといえばまず思い出すのはピーター・パーカーでしょう。しかし誕生して58年、このキャラにはたくさんのバリエーションが作られ続けてきたのでございました。わたしも最初に触れたのは東映が作った特撮版だったし。アメコミヒーロー数あれど、ここまで幅広くアレンジされまくったのは他にバットマンくらいしかいないのでは。

マイルズ・モラレス君もそうした傍流のスパイダーマンの1人。2000年代マーベルは一見さんが入りやすくするため、それまでのユニバースとは別の、一から設定を刷新した「アルティメット・バース」という世界を立ち上げました。このアルテイメット・バース、従来のマーベルとの差別化のためか、ヒーローのエゴが強烈だったり重要な人物が突然無残に死んだりなどきついストーリー運びで話題を呼びました。小学館プロダクションから出てる『アルティメッツ』という作品を実際に読んでいただけるかと思います。

スパイダーマンも例外ではなく、アルテイメット世界ではピーターがある事件で命を落とすというショッキングな展開を迎えます。普通ならすぐ生き返りそうなものなのに、本当に完全に死んでしまいました。その後を継いだのが『スパイダーバース』主人公のマイルズ・モラレス君だったというわけ。スパイダーマンの映画も幾つも作られ、ファンもそろそろ飽きが来そうなところへなかなかうまいところへ目を付けたと思いました。

この映画ではそれだけにとどまらず、さらにスパイディの歴史から様々なヘンテコキャラを呼び寄せております。正史では悲劇の死を迎えたヒロインが蜘蛛のスーツをまとっているスパイダーグウェン。戦前ハードボイルド風の世界からやってきたスパイダーマン・ノワール。美少女とロボットのコンビであるペニー・パーカー&SP//dr 。動物アニメの中から抜け出たブタ風のスパイダーハムなどなど。正直ペニーやノワールはアメコミファンを自称するわたしも存在を知りませんでした… ノワールは白黒のグラフィックノベル調、ペニーは日本のアニメ風、ハムはバッグズバニーのようなカートゥーンタッチと様々な画風のキャラを無理やり同画面に収めてるあたり大したカオスであります。でもめちゃくちゃ楽しい。

そして忘れちゃいけないのがこの映画オリジナルかと思われる中年スパイダーマン、ピーター・B・パーカー。ヒーロー稼業の孤独に耐えかねて堕落し(といっても不摂生を重ねているだけ)、おなかがボヨンと膨らんでしまった情けないキャラ。それだからこそ体型も含めてものすごく共感できてしまいえろうつろうございました。

そんな挫折ばかりだったおっさんヒーローが不安と戦いながら前に進もうとするマイルズ君と出会い、お互い励ましあいながら共に成長していくという。映像的実験を果敢に繰り返すだけでなく、こんなしっかりした人間ドラマをつむいでるところもオスカー審査員の琴線に触れたのではないしょうか。いつもラリッてるような作品ばかり世に送り出してるフィル・ロード&クリス・ミラーにしてはずいぶん健康的で生真面目でありました。やればできるのね… ラリッた映画も好きですけど。

ちなみにフィル&クリスさんは今回製作と脚本(フィルのみ)でありまして監督は別に三人おられます。『リトル・プリンス』脚本のボブ・ペルシケッティ、『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』監督のピーター・ラムジー、『22ジャンプストリート』脚本のロドニー・ロスマンさんです。いったいどういう風に役割分担してたのか謎ですが、個性が強烈そうな彼らを上手に組み合わせて采配してたのはやっぱりフィルさんクリスさんだったのでは…と思わずにはいられません。

世界最高峰と言っても過言ではないこのアニメ、残念ながら日本ではそれほどぱっとしない売れ行きのようです。『レゴバットマン』もそうでしたが、実写アメコミ映画は観るけれど、アニメにしちゃったら見ない…という層がけっこういるようで。仕方ない…と思う一方で大変くやしい。なんとかして興味をもってもらうにはどうしたらよいのか、足りない頭でぐるぐると考え続けております。フィル&クリス製作のアニメは現在ではもう一本『レゴRムービー2』も公開中。これまたべらぼうに面白いのに苦戦中のようで… があッ!! 及ばずながらこれからも心から応援していこうと誓うのでした。つか、製作だけじゃなくそろそろ監督もやろうな!?

あと先日世界での好評を受けて続編の企画が立ち上がっているというニュースも入って来ました。今度こそ巨大ロボット・レオパルドンがスクリーンでおがめるか?

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April 01, 2019

シャーリーに首っ引き ピーター・ファレリー 『グリーンブック』

かつて『メリーに首ったけ』『愛しのローズマリー』などのおバカ下ネタ映画で好評を博したものの、近年すっかり話題を聞かなくなってしまったファレリー兄弟。久しぶりにその兄貴の方のニュースが入ってきたと思ったらなんとアカデミー作品賞にノミネートされ、見事受賞したというからぶったまげです。そんな『グリーン・ブック』、ご紹介いたします。

1962年、ナイトクラブで用心棒をしていたトニーは金が必要になり、あるつてから高額の仕事を引き受ける。それは著名な黒人ピアニスト、ドン・シャーリーを差別問題の激しい南部のツアーに運転手として連れて行くことだった。元々黒人に偏見もあった上にシャーリーが友好的ではなかったため、トニーは渋々仕事をこなしていたが、それでも旅を続けていくうちに二人の間には奇妙な絆が芽生えていく。

ロードムービーでバディムービー。それをベテラン監督と実力派俳優が扱うわけですから、これはもうつまらなくする方がむずかしい。それでもダメになってしまう時はダメになってしまうのが映画の怖いところですが、この作品はさすがオスカーをもってっただけあっておかしくて、ほっこりして、でもホロリとさせる憎らしいくらいうまい作品になっていました。

ただ違和感を感じないでもありませんでした。かつてあれほど下ネタを巻き散らかしたファレリー兄と、何かとオール・ヌードが多いヴィゴ・モーテンセンが組むとなったらこれはもう確実にチンコ丸出しシーンがあるだろうと。ところがお笑いはお笑いでも、かつての監督に比べるとずいぶん上品な感じに仕上がってたりして。音信が途絶えている間自身公の場でモロだしして怒られたり、弟の家族に不幸があったりでファレリー兄さんも色々心境の変化があったようです。

あと物議を醸してるのが白人監督の作品ゆえに黒人側から多少なりとも反発があるということ。どちらとも縁遠いわたしたちからすれば「人種を越えた微笑ましい友情物語」と感じられるわけですが、被害者側の黒人さんたちからすれば色々納得がいかんところがあるようで。ことにやはり作品賞に『ブラック・クランズマン』でノミネートされてたスパイク・リーは結局『グリーンブック』がオスカーを受賞した時、憤っていたという話もあります。後ほど『ブラック・クランズマン』も観たのでいずれ感想を書きますけど、確かに毛色が違うところもあるものの、どちらにも一人二役というかシラノ・ド・ベルジュラック的な要素があったりしていろいろ共通する部分もあったような。

以下は結末までネタバレしてるのでご了承ください。

わたしがとりわけ嬉しかったのはラストシーン。クリスマスを一緒に過ごそうと言うトニーの誘いをドンは一度断ります。しかし寂しさに耐えかねて思い直し、彼の家を訪ねると温かく迎えられます。多少違うところもありますけどこのくだりが大好きな『メリーに首ったけ』のオチを彷彿とさせて、どばっと鼻水が吹き出てしまいました。チンコこそ出さなくなりましたが、「人はみなさびしい」ことを温かく描いてる点でファレリー兄はかつてと変わってないんだな…と。

近年アカデミー作品賞受賞作は日本ではあまり客が入らないことが多いですが、『グリーンブック』はそこそこ好評をもって迎えられ、ゴールデンウィークには追加で作られた字幕版も公開されるということです。これを機にまたファレリー兄弟の作品が普通にこちらでもかかるようになるとよいですね。

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March 27, 2019

ハードバイオレンスプリキュア 木城ゆきと/ロバート・ロドリゲス 『アリータ:バトル・エンジェル』

A12 世界で最ももうけた監督・ジェームズ・キャメロンがプロデュースした日本漫画原作映画。権利取得から実に20年近くの月日を経てようやく実現した『アリータ:バトル・エンジェル』(原作タイトルは『銃夢』)ご紹介します。

はるか未来、大きな戦乱を経て天上の聖域と地上のスラムに分かたれた世界。下界の医師イドはある日スクラップの集積所で破損したサイボーグの少女を見つける。イドは少女をアリータと名付けて修復し、娘のようにかわいがる。だがアリータの中には戦闘兵器としてのプログラムが内蔵されていたため、彼女はいつしかスラムの無法者たちや支配階級の手先との激しい戦いに巻き込まれていく。

原作未読。宣伝でしきりに「キャメロンキャメロン」と連呼されていますが、監督は『プレデターズ』『シン・シティ』のロバート・ロドリゲスでございます。勇ましい少女がメカメカしい怪物たちとバトルするあたりは確かにキャメロンっぽいですが、コミックの絵を忠実に再現しようとするあたりや、人体がバラバラに四散する(サイボーグなので血は出ません)ヴィジュアルは確かにロドリゲスさんのカラーでありました。

そんな風に悪い奴らは容赦なくみじん切りにしちゃうアリータちゃんですが、そこは年頃の女の子。好きな男の前では恋にキュンキュンときめいちゃったり、切ない思いに涙をにじませることもしばしば。こういうのをギャップ萌えというんでしょうか。まあわたくしもそういうの嫌いではありません。

で、映像はさすがはキャメロンの肝いりと言うべきか、広大な奥行きを感じさせる背景が多く、実に3D映えする作品となっておりました。体のあちこちが武器と化してるサイボーグの皆さんもロボ好きの目を楽しませてくれました。

ただお話の方はなんというかあまりに矢継ぎ早にバトルとアイテム取得が繰り返されるので、テレビシリーズの総集編を観ているような気分でした。見せ場の連続で飽きさせない作り…と言えないこともないですけど。で、この総集編は思いっきり「第一部完」というか「俺たちの戦いはこれからだ!」的なところで終わっています。果たして第二部が作られる日は来るのか。企画に時間がかかることで定評のあるキャメロンのこと、次はまた20年後だったりして(笑) そこまで待てなかったら原作を読めばいいのかもしれませんね。若いころはそういう尻切れトンボ的なラストを観ると「なんじゃあこりゃあ!」と青筋立てたりしたものですが、年のせいか最近はそういうのにも「未完の美」みたいなものを感じるようになってきました。例を挙げると『ガメラ3』とか劇場版『仮面ライダー龍騎』とかそういうやつです。

『アリータ:バトル・エンジェル』は主に中国で大ヒットを飛ばし、今日世界興行収入が4億$を越えたというニュースが入って来ました。ちょうど製作費の3倍弱くらいです。トントンかプチ黒字くらいといったとこでしょうか。そして御大キャメロンの『アバター2』は来年12月公開予定。もう少しペース上げていきましょう。

 

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March 26, 2019

なぜか下野 魔夜峰央・武内英樹 『翔んで埼玉』

気がつけば2週間更新放置… その間にココログもリニューアルされて微妙に使いづらい感じになりました。再開第1回は魔夜峰央氏の問題コミックを映画化して思わぬヒットとなっている『翔んで埼玉』をご紹介します。


かつて関東では東京がいたずらに高められ、神奈川を除く地域…ことに埼玉が異常に蔑まれた時代があった。埼玉の民は通行手形無しでは東京へ入ることすら禁止されていた。そんな時代を終わらせるべく、抵抗組織「埼玉解放戦線」の一員麻実麗は支配階級の子女が通う都内の名門校・白鵬堂学院に正体を偽って入学する。容姿端麗で何をやらせても優秀な麗に学園のリーダー壇ノ浦百美は反発するが、やがて男同士でありながら互いに惹かれあうようになる。そんな二人をよそに東京と埼玉の対立は次第に激化していくのであった…


もうみなさんご存知でしょうけど、圧倒されるのは序盤から連発される絶え間ない埼玉dis。その虐げられぷりはまるで江戸時代武士から容赦なく年貢を取り立てられていた農民のようです。ほかにも「海を恋しがるあまりトンネルを掘って海水を引こうとした」とか「病気でもその辺の草でも食わせておけばなおる」なんてせりふもあり… 冒頭で魔夜先生自ら登場され「実在の地名とは関係ありません」と一応フォローされてましたが、どうにも無理があります。ちょっとしたことですぐSNSで炎上する今のご時世。この映画も確実に各方面…特に埼玉県民から激しいバッシングを受けるだろうと予想しておりました。ところが公開されてみると非難の声はほとんど見当たらず。日本全国で大ヒットとなり、特に売上を伸ばしているのが埼玉だというからわかりません。埼玉県民はMが多いのか…???炎上が回避された理由としては罵倒しつつもご当地への詳しいリサーチがあったり、さんざんバカにしああとに「でも本当は好き♪」みたいなツンデレアピールがあったからと考えますが、実のところよくわかりません。


そんな快進撃を続けていた本作品ですが、つい先日ヘイト的な発言で知られる某クリニックの院長とコラボしてしまったことでようやく?あちこちから顰蹙をかっております。この辺の一連の経緯、ネット上で何が大丈夫で、何がまずいのか、ひとつの参考例になってるのではないでしょうか。


話題を変えまして。自分も実は学生時代所沢市に2年ほど通っておりました。その実態を観察した身から言わせてもらいますと、伊豆の田舎から比べれば埼玉は十分開けていると思います。名産は少なくてもプロの野球チームもサッカーチームもありますし。近年訪れた大宮市も駅周辺はずいぶんパリッとおしゃれになっておりましたし。映画でも触れられてましたが最近の埼玉はだいぶ住みよい地域になっているらしく、ロケの際もそれらしいひなびた風景が見当たらなかったため主に栃木や茨城で撮影されたそうです。何事も先入観に囚われてはいけませんね。というか埼玉が突然きらびやかなスポットを浴びているのがうらやましい。関東でないから仕方ないのでしょうけど、地元静岡は今回完全にスルーされましたし。まあここは昔から何事にも影が薄いというか、通り過ぎられる土地柄ではあります。高速・鉄道で距離が長すぎるとイヤミを言われることはありますが。


この映画の予想外のフィーバーのせいか、お蔵入り仕掛けてたやはり魔夜先生原作の『パタリロ!』もようやく公開が決まりました。わたしは近くでかかったら観ようかな~くらいのスタンスです。


 

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March 12, 2019

ムエタイ地獄変 ビリー・ムーア ジャン=ステファーヌ・ソヴェール 『暁に祈れ』

あまり予算がかかってなさそうだけど、個性的で力強い作品を多く世に送り出しているA24スタジオ。本日はそのA24が英米仏中の4カ国共同で製作したタイのお話『暁に祈れ』をご紹介します。

イギリス人のムエタイ選手ビリーは戦績が振るわないことから麻薬に溺れ、ついには刑務所送りとなってしまう。そこでも薬から抜け出せないビリーは自分に嫌気がさし、なんとか立ち直ろうと所内のムエタイジムで自分を鍛えようとする。

刑務所内で格闘技に励む話というと『あしたのジョー』とか『軍鶏』などを思い出しますが、こちらは漫画と違い「実話に基づく作品」。実際にビリー・ムーア氏がタイ刑務所で過ごした経験を本にしたものが原作となっております。
麻薬で身を持ち崩したという罪状からわかるように、ビリーさんという方はアスリートだったわりに根性のない方であります。ただまあわたしも薬には手を出してませんけどその点ではどっこいどっこいなので、かえっていやなところで共感できてしまいました。
予告編では「地獄のタイ刑務所」とうたっております。入所早々リンチされたり・・・されたりしてしまうのでは…とドキドキしてましたが、幸いビリーさんは大丈夫でした。ただ別の囚人はそんな目にあったり、ひそかに殺されてしまうこともあったりで、予告編のコピーはあながちウソではありませんでした。
他に印象に残ったのは刑務所映画ということでやけに男の尻やブリーフ姿が多かったり。その辺は少し胸焼けがいたしました。あとタイならではだなあと思ったのが、ヒロインが所内で割と優遇されてるレディボーイであったこと。ちなみにその語で検索したら「タイのレディボーイが美人すぎる」という記事が一番にヒットしました。この映画のヒロインも確かに言われないとわからないくらいのレベルでありました。さすがはタイ…と言うべきでしょうか。

ビリー氏が囚人となってからムエタイにいそしむのは別にチャンピオンになりたいからではないのですよね。ダメダメな自分とさよならしたいという動機からです。しかし薬と酒のダメージに苛酷なトレーニングが加わったため、ビリー氏は命の危機に瀕するところまで行ってしまいます。それでもどん底から這い上がろうとリングにむかう彼の姿には痛々しいながらも胸を打たれるものがありました。そこまでして再起して本も売れたのに、昨年末の時点でまた窃盗でム所暮らしをしているというのが悲しい。「出所したらまた真面目にがんばる」とか言ってたと記事には書いてありましたが…

そういえばやっぱり英国の青年が薬に溺れたものの立ち直ってベストセラーを書いたという実話、『ボブという名の猫』も同じでした。あちらの著者さまはいまもしっかり更生されてるようなので、ムエタイより猫の方が人を立ち直らせる力が強いということか… いや、一概には言えないか。ただまあ、猫中毒はドラッグよりかははるかに健全です。

遠い日本からビリーさんが今度こそ更生されることを祈っております。そしてどんだけダメダメも薬だけは手を出すまいと誓う自分でございました。

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March 06, 2019

コミュニストのコミュニケーション エルネスト・ダラナス・セラーノ 『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』

はやぶさ2号が活躍したり『ファースト・マン』が公開されたり、ちょっとだけ盛り上がっている気がする宇宙開発の話題。昨年末にはこんな映画も公開されておりました。2か月遅れでこちらにもやってきた『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』ご紹介します。

1991年、ソ連崩壊の年。おなじ共産圏であるキューバもまた混乱の最中にあった。そんな中でも大学でひたむきにマルキシズムを教えていた教師セルジオは、ある日アマチュア無線でソ連の宇宙飛行士セルゲイと交信することに成功。二人は国境を越えて友情を深めていくが、その行動を怪しんだ当局によりセルジオは危険人物としてマークされてしまう。

「実話に基づいた映画」はよくあります。しかし一口にそういっても、かなり真実に迫ったものからほとんど創作みたいなものまで作品によって本当に様々です。ちなみにこの『セルジオ&セルゲイ』は冒頭で「真実を元にしたフィクション」と自ら告白しております。確かに一部物理法則を越えた現実では絶対ありえないような描写もあったし… セルゲイが時折命の危機にも直面する場面もありますが、基本的にはそんなゆる~~~いところがこの映画の特色です。とりあえずセルゲイという宇宙飛行士が政治混乱によりかなりの間宇宙ステーションに滞在を余儀なくされた…というのは事実のようです。というかかすかながらそんな話を聞いた記憶がありました。

おっさん同士の『君の名は。』みたいな着想や冷戦末期の宇宙開発描写も面白いのですが、自分が最も印象に残ったのは約30年前のキューバののどかな雰囲気です。国中こぞって貧乏だったようで、二言目には「金がない」とぐちってる感じなんですが、ぬけるように明るい風土のゆえかあまり「暗い」というムードがありません。セルジオの家族も将来の不安や貧しさを抱えてはいますが、よく笑うし日々の楽しみをきちんと見つけている。いまは昔の物語ということもあって、ちょっと『ALWAYS』シリーズと共通しているところもあります。

そんなほっこりした奇妙なこの映画をなぜか『ヘルボーイ」で有名なコワモテ俳優ロン・パールマンが製作しております。重要な役で自ら出演してたりもして。自分がこれまで観た中では一番普通というか穏やかな役でありました。誰も殴ってなかったし…たしか。

ひとつ文句をいわせてもらえるなら、序盤からずっと当時を懐かしむセルジオの娘さんのモノローグが入るのですね。これがなんだかもう「今はもうお父さんはいない」という感じで、悲劇をバリバリに予感させるものでした。で、実際にどうだったかというと… もちろん内緒です。

それにしても少し前の『怪盗グルー』3作目もそうでしたし、これから公開される『キャプテン・マーベル』『X-MEN ダークフェニックス』などだんだん90年代にスポットをあてた映画が増えてまいりました。それくらいもうノスタルジーの領域に入りつつあるということなのでしょう。90年代なんてついこないだのことなんて思ってたおっさんは、己の年を痛感し、静かに首をうなだれるのでした。ははははは…

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March 04, 2019

死んだはずだよ王子様 谷口悟朗 『コードギアス 復活のルルーシュ』

一昨年からひっぱり続けて来た『コードギアス』リファインプロジェクトもいよいよ大詰め。待望の完全新作の公開とあいなりました。『コードギアス 復活のルルーシュ』ご紹介します。ついでにこれまで書いた総集編の感想を貼っておきます。
☆第一部 興道
☆第二部 叛道
☆第三部 皇道

悪虐皇帝ルルーシュの死により世界に平和がもたらされてから2年。復興の立役者である仮面の男・ゼロとブリタニア皇女のナナリーが、中東の小国ジルクスタンで何者かにより拉致されるという事件が起きる。かつてゼロの下で活躍した凄腕の戦士カレンは、事件解決のためジルクスタンに潜入。彼女はそこで思いもよらない人物と再会する。

…とぼやかして書きましたが、タイトルで既にばれちゃってますね。TVシリーズ終了時必死になってルルーシュが生きているヒントを探してみましたが、どっかで谷口監督の「確実に死なせた」という発言を読んでがっくりきたものでした。監督のうそつき!
それはともかく今回の映画、一言でいうと「よく出来た同窓会」という感じでした。あのキャラ、このキャラ、生き残った連中はみなそれぞれに成長し今の生活を楽しんでいる。その辺の様子を眺められてだいぶほっこりいたしました。激しく憎しみ合って命のやり取りをしてた者同士がテーブルを囲んで談笑してるあたりは「おや?」と思わんでもなかったですが、現実には難しい話ことに虚構の中ならばこういう和解があってもいいじゃないか…と考え直しました。

そしてまさかのルルーシュ復活に狂喜する面々の姿は、ずっとこのシリーズを追っかけてきたファンの心情そのまんまだなあと。こいつ、けっこうとんでもないこといっぱいやらかしてる少年ではあるんですけどね~

作者が若気の至りでやりすぎてしまった悲惨な結末を、年を重ねてから懺悔のように改変する例って時々ありますよね。永井豪先生の『デビルマン』、富野由悠季氏の『Zガンダム』、庵野秀明氏の『エヴァンゲリオン』… あ、こんなもんか。ネットで数年後に付けたしのような動画がUPされた『エウレカセブンAO』のような例もあります。それらはショッキングだったから歴史に残ったということもありますし、穏やかに作り直すことはかつてのテーマを否定することにもなりかねないのですが、自分のようにぬるい人間は昔のトラウマがいやされるようでこういうのけっこう好きです。あと谷口監督は若気の至りというより一応計算ずくであのラストに持っていったと思うのでけど、それでもいくばくかの迷いがあったのでしょうね。なんにせよこういう風にオリジナルに沿った形で結末を作り直せるというのは人気作だけに許される特権だなあと。

で、ここからまた再び長い物語が始まるのかと思いきや見事に収束してしまった『コードギアス』。まあまたえんえんと追いかけるのも大変なのでそれもいいかという気もしますが、やっぱりせっかく再度ここまで盛り上げたのにもったいないんじゃないでしょうか。ラストシーンから察するに今度はルルーシュに代わる次世代の主人公が登場する…という展開も予想できますが。続きを作るならできるだけキャラを不幸にしない方向でよろしくお願いしますね!(無理)

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February 27, 2019

はじめ人間アームストロング デミアン・チャゼル 『ファースト・マン』

はじめにんげんむむんむーん アポロで飛び立つむむむんむーん
…海の男の次は最初に月に降り立った男の映画です。『ファースト・マン』ご紹介します。

あらすじはあらためて書くまでもないですね。アポロ11号の船長ルイ・アームストロングの半生を描いた作品です。お話はいきなりルイさんが試験飛行中に大ピンチになってるところから始まります。角度の調整が狂ったために飛行機がそのまま大気圏外にすっとんでしまうかもしれないという。しかし持ち前の冷静さと判断力でなんとか危機を回避するルイさん。さすがアメコミヒーローでもないのに「~マン」と呼ばれているだけのことはあります。
こんな風に割と人類の偉業をたたえるというよりかは、宇宙が死と隣り合わせの世界であることが強調された本作品。はっきり言って怖いです。宇宙が危険な場所であることはそれなりに知ってるつもりでしたが、『オデッセイ』にせよ『ドリーム』にせよ『スペースカウボーイズ』にせよ『アポロ13』にせよ基本ムードが明るいじゃないですか。だから宇宙開発ものってなんとなく陽気なイメージがあるんですけど、『ファースト・マン』ではそういう空気はなりをひそめ、『セッション』よりのヒリヒリした緊迫感がみなぎっておりました。

そんなおそがい挑戦をルイさんはなぜ続けられるのか。それには序盤で幼くしてなくなってしまう彼の娘の存在が大きいように感じられました。
伊坂幸太郎氏の小説に「親にとって最も恐ろしいのは自分の死よりもわが子の死である」という一文がありました(最近はそれを否定するような悲しい事件もありますが…)。そんな最大の恐怖というかどん底を味わってしまった彼は、もう並大抵のプレッシャーには動じなくなってしまったのでは。そしてひたむきに月へいくことを目指すのは、自分が偉業を成し遂げれば娘の存在に意味をもたらせると考えたからか、あるいは神に近い領域にいくことで理不尽な死への答えを得られると思ったのか(実際宇宙飛行士には引退後牧師になってしまう人も多いとか)…なんてことを勝手に想像しておりました。
実物のルイさんは寡黙な人だったのでよくわからないことも多いようです。でもまあデミアン・チャゼル氏はそんな風に人類最初の男も、ごくごく普通の父親にすぎなかった…という解釈でこの映画を作られたようです。

それにしても『セッション』『ラ・ラ・ランド』、そして本作品と自分の色も出しつつ1作ごとに違う顔を見せてくれるデミアンさん、言うまでもありませんが相当な才人ですね。特に「音楽」をテーマにした前2作に対し、今回は宇宙という「無音」の世界に挑んでいるあたり大したチャレンジャーであります。次はまたどんな映画を撮るのか、わくわくさせてくれますね。

一昨日行われたアカデミー賞において、『ファースト・マン』は視覚効果部門を受賞。CG全盛のこの時代にアナログとのハイブリッドでリアルな映像を作り上げたことが評価されたようです。特に月面での臨場感は半端ありませんので、フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンと思われた方は公開が続いているうちに映画館にいってください。

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February 26, 2019

モモアと伝説の海 ジェームズ・ワン 『アクアマン』

Jlam2むかしむかし…(じゃないんだけど)、あるところに灯台守と海の国の王女様の間に生まれた子供がおりました。王女様は彼がまだ幼いうちに実家の事情で国に帰ってしまいましたが、王子様はすくすくと成長し、やがて筋肉ムキムキで毛むくじゃらの超人「アクアマン」として知られるようになります。それなりにヒーロー活動にいそしんでいた彼でしたが、同じように大きくなった弟オームが陸地の人間たちに宣戦布告。そのために海底のお家騒動に巻き込まれることになってしまうのでした…

矢継ぎ早にどんどこ公開されるアメコミ映画。この度の『アクアマン』は映画ではマーベルに一歩後れを取っているDCが送り出したヒーローで、一昨年の『ジャスティス・リーグ』でも活躍しております。ただその『ジャスティス・リーグ』、世間的には「ぱっとしない」という評価で商売的にも赤字となってしまいました。(わたしはそこそこ好きですけどね…) だのに今度はその中のサブ的なキャラを主役に据えて映画化するという。正直無謀だ…と思いました。ところがそれが今度は世界的な大ヒットとなり、いまや単体ヒーロー映画の記録更新までなしとげているから驚きです。本当に世の中何が売れるのかわかりません。

そもそもアクアマンとはどういうキャラなのか。実はアメコミファンを名乗っておきながらわたしもほとんど知りませんでしたw スーパーマン・バットマンと同じほどのキャリアを誇りながら、海底が主な縄張りという特化した背景のゆえか、二重の意味で日が当たらないヒーローだったのです。そしてようやくスクリーンにお目見えしたらコミック版(下画像参照)
Jlam1とは似ても似つかぬ姿での映像化となりました。それでも原作ファンが怒ったという話はほとんど聞かないので、それくらい人気のないキャラだったのでしょうね… うう… ただまあこの改変で一躍ヒーロー界のトップスターになったことを考えれば大正解と言っていいんじゃないでしょうか。

で、映画の方ですが「もっともマーベルらしいDC映画」とか評されておりました(…)。どの辺がそうだったのかはよくわかりませんが、自分はむしろかつてないほどにディズニーっぽいアメコミ映画だと感じました。きらびやかな背景に神話っぽい設定、王家のいざこざに快活な主人公、狡猾な悪役、多くの試練に胸躍る冒険… そういったあたりが。主役がプリンセスじゃなくてマッチョのおっさんという違いこそありますが。『マイテ○・ソー』もそーでしたが、キラキラ具合ではこちらのほうが上だと思います。

そんなメルヘン世界を見事に映像化したのはホラー界の第一人者ジェームズ・ワン。もしかしたらこの映画にも怖い要素があったりして…とびくびくもので鑑賞に臨みましたが、幸いにも霊とか臓物とかは出てきませんでした。ホラー要素があるとすれば静かなシーンで必ずといっていいほどドッキリさせる爆発があることです。おそらく何分静寂が続いたら必ず爆発しなきゃいけない、そういうルールがある世界です。
で、ホラーの名匠だけあってどうしたら観客を喜ばせることができるか、その辺のサービスに特に心を砕いている様子がラッセンを十枚くらい重ね描きした画風から伝わってきました。『ジャスティス・リーグ』もそれなりに盛っておりましたが、あちらが大盛りだとするとこちらはメガ盛りくらいのボリュームです。でも不思議と盛り付けがきれいで器からもはみ出てない、そういうまとまりの良さも感じられました。

怪獣や様々な海の生き物、スタイリッシュなガジェットなどもいちいち心つかまれましたが、実は自分が一番心惹かれたのはアクアマン父の純情だったりします。消えた妻を思って毎日桟橋に出てるとか、そういう話に弱いんです。「こ、こんなバカ映画で…!」と思いつつたらたらと鼻水が流れてしまいました。そこへダメ出しのように『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』のようなしっとりした曲が流れてきて完全にやられてしまいました。憎いぜ、ジェームズ・ワン…!

ちなみにこの『アクアマン』、アメリカ本国よりその他の国々での収益の方が多いそうです。おそらく中国か南米あたりでうけているのか。同じ王族モノの『ブラックパンサー』が米国中心のヒットだったのと対照的であります。
この作品によってだいぶマーベルにおいついてきたDC。さらにさを縮められるかは再来月公開の『シャザム!』にかかっています。どっちもがんばってください!


Aqam1


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February 19, 2019

帰ってきたウルトラウーマン ロブ・マーシャル 『メリー・ポピンズ・リターンズ』

昨年からパディントン、ピーターラビット、プーさんと英国の名作童話の映画化か続いてますが、あのご夫人も55年ぶりに映像の世界に帰ってこられました。『メリー・ポピンズ・リターンズ』、ご紹介します。

困っている子供たちのもとにやってきて救いの手を差し伸べる魔法の子守メリー・ポピンズ。かつて彼女の世話になったバンクス家の長男マイケルは今では自身が三児の父となり、家庭のことで悩みの絶えない日々を送っていた。そんなマイケル一家のもとに時空を超えて再びあの不思議なレディが天から舞い降りてくる。

さきほど「プーさん」をあげましたが、なんでかこないだの『プーと大人になった僕』といろいろ重なってしまった本作。前作の主人公がいいおっさんになってたり、そのおっさんが仕事のことできりきり舞いしてて子供とうまくいかなくなってたり。そしてそんな彼の元に幼いころの懐かしい知人が訪ねてきたり、不思議な世界を思い出したり…というあたり。ディズニーさんももう少し企画をずらせなかったものかとは思いますが、なんか偶然重なっちゃったんでしょうね。

プーさんと違うのはメリーさんは一応人間であり、クールでかっこいいということです。結局わたくし前作は未鑑賞で臨んだのですが、メリー・ポピンズさんというのはもっとふんわかした癒し系のおばさんだろうと勝手に想像してました。ところがどすこい、メリーさんは子供たちにも厳しいところは厳しく、滅多に表情を崩しません。それでも時折ちらりと優しさをのぞかせ、事件が解決すると別れのあいさつもなくまた新たな任地へと旅立っていく… まるでハードボイルドのヒーローみたいです。そんなメリーさんを『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や『ボーダーライン』で銃をガンガンぶっ放してたエミリー・ブラントさんが好演しておられました。

わたしがこの映画を観ようと思った動機のひとつは、いまどきのディズニー映画にしては珍しく非CGのアニメと実写を組み合わせたビジュアルが面白そうだったから。少し前に『ポピンズ』原作者を題材にした『ウォルト・ディズニーの約束』という映画があったんですが、それによりますと原作者トラバース夫人はアニメが嫌いなのに『メリー・ポピンズ』の1シーンにアニメのペンギンが出てきた時にたいそうお怒りになられたとかw さすがに当時の撮影技術で「踊るペンギン」を出すのは不可能だったと思うので、致し方なきことだったんでしょうが…
で、それから50年。いまではCG技術の発達により不可能な「実写映像」というのはほぼなくなりました。だのにあえて絵アニメをふんだんに入れまくるという皮肉w 原作者様がご覧になったらまたしても青筋を立てられたと思いますが、あの画風というか画質、最近見なかったのでとても懐かしい気分になりました。

バンクス家のかつては長男、いまではお父さんのマイケルを演じるのはベン・ウィショー。わたしはどうしても『パフューム』の異常殺人犯を思い出してしまうのですが、子供の前で強がりながら陰で泣いてる優しいお父さんもなかなか似合ってました。彼は「パディントン」の声もあててましたし徐々にハートウォーミング系への転身を図っているのかもしれません。

ディズニー実写化の波はとどまることなくこれからま『ダンボ』『アラジン』『ライオン・キング』などが控えております。結局全部つきあってしまいそうな気がします…

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