March 12, 2019

ムエタイ地獄変 ビリー・ムーア ジャン=ステファーヌ・ソヴェール 『暁に祈れ』

あまり予算がかかってなさそうだけど、個性的で力強い作品を多く世に送り出しているA24スタジオ。本日はそのA24が英米仏中の4カ国共同で製作したタイのお話『暁に祈れ』をご紹介します。

イギリス人のムエタイ選手ビリーは戦績が振るわないことから麻薬に溺れ、ついには刑務所送りとなってしまう。そこでも薬から抜け出せないビリーは自分に嫌気がさし、なんとか立ち直ろうと所内のムエタイジムで自分を鍛えようとする。

刑務所内で格闘技に励む話というと『あしたのジョー』とか『軍鶏』などを思い出しますが、こちらは漫画と違い「実話に基づく作品」。実際にビリー・ムーア氏がタイ刑務所で過ごした経験を本にしたものが原作となっております。
麻薬で身を持ち崩したという罪状からわかるように、ビリーさんという方はアスリートだったわりに根性のない方であります。ただまあわたしも薬には手を出してませんけどその点ではどっこいどっこいなので、かえっていやなところで共感できてしまいました。
予告編では「地獄のタイ刑務所」とうたっております。入所早々リンチされたり・・・されたりしてしまうのでは…とドキドキしてましたが、幸いビリーさんは大丈夫でした。ただ別の囚人はそんな目にあったり、ひそかに殺されてしまうこともあったりで、予告編のコピーはあながちウソではありませんでした。
他に印象に残ったのは刑務所映画ということでやけに男の尻やブリーフ姿が多かったり。その辺は少し胸焼けがいたしました。あとタイならではだなあと思ったのが、ヒロインが所内で割と優遇されてるレディボーイであったこと。ちなみにその語で検索したら「タイのレディボーイが美人すぎる」という記事が一番にヒットしました。この映画のヒロインも確かに言われないとわからないくらいのレベルでありました。さすがはタイ…と言うべきでしょうか。

ビリー氏が囚人となってからムエタイにいそしむのは別にチャンピオンになりたいからではないのですよね。ダメダメな自分とさよならしたいという動機からです。しかし薬と酒のダメージに苛酷なトレーニングが加わったため、ビリー氏は命の危機に瀕するところまで行ってしまいます。それでもどん底から這い上がろうとリングにむかう彼の姿には痛々しいながらも胸を打たれるものがありました。そこまでして再起して本も売れたのに、昨年末の時点でまた窃盗でム所暮らしをしているというのが悲しい。「出所したらまた真面目にがんばる」とか言ってたと記事には書いてありましたが…

そういえばやっぱり英国の青年が薬に溺れたものの立ち直ってベストセラーを書いたという実話、『ボブという名の猫』も同じでした。あちらの著者さまはいまもしっかり更生されてるようなので、ムエタイより猫の方が人を立ち直らせる力が強いということか… いや、一概には言えないか。ただまあ、猫中毒はドラッグよりかははるかに健全です。

遠い日本からビリーさんが今度こそ更生されることを祈っております。そしてどんだけダメダメも薬だけは手を出すまいと誓う自分でございました。

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March 06, 2019

コミュニストのコミュニケーション エルネスト・ダラナス・セラーノ 『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』

はやぶさ2号が活躍したり『ファースト・マン』が公開されたり、ちょっとだけ盛り上がっている気がする宇宙開発の話題。昨年末にはこんな映画も公開されておりました。2か月遅れでこちらにもやってきた『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』ご紹介します。

1991年、ソ連崩壊の年。おなじ共産圏であるキューバもまた混乱の最中にあった。そんな中でも大学でひたむきにマルキシズムを教えていた教師セルジオは、ある日アマチュア無線でソ連の宇宙飛行士セルゲイと交信することに成功。二人は国境を越えて友情を深めていくが、その行動を怪しんだ当局によりセルジオは危険人物としてマークされてしまう。

「実話に基づいた映画」はよくあります。しかし一口にそういっても、かなり真実に迫ったものからほとんど創作みたいなものまで作品によって本当に様々です。ちなみにこの『セルジオ&セルゲイ』は冒頭で「真実を元にしたフィクション」と自ら告白しております。確かに一部物理法則を越えた現実では絶対ありえないような描写もあったし… セルゲイが時折命の危機にも直面する場面もありますが、基本的にはそんなゆる~~~いところがこの映画の特色です。とりあえずセルゲイという宇宙飛行士が政治混乱によりかなりの間宇宙ステーションに滞在を余儀なくされた…というのは事実のようです。というかかすかながらそんな話を聞いた記憶がありました。

おっさん同士の『君の名は。』みたいな着想や冷戦末期の宇宙開発描写も面白いのですが、自分が最も印象に残ったのは約30年前のキューバののどかな雰囲気です。国中こぞって貧乏だったようで、二言目には「金がない」とぐちってる感じなんですが、ぬけるように明るい風土のゆえかあまり「暗い」というムードがありません。セルジオの家族も将来の不安や貧しさを抱えてはいますが、よく笑うし日々の楽しみをきちんと見つけている。いまは昔の物語ということもあって、ちょっと『ALWAYS』シリーズと共通しているところもあります。

そんなほっこりした奇妙なこの映画をなぜか『ヘルボーイ」で有名なコワモテ俳優ロン・パールマンが製作しております。重要な役で自ら出演してたりもして。自分がこれまで観た中では一番普通というか穏やかな役でありました。誰も殴ってなかったし…たしか。

ひとつ文句をいわせてもらえるなら、序盤からずっと当時を懐かしむセルジオの娘さんのモノローグが入るのですね。これがなんだかもう「今はもうお父さんはいない」という感じで、悲劇をバリバリに予感させるものでした。で、実際にどうだったかというと… もちろん内緒です。

それにしても少し前の『怪盗グルー』3作目もそうでしたし、これから公開される『キャプテン・マーベル』『X-MEN ダークフェニックス』などだんだん90年代にスポットをあてた映画が増えてまいりました。それくらいもうノスタルジーの領域に入りつつあるということなのでしょう。90年代なんてついこないだのことなんて思ってたおっさんは、己の年を痛感し、静かに首をうなだれるのでした。ははははは…

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March 04, 2019

死んだはずだよ王子様 谷口悟朗 『コードギアス 復活のルルーシュ』

一昨年からひっぱり続けて来た『コードギアス』リファインプロジェクトもいよいよ大詰め。待望の完全新作の公開とあいなりました。『コードギアス 復活のルルーシュ』ご紹介します。ついでにこれまで書いた総集編の感想を貼っておきます。
☆第一部 興道
☆第二部 叛道
☆第三部 皇道

悪虐皇帝ルルーシュの死により世界に平和がもたらされてから2年。復興の立役者である仮面の男・ゼロとブリタニア皇女のナナリーが、中東の小国ジルクスタンで何者かにより拉致されるという事件が起きる。かつてゼロの下で活躍した凄腕の戦士カレンは、事件解決のためジルクスタンに潜入。彼女はそこで思いもよらない人物と再会する。

…とぼやかして書きましたが、タイトルで既にばれちゃってますね。TVシリーズ終了時必死になってルルーシュが生きているヒントを探してみましたが、どっかで谷口監督の「確実に死なせた」という発言を読んでがっくりきたものでした。監督のうそつき!
それはともかく今回の映画、一言でいうと「よく出来た同窓会」という感じでした。あのキャラ、このキャラ、生き残った連中はみなそれぞれに成長し今の生活を楽しんでいる。その辺の様子を眺められてだいぶほっこりいたしました。激しく憎しみ合って命のやり取りをしてた者同士がテーブルを囲んで談笑してるあたりは「おや?」と思わんでもなかったですが、現実には難しい話ことに虚構の中ならばこういう和解があってもいいじゃないか…と考え直しました。

そしてまさかのルルーシュ復活に狂喜する面々の姿は、ずっとこのシリーズを追っかけてきたファンの心情そのまんまだなあと。こいつ、けっこうとんでもないこといっぱいやらかしてる少年ではあるんですけどね~

作者が若気の至りでやりすぎてしまった悲惨な結末を、年を重ねてから懺悔のように改変する例って時々ありますよね。永井豪先生の『デビルマン』、富野由悠季氏の『Zガンダム』、庵野秀明氏の『エヴァンゲリオン』… あ、こんなもんか。ネットで数年後に付けたしのような動画がUPされた『エウレカセブンAO』のような例もあります。それらはショッキングだったから歴史に残ったということもありますし、穏やかに作り直すことはかつてのテーマを否定することにもなりかねないのですが、自分のようにぬるい人間は昔のトラウマがいやされるようでこういうのけっこう好きです。あと谷口監督は若気の至りというより一応計算ずくであのラストに持っていったと思うのでけど、それでもいくばくかの迷いがあったのでしょうね。なんにせよこういう風にオリジナルに沿った形で結末を作り直せるというのは人気作だけに許される特権だなあと。

で、ここからまた再び長い物語が始まるのかと思いきや見事に収束してしまった『コードギアス』。まあまたえんえんと追いかけるのも大変なのでそれもいいかという気もしますが、やっぱりせっかく再度ここまで盛り上げたのにもったいないんじゃないでしょうか。ラストシーンから察するに今度はルルーシュに代わる次世代の主人公が登場する…という展開も予想できますが。続きを作るならできるだけキャラを不幸にしない方向でよろしくお願いしますね!(無理)

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February 27, 2019

はじめ人間アームストロング デミアン・チャゼル 『ファースト・マン』

はじめにんげんむむんむーん アポロで飛び立つむむむんむーん
…海の男の次は最初に月に降り立った男の映画です。『ファースト・マン』ご紹介します。

あらすじはあらためて書くまでもないですね。アポロ11号の船長ルイ・アームストロングの半生を描いた作品です。お話はいきなりルイさんが試験飛行中に大ピンチになってるところから始まります。角度の調整が狂ったために飛行機がそのまま大気圏外にすっとんでしまうかもしれないという。しかし持ち前の冷静さと判断力でなんとか危機を回避するルイさん。さすがアメコミヒーローでもないのに「~マン」と呼ばれているだけのことはあります。
こんな風に割と人類の偉業をたたえるというよりかは、宇宙が死と隣り合わせの世界であることが強調された本作品。はっきり言って怖いです。宇宙が危険な場所であることはそれなりに知ってるつもりでしたが、『オデッセイ』にせよ『ドリーム』にせよ『スペースカウボーイズ』にせよ『アポロ13』にせよ基本ムードが明るいじゃないですか。だから宇宙開発ものってなんとなく陽気なイメージがあるんですけど、『ファースト・マン』ではそういう空気はなりをひそめ、『セッション』よりのヒリヒリした緊迫感がみなぎっておりました。

そんなおそがい挑戦をルイさんはなぜ続けられるのか。それには序盤で幼くしてなくなってしまう彼の娘の存在が大きいように感じられました。
伊坂幸太郎氏の小説に「親にとって最も恐ろしいのは自分の死よりもわが子の死である」という一文がありました(最近はそれを否定するような悲しい事件もありますが…)。そんな最大の恐怖というかどん底を味わってしまった彼は、もう並大抵のプレッシャーには動じなくなってしまったのでは。そしてひたむきに月へいくことを目指すのは、自分が偉業を成し遂げれば娘の存在に意味をもたらせると考えたからか、あるいは神に近い領域にいくことで理不尽な死への答えを得られると思ったのか(実際宇宙飛行士には引退後牧師になってしまう人も多いとか)…なんてことを勝手に想像しておりました。
実物のルイさんは寡黙な人だったのでよくわからないことも多いようです。でもまあデミアン・チャゼル氏はそんな風に人類最初の男も、ごくごく普通の父親にすぎなかった…という解釈でこの映画を作られたようです。

それにしても『セッション』『ラ・ラ・ランド』、そして本作品と自分の色も出しつつ1作ごとに違う顔を見せてくれるデミアンさん、言うまでもありませんが相当な才人ですね。特に「音楽」をテーマにした前2作に対し、今回は宇宙という「無音」の世界に挑んでいるあたり大したチャレンジャーであります。次はまたどんな映画を撮るのか、わくわくさせてくれますね。

一昨日行われたアカデミー賞において、『ファースト・マン』は視覚効果部門を受賞。CG全盛のこの時代にアナログとのハイブリッドでリアルな映像を作り上げたことが評価されたようです。特に月面での臨場感は半端ありませんので、フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンと思われた方は公開が続いているうちに映画館にいってください。

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February 26, 2019

モモアと伝説の海 ジェームズ・ワン 『アクアマン』

Jlam2むかしむかし…(じゃないんだけど)、あるところに灯台守と海の国の王女様の間に生まれた子供がおりました。王女様は彼がまだ幼いうちに実家の事情で国に帰ってしまいましたが、王子様はすくすくと成長し、やがて筋肉ムキムキで毛むくじゃらの超人「アクアマン」として知られるようになります。それなりにヒーロー活動にいそしんでいた彼でしたが、同じように大きくなった弟オームが陸地の人間たちに宣戦布告。そのために海底のお家騒動に巻き込まれることになってしまうのでした…

矢継ぎ早にどんどこ公開されるアメコミ映画。この度の『アクアマン』は映画ではマーベルに一歩後れを取っているDCが送り出したヒーローで、一昨年の『ジャスティス・リーグ』でも活躍しております。ただその『ジャスティス・リーグ』、世間的には「ぱっとしない」という評価で商売的にも赤字となってしまいました。(わたしはそこそこ好きですけどね…) だのに今度はその中のサブ的なキャラを主役に据えて映画化するという。正直無謀だ…と思いました。ところがそれが今度は世界的な大ヒットとなり、いまや単体ヒーロー映画の記録更新までなしとげているから驚きです。本当に世の中何が売れるのかわかりません。

そもそもアクアマンとはどういうキャラなのか。実はアメコミファンを名乗っておきながらわたしもほとんど知りませんでしたw スーパーマン・バットマンと同じほどのキャリアを誇りながら、海底が主な縄張りという特化した背景のゆえか、二重の意味で日が当たらないヒーローだったのです。そしてようやくスクリーンにお目見えしたらコミック版(下画像参照)
Jlam1とは似ても似つかぬ姿での映像化となりました。それでも原作ファンが怒ったという話はほとんど聞かないので、それくらい人気のないキャラだったのでしょうね… うう… ただまあこの改変で一躍ヒーロー界のトップスターになったことを考えれば大正解と言っていいんじゃないでしょうか。

で、映画の方ですが「もっともマーベルらしいDC映画」とか評されておりました(…)。どの辺がそうだったのかはよくわかりませんが、自分はむしろかつてないほどにディズニーっぽいアメコミ映画だと感じました。きらびやかな背景に神話っぽい設定、王家のいざこざに快活な主人公、狡猾な悪役、多くの試練に胸躍る冒険… そういったあたりが。主役がプリンセスじゃなくてマッチョのおっさんという違いこそありますが。『マイテ○・ソー』もそーでしたが、キラキラ具合ではこちらのほうが上だと思います。

そんなメルヘン世界を見事に映像化したのはホラー界の第一人者ジェームズ・ワン。もしかしたらこの映画にも怖い要素があったりして…とびくびくもので鑑賞に臨みましたが、幸いにも霊とか臓物とかは出てきませんでした。ホラー要素があるとすれば静かなシーンで必ずといっていいほどドッキリさせる爆発があることです。おそらく何分静寂が続いたら必ず爆発しなきゃいけない、そういうルールがある世界です。
で、ホラーの名匠だけあってどうしたら観客を喜ばせることができるか、その辺のサービスに特に心を砕いている様子がラッセンを十枚くらい重ね描きした画風から伝わってきました。『ジャスティス・リーグ』もそれなりに盛っておりましたが、あちらが大盛りだとするとこちらはメガ盛りくらいのボリュームです。でも不思議と盛り付けがきれいで器からもはみ出てない、そういうまとまりの良さも感じられました。

怪獣や様々な海の生き物、スタイリッシュなガジェットなどもいちいち心つかまれましたが、実は自分が一番心惹かれたのはアクアマン父の純情だったりします。消えた妻を思って毎日桟橋に出てるとか、そういう話に弱いんです。「こ、こんなバカ映画で…!」と思いつつたらたらと鼻水が流れてしまいました。そこへダメ出しのように『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』のようなしっとりした曲が流れてきて完全にやられてしまいました。憎いぜ、ジェームズ・ワン…!

ちなみにこの『アクアマン』、アメリカ本国よりその他の国々での収益の方が多いそうです。おそらく中国か南米あたりでうけているのか。同じ王族モノの『ブラックパンサー』が米国中心のヒットだったのと対照的であります。
この作品によってだいぶマーベルにおいついてきたDC。さらにさを縮められるかは再来月公開の『シャザム!』にかかっています。どっちもがんばってください!


Aqam1


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February 19, 2019

帰ってきたウルトラウーマン ロブ・マーシャル 『メリー・ポピンズ・リターンズ』

昨年からパディントン、ピーターラビット、プーさんと英国の名作童話の映画化か続いてますが、あのご夫人も55年ぶりに映像の世界に帰ってこられました。『メリー・ポピンズ・リターンズ』、ご紹介します。

困っている子供たちのもとにやってきて救いの手を差し伸べる魔法の子守メリー・ポピンズ。かつて彼女の世話になったバンクス家の長男マイケルは今では自身が三児の父となり、家庭のことで悩みの絶えない日々を送っていた。そんなマイケル一家のもとに時空を超えて再びあの不思議なレディが天から舞い降りてくる。

さきほど「プーさん」をあげましたが、なんでかこないだの『プーと大人になった僕』といろいろ重なってしまった本作。前作の主人公がいいおっさんになってたり、そのおっさんが仕事のことできりきり舞いしてて子供とうまくいかなくなってたり。そしてそんな彼の元に幼いころの懐かしい知人が訪ねてきたり、不思議な世界を思い出したり…というあたり。ディズニーさんももう少し企画をずらせなかったものかとは思いますが、なんか偶然重なっちゃったんでしょうね。

プーさんと違うのはメリーさんは一応人間であり、クールでかっこいいということです。結局わたくし前作は未鑑賞で臨んだのですが、メリー・ポピンズさんというのはもっとふんわかした癒し系のおばさんだろうと勝手に想像してました。ところがどすこい、メリーさんは子供たちにも厳しいところは厳しく、滅多に表情を崩しません。それでも時折ちらりと優しさをのぞかせ、事件が解決すると別れのあいさつもなくまた新たな任地へと旅立っていく… まるでハードボイルドのヒーローみたいです。そんなメリーさんを『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や『ボーダーライン』で銃をガンガンぶっ放してたエミリー・ブラントさんが好演しておられました。

わたしがこの映画を観ようと思った動機のひとつは、いまどきのディズニー映画にしては珍しく非CGのアニメと実写を組み合わせたビジュアルが面白そうだったから。少し前に『ポピンズ』原作者を題材にした『ウォルト・ディズニーの約束』という映画があったんですが、それによりますと原作者トラバース夫人はアニメが嫌いなのに『メリー・ポピンズ』の1シーンにアニメのペンギンが出てきた時にたいそうお怒りになられたとかw さすがに当時の撮影技術で「踊るペンギン」を出すのは不可能だったと思うので、致し方なきことだったんでしょうが…
で、それから50年。いまではCG技術の発達により不可能な「実写映像」というのはほぼなくなりました。だのにあえて絵アニメをふんだんに入れまくるという皮肉w 原作者様がご覧になったらまたしても青筋を立てられたと思いますが、あの画風というか画質、最近見なかったのでとても懐かしい気分になりました。

バンクス家のかつては長男、いまではお父さんのマイケルを演じるのはベン・ウィショー。わたしはどうしても『パフューム』の異常殺人犯を思い出してしまうのですが、子供の前で強がりながら陰で泣いてる優しいお父さんもなかなか似合ってました。彼は「パディントン」の声もあててましたし徐々にハートウォーミング系への転身を図っているのかもしれません。

ディズニー実写化の波はとどまることなくこれからま『ダンボ』『アラジン』『ライオン・キング』などが控えております。結局全部つきあってしまいそうな気がします…

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February 18, 2019

決定! 第8回人間以外アカデミー賞(2018年度公開作品から)

なぜ、アカデミー賞は人間にしか与えられないのか。そんな発想から生まれた「人間以外アカデミー賞」。限りなく自己満足に近い企画ではございますが、今年でもう8回目を迎えます。例によって賞金も賞品もありませんが、はりきってまいりましょう! それではゲノムの少なそうな連中から。

☆細菌・微生物部門 『ヴェノム』よりシンビオート
これは厳密には菌でもウィルスでもない気がしますが、ほかにそれっぽい候補もないので無理やり受賞といたします。しょっぱなから厳しいです

☆植物部門 『アベンジャーズ/インフィニティウォー』『シュガーラッシュ/オンライン』よりグルート
すっかり反抗木に突入してしまったグルートくん。果たして『エンドゲーム』での出番はあるか?

☆昆虫その他の無脊椎動物部門 『ムタフカズ』よりゴキブリの群れ
ゴキブリが受賞するのは初めてかな? 他候補に『アントマン&ワスプ』のアリさんたちや『カニとタマゴと透明人間』のカニさんたち

☆魚類および海生哺乳類部門 『MEG ザ・モンスター』よりMEG
サカナだなんて思ったら 大間違いよ モンスター

☆両生類・爬虫類部門 『ランペイジ』よりワニ怪獣
これまたこれくらいしか思いつかなかった… あ、ファンタビのナギニさんもいたか

☆鳥類部門 『ペンギン・ハイウェイ』『皇帝ペンギン ただいま』よりアデリーペンギン
他候補にピーターラビットでふっとばされてた小鳥たち

☆犬猫小動物部門 『ピーターラビット』よりピーターラビット
今年も激戦区でした… 『犬ヶ島』のみなさん、『未来のミライ』のユッコ、『ボヘミアン・ラプソディ』の猫さんたちなど忘れがたい面々がいっぱい

☆草食・牧畜系動物部門 『スリー・ビルボード』二出てきた鹿
これくらいしか思いつきませんでしたw 何か忘れているような…

☆肉食・野獣系部門 『パディントン2』よりパディントン
ほかにも『プーと大人になった僕』『ブリグズビーベア』など、近年まれに見る熊大活躍の年でありました。クマ以外ではブラックパンサーさんなど

☆類人猿部門 『ランペイジ』より白ゴリラ
他候補に『ニンジャバットマン』の猿軍団、ゴリラグロットなど。ウキー!

☆恐竜・絶滅した動物部門 『ジュラシック・ワールド 炎の王国』よりT-REX
こちらはジュラシックさんちの独壇場です。個人的にはパキケファロサウルスさんの頭突きに大興奮でした

☆妖精・伝説の生き物部門 『リメンバー・ミー』よりケツアルコアトルっぽかったなんか 『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』より騶虞
W受賞。ファンタビには河童も出てましたね

☆怪獣部門 『GODZILLA 決戦機動増殖都市』『GODZILLA 星を喰う者』よりアースゴジラさん
賛否両論激しいアニメゴジラでしたが、一年に渡る激闘をねぎらって

☆人でなし部門 『シェイプ・オブ・ウォーター』のマイケル・シャノンさん
今年は心に残る殺人鬼とかマッドサイエンティストがいなかった… (あくまで映像の中で)がんばってください

☆ゾンビ・吸血鬼・妖怪部門 『シェイプ・オブ・ウォーター』の半魚人さんと『カメラを止めるな!』のゾンビさん
これまたW受賞。後者は正確にはゾンビではありませんが何か賞をあげたかったので

☆神様部門 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』よりサノス
宇宙猿人からもはや全能の存在となった佐野さんが見事に受賞。他候補にガンダムフェネクス

☆悪魔部門 『へレディタリー』のなんかと『来る』のなんか
『へレディタリー』はこわすぎてわたし観てないんですが

☆ロボット部門 『レディプレイヤー1』よりアイアンジャイアント 『パシフィック・リム アップライジング』よりジプシー・アベンジャー
前者は完全にわたしのひいきです。他にマジンガ―Z、『ハン・ソロ』のオネエぽかったあいつ

☆宇宙人部門 ここはやっぱり『ザ・プレデター』のプレデターさんで
『スカイライン 奪還』の掃除機宇宙人さんや『ヴァレリアン』の皆さんも素敵でした

☆正体不明部門 『グリンチ』よりグリンチ 
でしょうか。ほかに『ルイスと不思議な時計』の椅子や『来る』のなんか

そして栄えある大賞は
『レディ・プレイヤー1』の皆さんです
Rp_poster「俺はガンダムでいく!」 この言葉に胸躍らないオタクがいましょうや。年末には同じ趣向の『シュガーラッシュ/オンライン』もありましたが、サービス的にはこちらの方が上だったと思います。


途中でも書きましたが、2018年は特に熊が強かった印象。今年はこれからダンボやアラジンの精、バンブルビーなどの活躍が楽しみです。年号が変わっても動物・怪物のみなさん、元気でまいりましょう! 人間以外アカデミー賞でした


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February 13, 2019

幽霊はひとりぼっち デヴィッド・ロウリー 『ア・ゴースト・ストーリー』

Ags1風変わりな傑作をおおく送り出している製作会社「A24」。その中でも数々の映画祭で賞に輝いた鳴り物入りの作品を、ようやく拝むことができました。『ア・ゴースト・ストーリー』、ご紹介します。

すこし擦れ違いこそあるものの、仲睦まじい一組の夫婦。だが夫はある日自動車事故であっけなくこの世を去ってしまう。しかしの霊はこの世にとどまり、妻を静かに見守り続ける。

と書くとどうしても思い出すのは名作『ゴースト NYの幻』。ただベタベタな恋愛ものだったあちらに比べ、こちらはかなりシュールなタッチです。まず幽霊のデザインがなんともシンプル。丸目のついたシーツをすっぽり羽織っているだけで、「オバケのQ太郎」を彷彿とさせます。そういえば子供の絵本に出てくるオバケってこういうシルエットのものが定番だったような。お化けと幽霊は厳密には違うものかもしれませんが。

そんな風にビジュアルこそ滑稽ではありますけど、「ストーリー」の方はギャグもほとんどなく淡々と進行していきます。幽霊さんの孤独をひたひたと共感させるような作り。この辺は『ゴースト』というより手塚治虫の『火の鳥 未来編』に近いものがありました。悠久の時をただ一人で生きていかねばならない主人公の悲劇。漫画と映画の違いこそあれ時間の無情さと無限さを強く感じさせてくれる二作品です。

「時間」と書きましたがこの配分がまた独特でした。おくさんが黙々とパイを食べてるシーンを5分くらいかけて撮ったかと思えば、あるくだりでは時間が数十年ジャンプしたりする。そんな風にすることで時間に対する感覚の不確かさを表現したかったのか…というのは考えすぎか。

途中ある面倒くさいやつが、パーティーの席上で「ぼくらはみんないずれ消滅してしまうんだから存在に意味なんてない」みたいなことを言います。この映画はそれを否定してないと思うのですが、なぜか作品からは不思議なあたたかみや優しい視線を感じます。愛情豊かな人が弱弱しく咲いている小さな花に抱くようなそんな感情がこめられているような。
そんなひとりぼっちの幽霊を、ほとんどシーツをかぶったまま『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が記憶に新しいケイシ―・アフレックが好演しております。この2作ですっかり「幸薄い寡黙な男」というイメージが自分の中で定着してしまいました。つい先日監督作『Light of My Life』が海外で公開されたようですが、どんなものを撮ったのか気になります。

どういうわけかタイトルのよく似た(でもまったく関係ない)『シシリアン・ゴースト・ストーリー』という映画も近々遅れてこちらにやってきます。こちらはマフィアがらみのシビアな話のようで。でも雰囲気良さげなのでたぶん観ると思います。

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February 08, 2019

モイといえばモイと答える マリヤッタ・クレンニエミ/サーラ・カンテル 『オンネリとアンネリのふゆ』

サンタクロースとムーミンの国、フィンランドで書かれた名作童話の映画化。ふたりの少女の日常と冒険を描いた『オンネリとアンネリのふゆ』、ご紹介します。

それぞれの家庭で面白くない思いをしていた少女オンネリとアンネリは、あることがきっかけで建築家「バラの木夫人」からかわいらしい家を譲られ、そこで二人面白おかしく暮らしていた。
ある雪の晩、バラの木夫人を訪ねて小人の一家がやってくる。なにかとねらわれやすい小人一家を守るため、オンネリとアンネリは夫人が来るまでドールハウスにかくまうのだったが…

実はこの作品、シリーズ2作目にあたります。1作目は昨年6月に公開された『オンネリとアンネリのおうち』。こちらでは公開されなかったので『~のふゆ』を観る前に予習しておこうと思ったのですが結局バタバタしていて観られませんでした。というわけで、ネットであらすじを調べて想像で補いながら臨んだのですがまあなんとかなりました。

こういってはなんですが、オンネリもアンネリもとりわけ目立つところや変わったところがあるわけではなく、ごくごく普通の遊び好きで純真な性格の女の子。強いて言うならばこまめにクルクル変わる衣装がかわいらしい。ついでにふたりのお家の調度品や内装、隣近所の住人たちまでいちいちキュート。そんな風にかわいらしがかっつまった絵本のような映画でした。わたしがとりわけキュンとなったのは例の「モイ!」というあいさつ。うわさには聞いてましたが、お人形さんのような嬢ちゃんたちが「モイ!」「モイ!」と言うのを耳で聞くと萌えずにはいられませんでした。わたしはおっさんですけど実際にこのあいさつ使ってみたいなあ… モイ! モイモイ!! …失礼しました。

そんなかわいらしさにさらに花を添えるのがゲストキャラらしき小人さんたち。その物珍しさゆえ人間に狙われる…というあたりはジブリで映画化された『狩りぐらしのアリエッティ』をおもいださせます。ちなみに『アリエッティ』の原作が1950年代、『オンネリとアンネリ~』の原作が1960年代。『アリエッティ』の方がやや先んじてますが、たぶん偶然重なっちゃったんだろうと思われます。
この小人ら、アリエッティらとは違ってそこそこ文明的な生活をしているのが特徴。いっぱしに自動車まで所有しています。このおもちゃみたいな車がひょこひょこ走り回る様子がなかなかツボでございました。
その小人をねらういわゆる「悪役」となる女性もそんなに悪人ではなく、「もうすこしいい暮らしがしたいな~」と思願ってちょっと暴走してしまうくらいの人。ついでに無駄に美人。自分の過ちにきづくとすぐに反省してしまうあたりがまた心地よかったりします。

このシリーズは全4作を計画しているそうで、たしかちょうど今日から始まったノーザンライツフェスティバルという北欧作品を扱った映画祭で、3作目の『オンネリとアンネリのひみつのさくせん』が上映されてます。こちらは一般公開の予定はなくそちらでの限定上映とのこと(…)。スチールを見たら主演の嬢ちゃんたちがもうすっかり大きくなってました。だもんでいま製作中の完結編ではまたあらたな子役がキャスティングされてるとのことです。いずれこれらも配信かレンタルで観られるようになるのでしょうか。

ちなみに自分がこれまで観たフィンランド映画って何があったかと思って記事検索してみたら『ル・アーブルの靴磨き』『ビッグ・ゲーム』『アイアン・スカイ』くらいしかありませんでした。地方に住んでるとあまり北欧の作品って劇場で観る機会がないのでかかったら積極的に鑑賞していきたいものです。とりあえず次は電話だけで事件を解決するという『ギルティ』というデンマーク映画を楽しみにしております。

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February 05, 2019

 硝子の執念 ナイト・M・シャマラン 『ミスター・ガラス』

かつてそのジャンルが絶滅しかけていたころ、『アンブレイカブル』でアメコミ映画に挑んだシャマラン。19年の時を経ていま再び彼がアメコミに帰って来ました。シャマランの集大成とも言える『ミスター・ガラス』、紹介いたします。前作というか第二部にあたる『スプリット』の感想はこちら。

決して壊れない体を持ち、ひそかに自警団を続けていたデイビッド・ダン。ガラスのようにもろい体と天才的な頭脳を持つ犯罪者ミスター・ガラス。深い因縁で結ばれた二人は恐るべき身体能力を秘めた怪人「ビースト」の誕生をきっかけに再会。ビースト共々三つ巴の激しい戦いを繰り広げる。

…と書くといかにもコテコテのアメコミ映画という感じですけど、序章部分が終わるとどんどん奇妙な方向へ話が進んでいきます。『アンブレイカブル』がちょっとひねったヒーロー物語だとすれば、本作品は同じジャンルでありながらねじりん棒くらいにぐるぐると螺旋を描いているイメージ。それを特に印象付けているのが第4のキャラクターであるいけすかない女医さん。彼女は3人を向こうに回して「あなたたちは自分が特別な存在だと思い込んでるけどそれは錯覚だから」ととうとうと高説を垂れます。というわけで三人の怪人はお互いがぶつかる前にまず自分のアイデンティティを問われることになります。そんなやり取りを観ていてわたしはUFO研究家の矢追純一氏とオカルトハンター大槻義彦教授の激しいバトルを思い出しました。まあシャマランファン(シャマラニスト)が肩入れしたくなるのは当然矢追さんの方ですよね。
そう、これはアメコミファンとと同時に『ムー』誌とかそういうのが大好きな人々への応援歌でもあります。UFOとかネッシーとか超能力の話とかすると大抵の人は鼻で笑いますけど、全部存在するんですよ! …というかいたら楽しいですよね。
思えば初期シャマラン作品も幽霊や宇宙人などその手のものの存在を疑わせつつ、最後は「実は本当にいるんです!」というものが多かった。「実はやっぱり偽物でした」という・・・・・・のような例外もありますが。ともかく以前のシャマランがちょっと戻ってきたような気がしてうれしゅうございました。

そしてこの映画がすごいのはやはり19年前の作品の続編であり、後付か当初からの予定なのかはわかりませんが、19年時間を置いて寝かした意味がちゃんとあるということですね… こんな気の長い映画マジックはお目にかかったことがありません。
で、このマジックを堪能するにはだいぶ前に作られてそれほどメジャーでもない『アンブレイカブル』を観ておかなくちゃいけないわけですよ。わたしのようなオタクやシャマラニストならともかく、今の若い人には厳しいはずです。ところが自宅を抵当にまで入れてシャマランが挑んだこの博打は大当たり。全米で3週連続第1位というヒットぶりです。もしかしてアメリカの学校ではシャマラン作品が義務教育なのか、金ローのジブリ並に定番の存在なのか… もはや彼の国はシャマラニストたちに占領されてるのかもしれません。おそるべし。

さて、これを機にMCUのようにシャマラン不思議ユニバースでも展開されるのかと思いましたが、この三部作はきっちりこれで終わりだそうで。なんでもシャマランは自作の権利をほとんど自分で有していて、その理由は「続編を作らせないため」なんだとか。そこまで続編嫌いのシャーミンが自分にとって禁じ手とも言えるトリロジーに挑んだのはなぜなのでしょう。うん、きっと自分の中のルールより「こんなアイデア思いついたんだけどやってみたい!」欲が勝ったということなのでしょうね。
しかしやっぱりせっかく広がりを見せ始めたシャマラン・ユニバース、が「あ」という間に収束してしまうのはさびしい。主要キャラたちもあんなことになってしまいました。ですがこれだけは言っておきたい。「アメコミにおい人気キャラは軽率に復活するもの」 この思い、どうかシャマランに届きますように…
『ミスター・ガラス』はまだ全国の映画館で上映中。あと1週が山場かな~

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January 29, 2019

センシ、シカリオしなさい! ステファノ・ソッリマ(テイラー・シェリダン) 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

『メッセージ』や『ブレードランナー2049』のドゥニ・ビルヌーブ監督がベニチオ・デル・トロを主演に据え、凄惨なメキシコ麻薬戦争を描いた『ボーダーライン』。しかし1作ではやりたりないことでもあったのか、脚本家テイラー・シェリダンが再びあの暗殺人をカムバックさせて来ました。『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』、ご紹介します。

メキシコから密入国してきたテロリストによる連続自爆テロ。業を煮やした米国政府は麻薬組織にくわしい暗殺者アレハンドロを再び雇い、メキシコで組織同士の戦争を起こさせることでテロリストのルートを断とうとする。その引き金としてアレハンドロは麻薬王の娘イザベルを誘拐するが、計画は思わぬ方へ転がっていく。

前作の感想はこちら。ひさしぶりに読んでみたらヴィルヌーブ作品としてうんたらかんたらと書いてましたが、続編を観て少々考え直しました。これ、どっちかというと脚本家テイラー・シェリダンがメインの作品ですね。今回監督変わっちゃいましたし…
で、テイラー・シェリダンとは何者か。自分も最近名前覚えたんですけど、脇役俳優からネットフリックス映画『最後の追跡』や『ボーダーライン』で脚本家として注目を浴び、『ウィンド・リバー』では監督デビューも果たしております。テキサスの牧場で育ったという背景ゆえか、3作通じてアメリカの辺境・国境で貧しいながらも必死で生きる人々にスポットをあてています。残酷な現実を直視しながらも、その中にほんの少し優しい視線を織り交ぜるのが上手な作家ですね。あと理不尽なことに対し毅然と立ち向かう女性が好きみたいです。

原題は前作に引き続き『Sicario: Day of the Soldado』となっております。シカリオというのは先の記事でも書いたようにユダヤ人の暗殺者のことです。ただ今回は『ボーダーライン』という邦題が非常によく作品の本質を表していると思いました。このラインとは米国とメキシコの間にひかれた国境のことであり、人でなしと人でありの境目のこともさしております。その二つの線を越える越えないで多くの命が奪われたりします。

そしてとっくに人でなしのエリアに踏み込んでいるアレハンドロさんですが、1作目の時と比べてやや変化が生じているような。以前は復讐のためならどんな手段も択ばない悪鬼のような印象さえありました。今回も政府の命令とはいえけっこうひどいこと色々やらかしてるんですが、巻き込まれたイザベラに対しては優しい態度を崩しませんし、命がけで守ろうとします。彼女は間接的にアレハンドロの家族を殺した顔役の娘であるにもかかわらず、です。ひとまず復讐を果たしたことでそのむなしさに気付いたのか。エミリー・ブラント演じる捜査官との出会いが何か影響を及ぼしたのか。

以下はラストまでネタバレしてますのでご了承ください。

この映画、ピンチを脱したのかどうかもわからないところで突然話が飛び、「どうなってるの?」と観客を当惑させたところで突然の幕となってしまいます。どうもこれまた続編へとつなぐ流れのようなのですが、あーーーーー 本当にもうやめてくださいよそうゆうのーーーーーーーー そういえば『最後の追跡』『ボーダーライン』『ウィンド・リバー』で監督は「フロンティア3部作」と称しているとか。トリロジーが錯綜していてややこしいですね。シェリダン先生は現在テレビシリーズ『イエローストーン』でお忙しいようですが、『ボーダーライン』の続きもお待ちしております…

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January 28, 2019

すけすぎちゃって困るの~ ハリー・クレフェン 『エンジェル、見えない恋人』

Amk1ONE WAY! SO FAR AWAY! STAND BY ME ANGEL~♪ いきなり歳がばれそうな出だしですが、本日はベルギー発の風変わりな天使ちゃんの映画『エンジェル、見えない恋人』をご紹介いたします。

親がイリュージョニストだったゆえか、生まれた時から透明人間だった少年エンジェル。彼を感知できるのは療養中の母親だけなので、エンジェルにとって世界は長い間病院の一室のみだった。しかしある日窓から同い年の少女を見かけたエンジェルは吸い寄せられるように彼女に近づいていく。驚いたことに少女はエンジェルの存在を感じ取る。それは彼女が盲目ゆえに目に囚われない感覚を有していたからだった。

普通透明人間になるには怪しげな薬を飲むとか危ない実験をするとかそういったプロセスを踏むものですが、赤ちゃんのころから普通に透明だったという例は『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部くらいしか知りません。そんな出だしからわかるように、SFというよりかは童話風、アート系のお話であります。製作は『ミスター・ノーバディ』や『神様メール』などのジャコ・ヴァン・ドルマル。確かにこの風変わりな着想はジャコ氏のそれと通じるものがあります。一方で話がこんがらがらずシンプルにすすんでいくあたりは監督独自のカラーでしょうか。

上のポスターを見ますとかなりかわいらしいというかメルヘンチックなムードでございますけど、少年少女が大人になっていくとだいぶセクシャルなシーンも多くなってきます。ただエロシーンもこんだけ堂々とみずみずしく撮られるとあまりいやらしさを感じません。そんな風にエロとアートの境界線についても考えさせられたり。いずれにしてもそういった体当たり的なエロシーンを一人でえんえんと演じておられた主演女優さんには頭が下がります。

見えない体を持つ少年と、見えないゆえに「見る」ことができる少女。やはりテーマは「目に映るものだけがすべてではない」「純粋な愛は視覚に囚われない」といったあたりでしょうか。そんな文芸的な主題が少年漫画のラブコメのように主人公に都合のいい感じで進んでいきます。「人から見えない」ことはかわいそうではありますが、隣に気立てのよい美少女が引っ越してきて一途に自分を慕ってくれるというだけで1千兆円くらいお釣りがくるのでは。ずるいよなあああああ!! こういう皮肉でも悪魔的でもない、全体的に人の好さが感じられるストーリー、欧州アート系ではちょっと珍しいですね。

観ていてわたしが思い出したのはチェコのアニメ作家ポヤルがてがけた『ナイト・エンジェル』という作品。事故で視力を失った青年は暗闇の中手探りで周囲の状況を探っていきます。そして彼が触れると初めてその物体が明るく映し出されるというコンセプト。こちらに道がありますんで気になった方はください。約18分です。

「見えない恋人」という点では先ごろ『ア・ゴースト・ストーリー』という映画も話題を呼びました。こちらも観て来たので近々感想書きますです。

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January 18, 2019

燃えよドラゴ スティーヴン・ケープル・Jr. 『クリード 炎の宿敵』

ようやく今年初鑑賞の映画の感想です。ロッキーの魂を受け継いだ新世代ボクサーの戦いを描いた第二弾『クリード 炎の宿敵』についてだらだらと書きます。1作目の感想はこちら

前作での激闘からしばらく後、ついにアドニスはヘビー級王者の地位を掴み取る。しかし栄光に酔いしれる間もなく、次なる挑戦者ヴィクターが現れる。彼こそはかつてリングの上でアドニスの父、アポロを死に至らしめたイワン・ドラゴの息子であった。復讐心に駆られ挑戦を受けたアドニスだったが、トレーナーのロッキーがその試合を避けることを勧めたため二人の間には溝が出来てしまう。

というわけで前作以上に『ロッキー4(炎の友情)』をひきずっている本作品。『4』は「アメリカ万歳! すばらしいUSA!」という感じで作られた映画でしたが、あれから30年。スタローンもだいぶ心境に変化が生じたのか、そういったプロパガンダとは無縁の、ライバルの心情にもだいぶ寄り添ったストーリーとなっていました。復讐に燃えるアドニスをやんわりとたしなめるロッキー。リングにあがる目的はもっと崇高で純粋なものでなくてはならないということでしょうか。「ボクシングは相手を憎んで憎んで憎み切らないとやってられないスポーツ」なんて話も聞きますが。ともあれ亡父の後を追ってボクサーになったアドニスは『がんばれ元気』を、厳父に鍛えられて同じ道を歩むヴィクターは『巨人の星』を連想させて少年漫画ファンとしては燃えるところです。

パパドラゴを演じるのはもちろん『4』と同じくドルフ・ラングレン。たしかこのあと『レッド・スコルピオン』というランボーみたいな映画で「スタローン、シュワルツェネッガーに次ぐ第三の筋肉スター!」みたいな売り方をされてましたが、ヴァンダムと共演した『ユニバーサル・ソルジャー』以外はそんなにぱっとした活躍がなかったような。あと何気にアメコミ映画がほとんどなかったころに『パニッシャー』を演じたりもされてますね。若いころはしゅっとした美青年でしたが、その後厳しい人生を歩まれたのか『エクスペンダブルズ』ではすっかり怪獣みたいな顔つきになってしまいました。まあその方がますます星一徹っぽくてよかったと思います。

主演のマイケル・B・ジョーダンも変わらぬ…というか『ブラックパンサー』のキルモンガーを経たせいか一層ファイターとしての凄みを感じさせてくれました。『クロニクル』『ファンタスティック・フォー』のころのガリベン優等生の面影はもうありません。彼の忍耐し、躍動し、鍛錬する筋肉がただひたすらに美しい。その肉体だけでも観る価値はある映画です。

以下はラストまで完全にネタバレしてるのでご了承ください。

わたくしボクシング映画・漫画の傑作には、敗者を美しく描いたものが多いと思うのです。6作中もっとも評価の戦い『ロッキー』1作目がそうですし、『クリード チャンプを継ぐ男』もそうでした。漫画でいうなら『あしたのジョー』がありますし、初期の『はじめの一歩』も敗れていったライバルたちを本当に魅力的に描いていたと思います。やっぱり栄光をつかんで超ハッピーに終わる話より、負けはしたけど全力を尽くして悔いなく静かにリングを去っていく姿の方が心に残りやすいのです。
本作品でいうと前半こそ「敗者」はアドニスなので彼を俄然応援したくなるわけですけど、ドラゴ親子のなめた辛酸や負けられない事情が伝わってくると、なんだかライバル側にも肩入れしたくなってきてしまいました。もうどっちも勝ち…というかドローでいいじゃん!と。しかしストーリーの構造上ヴィクターがもう一度勝つことはないのです。二度までも母に裏切られたヴィクターの哀しげな表情を見た時、「いやー、今回は泣くまででもないかな」とか思いながら観てたのに突然鼻水がブシュッとロケット噴射してしまいました。あと勘違いかもしれませんが、お母さんがそんなにも簡単に自分を見限ったのに対し、アドニスが逃げずに真摯に向かい合ってくれることがすごく嬉しくなったのでは。そんなことを想像したらさらに鼻水が爆散してしまったのでした。

監督が変わった二作目というのはダメダメになることが多いですが、『クリード 炎の復讐』はこの例にあてはまらなかったようです。よかったよかった。スタローンは次は終わったはずの『ランボー』やシュワとの共演作『大脱出』の続編が待機している模様。ドルフさんには来月早くも『アクアマン』で再会できます。お二人ともまだまだ元気いっぱいで頼もしいかぎりですね!

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January 15, 2019

クワガタから時計まで 『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』

平成ももうじき終わりですね… 昨年最後に観た映画は平成に別れを告げるかのような、そんな作品でした。『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』ご紹介します。

仮面ライダージオウこと常盤ソウゴはある時自分の記憶が消滅したり回復したりしてることに気付く。その現象は彼だけでなく仲間のゲイツやツクヨミにまで及び始める。原因を探るうちにソウゴは仮面ライダービルド・桐生戦兎と再会し、何者かが時空改変を企んでいることを突き止める。

当ブログでも初期は熱く語っていた平成ライダー。いつのまにやらとうとう20作に突入してしまいました。使われたモチーフを順にあげていくとクワガタ、龍、龍とカード、携帯とφ、トランプ、鬼、カブトムシ、電車と昔話、吸血鬼、バーコード、USB、メダルと動物、宇宙飛行士、魔法使い、鎧武者とフルーツ、自動車、幽霊、医者とゲーム、化学実験、時計…とよくいえばバラエティに富んだ、悪くいえばカオスすぎるラインナップです。まあそんだけ毎年東映さんが飽きられないように、マンネリに陥らないように試行錯誤を続けたということなのでしょう。

大集合映画はこれまでも何本か作られてきましたが今回は「平成最後」「20作記念」ということがやけに強調されていたので、かつてなく感傷的になってしまいました。劇中でクウガのことを「そんな昔のライダーよく知ってるね!」とか言われてましたけど、(え…そんなに昔かな… そうだよね、10年一昔というくらいだから、20年といったらもう二昔だよね… 当時生まれた赤ちゃんがもう成人式を迎えるくらいだものね… 思えばその20年自分はなにをやっていたのだろう… 果たしてどれほど成長したのだろう… ぐあああああああ!!)と何気ないセリフに頭をかきむしりたくなりました。ははははは

まあそんな個人的な事情はともかくとして、さんざんうるさ方から叩かれてきたせいか、ここのところようやく平成ライダー映画も質がよくなってきた気がします。相変わらずあらすじが強引だったり、初心者にはわかりづらいところもありますが、どうすれば過去作のファンが喜ぶか、ということをようやくスタッフが理解してくれたような。これは『ジオウ』テレビシリーズにも言えることですが、要するに個々の作品の設定をちゃんと踏まえて、出来るだけ元の俳優さんが演じてくれたらそれでいいのです。
今回はギリギリまで昨年の福士蒼汰君のようなサプライズ的発表がなく、キャスト的には地味だなーと思っていましたが、本編観たらギャラ的に無理かと思われていた佐藤健氏が登場していてたまげました。公開3日目くらいから公にされましたけど、いやあ、これはよく封切りまでがんばって隠し通した。まさに最初の週末に観た人だけが味わえるご褒美のような特別出演でした。最近はゲゲゲの鬼太郎に推されがちなニチアサですが、20年かけてようやく出身役者が胸を張って帰って来れるようなシリーズになったのかもしれませんね… あと今年からはとうとういわゆる「春映画」を作らなくなったようなので、そっちの費用をギャラに回せるようになったということもあるかも。

まさか『クウガ』を観ていたころはこんなにも続くとは夢にも思ってなかった平成ライダー。年号が変わっても引き続き作られていくのでしょうか。少子化の影響は厳しいでしょうけど、こうなったらいけるとこまでいってください!

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January 09, 2019

ワイスピバトルでつかまえて リッチ・ムーア/フィル・ジョンストン 『シュガー・ラッシュ:オンライン』

世界を制覇せんばかりの勢いで次々と力作を贈り続けるディズニー帝国。その最新作は5年前TVゲームを題材にして好評を博したあの映画の続編です。『シュガーラッシュ オンライン』ご紹介いたします。前作の紹介はこちら

前作での出会いと冒険からしばらく後。壊し屋のラルフとレーサーのヴァネロぺはますます仲良しになり、二人は毎晩ゲームセンターの色々な機械に潜り込んで楽しい日々を過ごしていた。だがいつしかヴァネロぺは決められたコースを走ることに退屈を覚えるようになる。そんな彼女のためにラルフは強引に新コースをこしらえるのだが、そのことがきっかけでヴァネロぺのゲーム「シュガーラッシュ」はクラッシュしてしまう。二人は店主が新たに備え付けたWifiを利用して、ネットの世界でゲーム機を修理する方法を探すのだが…

というわけで今回の舞台はインターネット。「物質でない世界を可視化する」という試みはピクサーの『インサイド・ヘッド』でも行われておりました。あちらはあちらですごかったですが、やはりオタクにとっては様々な見知ったキャラがうろつきまわってるこちらの方が楽しい。また普段利用してるあのサービスやSNSがいかにもといった形で表現されていていちいち舌を巻かされました。「どんなに人気を得ようとしても、結局は猫動画がトップ」とかね(笑)

相変わらずのゲームパロディにも爆笑させられました。ディズニーのプリンセスがグランド・セフト・オートのようなバイオレンスゲームに迷い込んだらどうなるか… これがけっこうそれなりに自然に溶け込んでたりして。予告でうざいくらい流されてた「大きな男の人に幸せにしてもらった?」というアレですが、「現代のお姫様は男に頼らなくたって十分活躍できる」ことへの逆説的なギャグだったようです。

さて、以下は結末までネタバレで。

そんなわけで一見にぎやかで愉快そうに見える『シュガーラッシュ オンライン』ですけど、芯の部分は題名とは裏腹に相当ビターでございました。ラルフとヴァネロぺの関係はいろんなものに重ねあわせることができるかと思いますが、自分はやはり「親友」という言葉が一番しっくり来ると思います。その無二の親友が自分とは違うことを望んでいたら?というお話なんですね。このままの安定を望むラルフ。新しい世界へ旅立つことを願うヴァネロぺ。どちらも決して悪いわけじゃないのだけど、ずっと一緒にいることはどちらかに無理を強いることになってしまうわけです。こういうのって現実にも実際にありそうな例ですよね。

で、こういう時つらいのはより深く相手に依存してる方。要するにラルフです。元嫌われ者でかわいくもないおっさんが奇跡的にプリンセスとお友達になれたのですから、そりゃべったりになるのは当たり前でしょう。だけど本当に親友ならさびしくても相手の望みを優先してあげなくてはなりません。そこでトチ狂って親友に執着しすぎると、それこそ友情がぶちこわしになってしまいます。いまなら友達が遠くに行ってしまっても、それこそオンラインでいろいろ使えるサービスもあるわけですし。
…とえらそげに書いてみましたし、それが正しいことは十分わかっているのですが、ラルフの身になって考えるとさびしすぎるしつらすぎる。それでも男は(女も?)耐えなくちゃいけない。こんなシビアな現実をつきつけてくれるとはにくい… にくいぜディズニー…!! エピローグでの様々な悪ふざけはこのさびしさをまぎらわそうという狙いだったのかもしれませんが、全然中和されてねーから!! 思えば1作目も「どんなになりたくてもなれないものがある」というきついテーマだったしなあ~ ここ最近のディズニーの定番であった「一見親切そうな人が黒幕」というパターンから脱却したところは評価しておりますけど。

こんなほろ苦いお話、子供たちにうけるんかいな、と思いましたが、カラフルな世界を愉快なキャラが駆け回るだけで十分楽しめるのか、本作品は日本では公開から3週連続のトップを飾っております。こうなるともう売れたもの勝ちでしょう。いろいろ申しましたが大傑作なことには間違いないと思います。

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January 07, 2019

きっとぼぎわんが 澤村伊智・中島哲也 『来る』

正月も終わり、仕事が始まったので一緒にブログも再開します。新年最初にとりあげるのは2018年最高のクリスマス映画『来る』です。ではあらすじから。

平凡なサラリーマン田原秀樹はスーパーで香奈という女性と知り合い、結ばれ、やがて知紗という娘を授かる。幸せな家庭を築こうとしていた田原だったが、ある日を境に家で怪奇現象が続発するようになる。おびえた彼は旧友の民俗学者のつてで比嘉真琴という霊能者の力を借り、悪霊を退けようとするが…

この作品のことを知ったのは去年の秋だったか。中島哲也監督の新作ということで興味を抱き予告を見てみたら、これが半端なく怖いんですよ。「こりゃあ、俺、無理だ…」と思ったのですが、中島作品は一応コンプリートしてるでやっぱり観たい。そこで原作『ぼぎわんが、来る』を先に読んでおけばどの程度の怖さか見当がつくだろうと考えトライしてみました。いやあ、怖かったですね(笑)
というわけで当初は完全スルー予定だったのですが、例によってツイッターの妙にいい評判を読んでいたらがまんできなくなり、厳重におむつを装備して鑑賞してきました。
で、実際どうだったかというと、これがなんとか耐えられるくらいの怖さでした。よかった! というのは原作と違い、要所要所でベタなギャグが入ってくるから。これがわたしのようなチキンにはありがたかった。『告白』『渇き、』ではほとんどギャグがなかったことを思うと、ちょっと以前の中島監督が帰ってきたような気がしました。
こんなアレンジをしたら原作者の澤村先生は怒らんかな?と気になったのですが、とりあえず表向きは喜んでらっしゃるようで。そういえば中島監督はもっとひどく茶化してた『嫌われ松子』でも原作者から褒められてたしな。人徳でしょうか。
原作では悪霊の正体やなぜ田原が狙われたのか…ということについて民俗学やミステリー的構造でもって説明してるのですが、映画ではその辺ばっさりカットしているゆえ、謎だらけのように感じる方もおられるやも。贔屓目に見てあげるとそのわけのわからなさがかえって特色となってたような。

映画版で特に印象に残ったのは「家庭」と「子供」の二面性でしょうか。家庭は一般には憩いの場であり癒しの場であるはずなんですけど、ちょっとしたことでストレスの溜まり場となり地獄と化すこともあると。特に一家の主が外見ばかり取り繕うことに躍起になってる場合は。ちょっと家庭の地獄面ばかり強調されてるきらいはありますが、その辺は現実味あるだけに超常現象よりある意味怖いかもしれません。
「子供」に関しても同様かと。ラスト数秒前で大半の人はずっこけるでしょうけど(わたしもそうでした)、あとから振り返ってみると、「子供は天使であり怪物である」ということを上手に表現していたと思います。

映画はこれ1本の気がしますが、原作は登場人物が共通した続編が2作と短編集が1冊描かれております。わたしは2作目の『ずうのめ人形』までしか読んでませんが、怖いながらもよく考えられた構成や意外な展開が楽しいシリーズとなっております。興味ある方はお休み前にでも読み進めてトイレにいけなくなってください。

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December 31, 2018

2018年、この映画がアレだ!

平成最後の年末もいよいよ最後の日となりました。それでは年末恒例の当ブログの映画ベスト参ります。ベストと言いつつワーストからいきます(笑)

☆ワースト1位:『パーティーで女の子に話しかけるには』
ワーストというほど嫌いじゃないく、「すっかり置いてけぼりになった」くらいの映画です。そしてこれのほかに大ハズレが思い浮かばなかった。よい年でした。

続きまして「はっきりよかったとは言いづらいけどなんか賞をあげたい」という「えこひいき賞」の発表です。

☆えこひいき賞:『音量を上げろタコ! なに歌ってんだか全然わかんねぇよ!!』
そこそこひどい映画でしたが妙に気に入ってしまったところも多く。特にあいみょん作詞作曲の主題歌がようございました。「えこひいき賞」はほかに仮面ライダービルド関連3作、コードギアス総集編2作、アニメ版GODZILLA2作などが候補に挙がりました。

でははっきり「良かった」と言える35本、駆け足で発表いたします。

35位:『ニンジャバットマン』 合体合体合体合体!!
34位:『マジンガ―Z INFINITY』 拘束されたマジンガ―がピンチを切り抜けるシーンに1万点
33位:『来る』(来年レビュー予定) 来る! きっと来る!
32位:『オンリー・ザ・ブレイブ』 行こう! 行こう! 火の山へ!
31位:『リメンバー・ミー』 ご先祖は大切に!
30位:『スカイスクレイパー』 今年のベストすかっとしたセリフ大賞「それはできない。俺は○○だ」
29位:『アントマン&ワスプ』 アベンジャーズを救うのはアントマンだって信じてる
28位:『ブラックパンサー』 男同士のキャットファイト!!
27位:『女神の見えざる手』 ジェシカ様ヒールで踏んで!
26位:『タクシー運転手 約束は海を越えて』 本年度マイベスト韓国映画!
25位:『判決、ふたつの希望』 暴言にはパンチを。パンチには親切を
24位:『search/サーチ』 教えてグーグル!
23位:『ムタフカズ-MUTAFUKAZ-』 『HANAGATAMI』と一緒に観て満島真之介氏のすごさに触れてほしい
22位:『ちはやふる 結び』 さよなら、机くん、肉まんくん、ヒョロくん…!!
21位:『イコライザー2』 デンゼル先生の熱血殺人授業!
20位:『若おかみは小学生!』 これを招待作品に呼べなかったことが「熱海国際映画祭」最大の敗因ではないかと
19位:『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』 初代ファミコンのドット絵が一番落ち着く世代です。
18位:『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』 本年度ベストオープニング映画。大ゴケなんか気にするな!
17位:『メイズランナー 最後の迷宮』 もうメイズとか迷宮とかあんまし関係ないんですけど感動したから気にしません
16位:『シュガーラッシュ オンライン』(来年レビュー予定) ネットは広大だわ…
15位:『機動戦士ガンダムNT』 宇宙世紀の空白を埋めていけ!
14位:『インクレディブル・ファミリー』 信じてたよ、ブラッド・バード… いんくれーでぃぶる いんくれーでぃぶる
13位:『僕の名前はズッキーニ』 本年度ベストコマ撮りアニメ。コマ撮りなのに大人向けでビター
12位:『シェイプ・オブ・ウォーター』 デルトロさん、オスカーおめでとう。半魚人だっていいじゃない!
11位:『ハン・ソロ』 「スターウォーズ初のコケ作品」とか言われてるが俺は好きだ! ただもう少し間隔はあけよう!
10位:『ボヘミアン・ラプソディ』 まさか2018年に町中でクイーンの曲がなりひびくことになろうとは… すげえぜ!
9位:『スリー・ビルボード』 今年のハレルソンはすごかった…!!
8位:『ピーターラビット』 ほのぼの童話の皮をかぶった、狂人と凶獣の激闘。怖ええぜ!!
7位:『いぬやしき』 「ちょっこー、お前、本当変わらないよな…」のくだりが本当に好き
6位:『泣き虫しょったんの奇跡』 『来る』とはあまりにも違いすぎる松たか子がすごい!
5位:『カメラを止めるな!』 この映画はね、もう祭りですよ祭り… ワンツースリフォ止めないで~♪
4位:『レディプレイヤー1』 まあこれは実質『アイアンジャイアント2』なので… 俺はIGで行く!
3位:『デッドプール2』 奇跡の『グリーンランタン』再評価映画。黒歴史があるから今の君がいる!
2位:『パディントン2』 モフモフモフモフしやがって… モフモフっていいよね…!

そして栄えある第一位は
91in1gvohhl__sx342_『仮面ライダーアマゾンズ THE MOVIE 最期ノ審判』でした。
これもまああまり人にはすすめられない映画なのですが、テレビシリーズシーズン1からひっくるめての愛情が暴走してこうなりました。気になる方はどうぞamazonプライムでごらんください…!
ちなみに今年物議をかもした『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』に関しては評価を保留といたしました。来年公開の『エンドゲーム』を観てから真価を定めたいと思います。

来年もアメコミ映画を中心に見たい映画がドサドサ予定されております。がんばって生きましょう! それでは2019年もどうぞよろしく~

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December 29, 2018

第15回SGA屋漫画文化賞

2018年もあと2日とちょっと。恒例の漫画ベストと映画ベストをもって〆たいと思います。本日は漫画ベストの方を。第15回SGA屋漫画文化賞参ります。賞金も賞品もありません。むしろくれ。

2018c1☆少年漫画部門:ゆうきまさみ 『究極超人あ~る』

リアル中二のころ夢中になったあ~る君が30年ぶりに帰ってきたとあったら、そりゃ受賞させないわけにはいかないでしょう。
それにしてもあ~る君も登坂先輩もほんと変わんないねえ。その辺に安心したり、自分だけがオヤジになってしまったことがちょっとさびしかったり、
ゆうき先生、またちょこちょこ読みきりで続き描いてくださいねー


2018c2☆少女漫画部門:吉田秋生 『海街diary』

二年連続受賞であります。理由は他の少女漫画をほとんど読んでないのと、12年に渡る連載がめでたく完結されたので。
いやあ、すげえあっさり終わりましたが、それがかえってよかった。あと巻末の番外編的な短編「弟」も胸にしみじみと沁みいるお話でした。
吉田先生はもう1作鎌倉を舞台にした作品を構想されてるそうで、そちらも期待してます。


2018c3青年漫画部門:ちばあきお・コージィ城倉 『プレイボール2』

昨年は少年漫画部門でしたが、今年はこちらで。
ついに始まった谷口君最後の夏大会。今年もっとも続きが楽しみだった漫画。
「ちば野球漫画」を忠実に再現しながらも、現代的な見方も取り入れてあるのが興味深いです。

青年系では他には『キングダム』『ゴールデンカムイ』『銀河英雄伝説』といったヤンジャン系が相変わらず熱いです。


2018c4☆中年漫画部門:原作:萩原天晴・漫画:上原求、新井和也・協力:福本伸行 『1日外出録ハンチョウ』 

これまた2年連続受賞。今年も辛いとき悲しいとき、わたしのささえとなってくれたのはこの漫画の「いかに物事を楽しむか・いかに楽しみを見つけるか」というスピリッツでした。ああもう、大槻さん抱いて…!!
オヤジ系漫画ではやはり福本関連の『新・黒沢』が熱い展開になってきております。あとここ数年楽しみにしてた『銀牙 THE LAST WARS』が終わってしまってちょっぴりショック。


2018c5☆その他部門:矢部太郎 『大家さんと僕』

芸人が描いた漫画が手塚治虫文化賞とはなにごとじゃーーーーーい!! と斜に構えた姿勢で読み始めましたが、最後まで目を通して納得…というか降参いたしました。
大家さんと矢部さんのコンビは『こぐまのケーキ屋さん』の店長&店員さんとよく似ています。大家さんが強風にさらわれそうになるとこなんか特に。

その他系では安達哲先生の『総天然色バカ姉弟』の新刊が出たのもよかったっす。


2018c6☆邦訳部門:ピーター・J・トマシ, ホルヘ・ヒメネス 『スーパーサンズ』


スーパーマンの息子ジョンとバットマンの息子ダミアン。何から何まで対照的な二人が角突き合わせながら繰り広げる冒険コメディ。それをサポートする二人の父ヒーローのやり取りがまた面白い。
今年読んだ邦訳アメコミは他に『バットマン:ザ・ラストエピソード』『バットマン/フラッシュ ザ・ボタン』『バットマン メタル・プレリュード』など。バットマン関連ばっかりじゃー


2018c7☆アニメ部門:雨宮哲 『SSSS.GRIDMAN』

25年前ごくごく一部で人気を博した特撮ヒーロー『電光超人グリッドマン』が、平成も終わろうといういまこの時にアニメになって帰ってきた…!
このアニメは何を語ろうともネタバレになってしまうので、興味ある方はさっさとネトフリに入ってごらんください…! 『ウルトラマンネクサス』『仮面ライダーW』などを手がけてこられた長谷川圭一先生の最高傑作であります。

アニメでは他に超珍作の『ポプテピピック』やあの名作のリメイク『デビルマンcry baby』が印象に残っております。


2018c8☆大賞:徳丸正弘 『もっこり半兵衛』

下ネタ漫画を得意としておられた徳丸先生がギャグセンスはそのままに江戸の人々の情愛や哀感を高らかに歌い上げた傑作時代劇漫画。
特に2巻冒頭の「伊助の武芸指南」が大変素晴らしく、シンプルながら交わされる会話の一つ一つが力強くかつ切ないエピソードでした。思い出しただけでも鼻水が垂れ流れます… チンコネタが苦手でなければ自信を持っておすすめいたします。

本年もいっぱい面白い漫画に出会えて感謝。来年も積極的に面白き漫画を発掘していきたい所存にございます。では。


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December 25, 2018

ニュータイプの涅槃が見られるか 富野由悠季・福井晴敏・吉沢俊一 『機動戦士ガンダムNT』

そういえば『00』が終わってからめっきりガンダムについて書かなくなってしまいましたが、今でも自分は普通にガンダムが好きです。『UC』や『鉄血のオルフェンズ』もかなりはまって観てましたし… そのガンダムの映画が微妙な距離(車で1時間半)の劇場でかかると知り、年末の忙しい時期マイカーを飛ばして観に行ってまいりました。『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』ご紹介いたします。

地球の支配階級と宇宙に移民させられた人たちの対立がつづく近未来。度重なる戦火や極限状況はやがて一部の人間を新たなる種「ニュータイプ」へと進化させていく。そしてそのニュータイプの精神に感応して動くマシン「サイコフレーム」は超常の現象まで引き起こし、世界を震撼させる。奇跡を呼び起こした機体「ユニコーンガンダム3号機フェネクス」の力を手に入れるべく争奪戦を繰り広げる各勢力。その中にはフェネクスのパイロット・リタと幼少時を共に過ごしたヨナ・バシュタとミシェル・ルオもいた。

「ナラティブ(NARRATIVE)」とは「物語」「神話」という意味があるそうで。副題の「NT」はそれと、宇宙世紀ガンダムの重要なキーワード「ニュータイプ」をひっかけてるものと思われます。

で、この度の新作、やはり原作を福井晴敏氏が手掛けた『UC』の後日談的な意味合いが強く、補完能力の強い方ならいきなりこれを観ても大丈夫でしょうけど、できたら『UC』を先に観てから臨んだほうがよいかもしれませんん。他にも『Z』や『逆襲のシャア』などからの引用もいろいろあり、宇宙世紀ガンダムを知ってれば知ってるほど楽しめる作りになっております。

それほどまでにガンダムを愛している福井氏ですが、宇宙世紀の創始者富野由悠季監督とは違う独自の道を歩み始めている気もします。まず富野監督との大きな違いのひとつはセリフが普通によくつながってる(笑) 富野監督のセリフ回しって会話になってんだかなってないんだかよくわかんない感じですしね… それがひとつの味でもあるんですけど。もうひとつは大人たちが概ねちゃんとしているということ。『NT』では子供を人体実験するひどい大人も出てきますが、『UC』と同じく主人公を心配して健全な道を歩ませようとしている大人たちもちゃんといます。富野作品では若者と一緒にフラフラしてる大人が多かったからなあ。

そして富野監督が見切りをつけた「ニュータイプ」について蒸し返してる…じゃなくて、もう一度ちゃんと取り組もうとしてる点。御大は途中で「人類の進化が明るい未来をもたらす」というテーマに行き詰まりを感じてしまったのか、『F91』以降は前面に出さなくなってしまいました。しかし初代ガンダムから付き合ってる我々としては、やはり宇宙世紀ガンダムにはこの要素がないと物足りなく感じてしまいます。

ちなみにニュータイプの能力についてどんなだったか振り返ってみると、初代のころは「人一倍勘がいい」くらいのものだったと思います。それが『Z』『ZZ』になるとモビルスーツに半端ない出力を放出させたり、死者の精神を呼び寄せたりすることもできるようになりました(笑) そして『UC』に至るとサイコフレームの力もあって、神に近い存在にまでなり、周囲一帯の艦隊を無効化することさえ可能になりました。まさにニュータイプ能力のインフレ化が止まらないような状態になっております。
今回の『NT』では、「ニュータイプなら肉体が滅んでも精神だけ永遠に存在できるのでは」というところにスポットがあてられています。なんかかつて『銀河鉄道999』でも問われたような問題ですね(なつかしいなあ)。福井さんはその危険性と希望の両方を説き、結局「どっちやねん」という状態で幕を引きます。ずるいですね! 

なんかいろいろdisってるような文章になってしまいましたが、主人公3人の哀れな境遇や強い絆にはけっこう鼻水垂らしてたりしてました。自分、なんだかんだ言って福井節にはかなり弱いもので… そういえば超能力を持つゆえに虐げられる子供たち、というモチーフは『終戦のローレライ』にもあったなあ。あれも『Zガンダム』の「強化人間」にインスパイアされたアイデアだったんですかね。
メカ戦においてもいっぱいサービスしていただきました。懐かしのディジェにはじまり、着たり脱いだりと忙しいナラティブガンダム、ラスボス感たっぷりのセカンドネジオングに、ユニコーンガンダム1号機にも増して神がかってるフェネクスとキャラ立ちまくりのモビルスーツ群がスクリーンを彩ります。

さて、このままニュータイプの影響力が強まると時代的に後に位置する『F91』とはつながらなくなりそうですが、サンライズ的にはその辺どう処理するのか? その答えは来年から始まる『閃光のハサウェイ』3部作で知ることが出来そうです。『Zガンダム』以上に暗いと言われるこの作品、果たして我々の胃は耐えられるのか… た、楽しみですね!

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December 24, 2018

スパイダーマン×スーパーマリオ デビッド・ロバート・ミッチェル 『アンダー・ザ・シルバーレイク』

2018年もあますところあと一週間… わたしが最後に映画館で観た実写洋画はこの作品になりそうです。『アンダー・ザ・シルバーレイク』ご紹介いたします。

ロサンゼルス市で一際おしゃれとされているシルバーレイク地区。そこで特に目的も仕事もなくダラダラと過ごしている青年サムは、ある日同じアパートに住むサラといい雰囲気になる。だがその翌日サラとそのルームメイトたちは忽然と姿を消してしまう。サムは彼女の消息をつかむためにあちこち動き回っているうちに、シルバーレイクの裏に潜む上流階級の企みに近づいてしまう。

ロサンゼルスといえばハリウッドがあって華やかでセレブ達が集う街…というイメージがあります。しかし本当のセレブ達は一部で、普通に貧しいひとたちもそこでは暮らしているようで。この映画に登場するサムの境遇は『ラ・ラ・ランド』より低く『フロリダ・プロジェクト』よりは多少マシ、といったところです。というかまず真面目に働こうとしないのがあまりよろしくないw

支配階級の陰謀に自分一人が気づいてしまった…というサスペンスはちょくちょくあります。日本でいうと代表的な例は『20世紀少年』などでしょうか。で、そういう話の主人公はそれなりにかっこよかったりカリスマ性があったりするものですが、この映画のサムは本当にだらしないしボンクラだし老人や子供にも容赦しないし、長所がほとんどありません。強いてひとつあげるなら多少見てくれがいいので女の子が自然と寄ってくることくらいでしょうか(腹立たしい)。あと一般の陰謀サスペンスと比べると組織側の追及もいまひとつゆるい。アパートの家賃の取り立ての方が厳しいように思えました。

いってみればとても中二的なストーリーであるわけですが、中二になりきってるというのではなく、かつての中二的な自分を冷ややかに温かく(どっちなんだ)見つめてるような姿勢を感じました。監督もかつてはロスの片隅で将来にめどが立たず悶々としてるような青年だったのかもしれません。
あとウンコとかオナニーと下ネタも出てくるのですが、あまり汚くかんじられず、全体的にオシャレ感の方が強く残ったのは監督のセンスゆえでしょうか。ダニー・ボイル監督の『トレインスポッティング』とその辺似ております。

そんなボンクラ―を演じるのは『アメイジング・スパイダーマン』や『沈黙』『ハクソー・リッジ』などで知られるアンドリュー・ガーフィールド。真面目で苦悩してひたむきにがんばる役が多かったですけど、そういうのに疲れたのか今回は180度違う極めてええかげんなキャラを好演してました。劇中ではコミックのスパイダーマンを手に取るシーンもあり皮肉が効いてました(笑)。

ちなみにわたしがこの映画を観ようと思ったのは、予告で主人公がスーパーマリオに興じていたから。流麗なCGが幅を利かしているこの時代に元祖ファミコンのスーパーマリオですよ。まるでこないだミニファミコンを購入した自分のようで、すごく親近感を覚えたのですね。いまでもあちらでは人気があるのか、それとも単に監督のひいきなのか。
いずれにせよそんなスーパーマリオの引用にもちゃんとした理由があって驚いたり嬉しかったり。それだけにとどまらずニンテンドーが物語のカギを握っていたりしてたまげました。この世界を裏から動かしているのは任天堂なのかもしれません。微妙に説得力あるような… 恐ろしいですね! 今年の正月はその某社の百人一首にでも興じながら日本を取り巻く陰謀について考えてみようと思います。それともやっぱりスーパーマリオの方が楽しいか…

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