November 14, 2019

お笑いモンスター誕生 トッド・フィリップス 『ジョーカー』

これはも~語るべき人が語りつくし、わたしが語ることもないと思いますが、一応備忘録として書き留めておきます。今年度下半期最大の問題作といっても過言ではない『ジョーカー』、ご紹介します。

1980年代アメリカ。貧富の差により不穏な空気が漂うゴッサムシティに、老いた母と二人で住むアーサーという青年がいた。彼は精神障害をわずらいながらも、コメディアンとして人々を楽しませようと仕事に励んでいた。だが同僚から護身用の銃を渡されたことと、不遇が度重なったことが、彼の心の中で危険な衝動を育てていく。

キャラクターとしての「ジョーカー」が誕生したのは1940年。恐らく登場してからしばらくはその名の通り道化師的な、バットマンのやられ役、引き立て役にすぎなかったヴィランであります。それが段々と凄みを増していったのはそのオリジンが描かれた1988年のコミック『キリング・ジョーク』から。アメコミを変えたと言われるアラン・ムーアの描くその狂気は、ジョーカーの内に潜む闇をまざまざと読者の胸に刻みつけたのでした。そして2008年ヒース・レジャーが演じた映画『ダークナイト』では、ジョーカーはバットマンと対等と言っていいほどの、計り知れないパワーを持った存在にまで高められます。一方で『レゴバットマン』のようにバッツに執着するかわいらしい駄々っ子のように描かれることもあり… 本当に多種多様のバリエーションが生まれることになります。詳しくは記事下の「ジョーカー表」をご覧ください。

ただここまで書いておいてなんですが、監督のトッド・フィリップスはそれほどジョーカーに対して強い思い入れがあったわけではないようで。じゃあなぜこの映画を手掛けたのかというと、最近個性的なドラマ映画の企画がなかなか通りにくいと。ならとりあえず今人気のアメコミ映画のガワをかぶせておけば自分のやりたい話を撮れるんじゃないかと。そしたらあっさり通ってしまったそうです。ちなみに監督は「何らかの注文とか要請とか来るんじゃないと覚悟してたら全く来なかった」とのこと。さすがはあの「鷹の爪団」ともコラボしたDCコミックス&ワーナーブラザーズ。なかなかの懐の広さです。

というわけで自分はこの映画を「ジョーカー」の映画というよりは、「ジョーカーの名前だけ借りたトッド・フィリップスのマーティン・スコセッシ・オマージュ作品」だと考えてます。すでに色々言われてますが、社会的立場の低い主人公が孤独ゆえか次第に常軌を逸した行動を取っていく流れはスコセッシの名作『タクシードライバー』を彷彿とさせます。また未見ですが、冴えないコメディアンが妄想に取りつかれていくストーリーは『キング・オブ・コメディ』との類似をよく指摘されています。そして両作品の主人公であるロバート・デ・ニーロが重要な役で出演していたり。実際フィリップス監督はこの映画のプロデュースをスコセッシに依頼したそうですが、彼は多忙だったため、代わりの制作者を紹介してくれた…なんて縁もあります。

もっとも主人公にどっぷり自分を重ね合わせていることが多いスコセッシに対し、フィリップス監督はジョーカー=アーサーに対し距離を取っているというか、あくまで客観的に見つめているように感じられます。その辺は彼がずっと『ハングオーバー』などのコメディ作品を手掛けてきたからではなかろうかと。お笑いって「人がなぜそれを面白がるのか」冷静になって考えていく作業でもありますからね。

それはともかくこの映画のヒットと同時進行で、スコセッシ監督が「マーベル映画はテーマパークのようなもので本当の映画じゃない」という発言をしたためにけっこう業界全体に波紋が広がったりもしました。「アメコミ映画」といわずに「マーベル映画」と言ってるあたり自身もちょっと関わった『ジョーカー』に気を使ったのでしょうか。その後ちょこちょこフォロー的な発言もされてましたが、つまるところ彼は渋いドラマ映画や文芸的な作品が劇場でかけづらくなってきたことを憂いているようです。いまそういうのがやりたいとなると映画館よりも配信サービスの方でどうぞ、ということが多いようなので…

で、この『ジョーカー』は体裁だけでもアメコミ映画にしてしまえば、CG少な目の挑戦的な内容でも客は集められるということを証明してしまいました。正直観る前は「バットマンが出てこなそうなジョーカーの映画なんて売れるのか???」とかなり心配しておりました。ところがどすこい、公開前から批評家は絶賛、ベルリン映画祭の金獅子賞は取る、そして最終的には10億$までいっちゃうんじゃないかというヒットぶりです。派手なアクションがあるわけでもなし、美男美女もそんなに出てないし、しんどく切なく苦しいストーリーとおおよそ一般には人気のなさそうな内容にも関わらずこれだけ売れてるのは謎としかいいようがありません。さらにライバルが少ない状況だからとはいえ、日本で4週連続トップを取るほどに客が入ってるのも深い謎です。トッドさんのやり方もあざといとは思いますが、結果的にこんだけドラマ性、テーマ性の深い作品がたくさんの人に観られてるのは良いことなんじゃないでしょうか。

アメコミファンとしてはやっぱり「ガワだけ利用してやりたいことをやった」というのがひっかからないでもないです。けれど聖書やギリシャ神話、シェイクスピアといった古典作品もそういう風に利用されることはよくあります。バットマンとジョーカーも誕生して80年。もう「古典」の部類に属する作品とみなしていいのかもしれません。

わたくしこの映画を観たのはもう一ヶ月以上前なんですけど、未だに映画館で普通に上映中。さらにS・キングの『IT』後編もヒットしていて、空前のピエロブームというちょっとおかしな状況になっております。とりあえず『ジョーカー』はアカデミー賞作品賞候補となることはほぼ間違いないので、アメコミに興味ない人も騙されたと思ってちょっと観ていただきたいです。

 

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November 07, 2019

殺し屋さんたちと動物たち チャド・スタエルスキ 『ジョン・ウィック/パラベラム』

もはやキアヌ・リーブスの代表作となりつつある殺し屋映画シリーズ「ジョン・ウィック」。本日はその最新作にして第3弾の『ジョン・ウィック/パラベラム』、ご紹介します。1作目の記事はこちら 。2作目の記事は こちら

どうにも我慢ならぬことがあり、つい殺し屋組織の掟をやぶってしまった伝説のヒットマン、ジョン・ウィック。それにより彼は組合に所属する全ての殺し屋たちから、賞金首として狙われることになった。ひとまず愛犬をホテルに預け(ホッ)、逃亡のたびに出るジョンさん。文字通り四面楚歌の状況で彼が生き残る道はあるのか…

「そこで終わるんかーい!!」というところで幕を降ろした前作。今回はもろにその直後から始まります。長年の義理からジョンさんにちょっとだけ時間の猶予を与えてしまう殺し屋ホテルの支配人。そのことがジョンさんにわずかな活路を、組織には大きな混乱を招くことになります。

『パラベラム』で特に印象に残ったのはなぜか画面の端々に出てくる動物さんたち。冒頭では厩舎に逃げ込んだジョンさんが実に上手にお馬さんを利用して追っ手をバタバタ撃退していきます。この映画のテーマである?ワンちゃんたちも負けてはいません。ジョンさんとヒロインを守って悪党たちにガブガブと噛み付きます。こんなにされたら悪役の俳優さんもひとたまりもなかろう…ということで恐らくCGかと思ったのですが、撮影現場の動画を見たらガチでした。そのリンクを貼ろうとしたのですが、どこにUPされてたかわからなくなってしまったので、ご興味おありの方はがんばって探してみてください。

そしてジョンさんの最大の好敵手となる男がなぜか猫好きの寿司職人。そのお店ではなぜかきゃりー・ぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」が流れていたりします。謎だ!! さらにこの職人さんとその部下は、ジョンさんがターゲットであるにも関わらず「あんたの大ファンなんだ」と恥ずかしげも無くリスペクトを告白します。そしてピンチになったジョンさんが「ちょっと待って」と言うと素直に待ってしまう… さすがにここは寛容なわたしも「それは幾らなんでもおかしかろう!」と思いました。まあそんな感じでこの度の第3作、これまでよりもお笑いムードが濃くなってしまった感があります。少々腑に落ちない気もしますけれど、猫がかわいかったので許すことにします。

寿司職人を演じるのはマーク・ダカスコスさん。わたしが大好きな『ジェヴォーダンの獣』でネイティブ・アメリカンの武術家を演じておられた方でした。日本、アイルランド、フィリピン、スペイン、中国と様々な人種の血をひくめっちゃ多国籍な俳優さんです。ちなみに『ジェヴォーダンの獣』はフランスの田舎でアメリカン武術とアフリカン武術が激突するという滅法カオスな時代劇でおすすめです。

『ジョン・ウィック/パラベラム』はアメリカで公開されるやまたしても大ヒットとなり(本当に米国人、こういうの好きよね)、ほぼ第4作の製作が決定となってしまいました。それが伝わってきたのが日本公開前。…となるともう大体わかっちゃいますよね。ジョンさんが3作目で生き延びられるのかどうなのか(笑)。今回もまたしてもスッキリしない幕切れだったので、スタッフに苛立ちを覚えつつもたぶん次も付き合うと思います。

若かりしころは続編が嫌いらしかったキアヌさんですけど、先日『マトリックス』の第4作にて再びネオ役を演じることが報じられびっくりしました。恐らくジョン・ウィック4よりもそちらの方が先になることでしょう。20年ぶりのグラサンカンフーに期待しております。

 

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November 04, 2019

沈黙の旅館 アンソニー・マラス 『ホテル・ムンバイ』

有頂天ホテルにグランド・ブダペスト・ホテル、マスカレード・ホテルにホテル・マリーゴールド… ホテルの映画も色々ありますが、本日は実在の事件を題材にしたホテルの作品について書きます。『ホテル・ムンバイ』、ご紹介します。

2008年、インドのムンバイで起きたパキスタンのイスラム過激派による同時多発テロ。その矛先は長い歴史を誇り、資産階級がこぞって利用するタージ・マハル・ホテルにも向けられた。テロリストたちの容赦ない銃撃に逃げ惑いながらも、ホテルの従業員たちは懸命に宿泊客の命を守るべく奔走する。

2008年というと今から11年前。この事件も大大的に報道されてたと思うのですが、なんでか記憶がなく、まことにお恥ずかしい限りです。

インドの映画といえばいかつい男性が歌って踊って悪者たちをバッタバッタとやっつける、そんなイメージですのでみんな明るくハイテンションなんだな…と思います。しかし急成長の影で多くの社会問題も抱えているわけで、この『ホテル・ムンバイ』はそんなインドのひとつの裏面についてわたしたちに教えてくれます。ですから歌も踊りもありません。

ハリウッドのアクション映画ではテロリストがある建物を占拠して、命知らずのヒーロー一人立ち向かって事件を解決する…というものがいっぱいあります。けれど現実ではテロが起きても都合よく正義のヒーローが居合わせることはまずありませんし、兵器の訓練を受けた武装ゲリラが突然押し入ってきたら一般人であるわたしたちは無力に等しい。そんな絶望度100%な状況を巧みなカメラワークで上手に理解させてくれるので、観てるわたしたちもその時の宿泊客の一人になったような気分を味わえます(あまり味わいたくないシチュエーションではありますが)。フィクションではいかにも生き残りそうな人も、出番の少ないキャラと平等にさくっと殺されてしまうところにもテロの恐ろしさがよく表れていました。

で、こういう映画を観ると無信仰の人が多い日本では「やはり宗教は怖い」と感じられる方がいっぱいいると思います。しかし単なる宗教批判の作品ではないことは、ホテルの従業員たちの描写を見るとよくわかります。彼らもテロリストたちと同様信心深い人間たちですし、そもそもお客たちを助けようとするのもその信仰心によるところが大きい。異なる場面で主人公のデーブ・パテルが牛肉を、テロリストたちが豚肉を食べることを嫌悪するシーンがありましたが、そういうところからも動機は違えど宗教が毒にもなり薬にもなるということがうかがえました。

また、情け無用の殺人マシンに見えたパキスタンの少年たちも段々と年相応の顔をのぞかせて辛い気分にさせてくれます。ホテルの豪華な作りに無邪気に驚いたり、女性の死体の胸を探ることをためらったり、故郷の家族に電話で愛情を伝えるエピソードなどから。年若いゆえに純粋であり、その純粋さを狡猾な指導者に利用されてしまう。この黒幕が未だに逮捕されていないという事実になんともやるせない怒りを感じます。

武器を持たぬ者には圧倒的に強かったテロリストの少年たちも、国の特殊部隊の前では赤子同然であり、普通なら気分爽快になるであろう終盤の部分も先に書いた描写などから複雑な思いをかき足られるのでした。

そんなしんどい・せつない・せつない・やるせないと三拍子そろった『ホテル・ムンバイ』でしたが、デーブさん初め自己犠牲的な従業員たちの姿には本当にこころ洗われました。その多くは今も現役でタージ・マハル・ホテルで働いているとのことなので、お金をためてついついお顔を拝見しに行きたくなります。自分の安月給ではとても泊まれない気もしますけど…

『ホテル・ムンバイ』は一月前にTOHO系列で観てきたのですが、これからかかるところもチラホラあるようなので気になった方は公開劇場一覧 をご覧ください。また本来通りの陽気なインド映画も現在『ロボット2.0』が上映中。こちらもおすすめです。

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October 30, 2019

北極点に進路を取れ レミ・シャイエ 『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』

こないだから子猫を引き取ってしまったので更新が滞りがちです… 今回は名だたる賞に輝きながら3年もの間日本未公開だったアニメ映画『ロングウェイ・ノース 地球のてっぺん』ご紹介します。

19世紀ロシア。北極点を目指して消息を断った探検家の祖父を追い、貴族の少女サーシャは北の海へ旅立つ。世間知らずの身ゆえ苦労を重ねながらも、サーシャはようやく目的を果たすための船と乗組員を手に入れる。だが行く手には荒海と極寒と氷壁が待ち受け、さらに果てない苦難が少女たちを襲うのだった。

まず帝政末期のロシアが舞台というのがアニメでは珍しい(他は『アナスタシア』くらい?)。ほんでもって制作はデンマークとフランス。丸っこいキャラデザと淡い色調は『ソング・オブ・ザ・シー』などで知られるトム・ムーア作品を思い出させます。あちらよりはまだ頭身が伸びやかではありますが。

映画を観る前はサーシャちゃんは根っからのお転婆娘なのかと予想していましたが、実際はかなり育ちのいいお姫様でございました。そんな箱入りのお嬢さんがおじいさんのために慣れない仕事をがんばってこなし、ついには荒くれどもも舌を巻く冒険家になっていくのですが、その成長ぶりにおじさんはただただ感心するばかりでした。

一方で男どもはどいつもこいつも問題児ばかり。一番人格者の船長さんでさえ堅物すぎるところがあるし、その弟は悪いやつじゃないんだけどチャランポランな野郎であります。サーシャを慕う下っ端の少年も肝心なところで彼女を責めたりします。でもまあダメンズたちもそれぞれに反省し、最後には一丸となって目的を果たそうとがんばる姿は微笑ましゅうございました。

児童文学と冒険小説を見事に融合させたようなそのストーリーはどこまでもまっすぐで、ひたすら気持ちがよかったです。これからロシア貴族たちは大変な時代を迎えるわけですが、サーシャさんならば気丈にその激動を乗り越えていけることでしょう。

このアニメは普通の映画館ではなく恵比寿の写真美術館というところで鑑賞いたしました。こちらとすぐ近くの恵比寿ガーデンシネマ、そして阿佐ヶ谷のユジク阿佐ヶ谷の3館はがんばって欧米の個性的なアニメを上映してくれてるので地方の身ながら感謝しております。『ロングウェイ・ノース』も写真美術館では公開が終わってしまいましたが、ユジク阿佐ヶ谷でひきつづき上映が決まっておりますので気になった方はそちらでごらんください。

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October 22, 2019

彼方の海王星 ジェームズ・グレイ 『アド・アストラ』

これももう明後日には終了かな… ワンハリに続いてブラッド・ピットが挑んだのはたぶん初めての宇宙SF。『アド・アストラ』、ご紹介します。

時はたぶん近未来。宇宙飛行士のロイはやはり宇宙開発に携わり、海王星への旅の途中行方が途絶えた父の消息の手がかりがつかめたという知らせを受ける。だがロイの父が行っているらしき実験は、太陽系全体のバランスを崩しかねない恐ろしいものであった。ロイは政府の命により父と交信して、彼の行動を止めようとするのだが…

冒頭から大惨事があったり、何度も突然主人公に死の危機がせまったりと、なかなかにホラー寄りの映画でございました。突然物陰からぶわっとなんかが飛び出すシーンもあったりして、そういうのが苦手な人にはおすすめできません。けれどそういうハプニングに際してもブラピがほとんど動じず冷静に冷静に物事に対処していくので、ビビリのわたしでもそれなりに安心して見ることができました。そういうクールな男が自分の知らぬ間に大きな陰謀に巻き込まれ、宇宙を舞台に探求の旅を続けていくあたりは『装甲騎兵ボトムズ』を、地球→月→火星→海王星と太陽系の端へ端へと向かっていく流れは『無限のリヴァイアス』を思い出しました(と、すぐまた一昔前のアニメに例える)。

このお話、名画『地獄の黙示録』の元にもなったコンラッドの小説『闇の奥』を踏襲してるようなところがあります。一応簡単に説明すると『闇の奥』は植民地が盛んだった時代にある船乗りがアフリカの奥地で名を成している男を訪ねていく…というお話。つまり舞台を宇宙から19世紀の未開の地域に差し替えてもそれなりにしっくりくる話なのです。男の実験が世界を危機に陥れるという一点を除いては。あと『闇の奥』とそのフォロワー的作品群は、結局何が言いたいのかわかりにくいシュールで難解なところが魅力的だったりするのですが、『アド・アストラ』は訪ねていく男がお父さんなので、やや人情的なお話になってしまった気がします。なんちゅうか『ゼロ・グラビティ』『インターステラー』それに『ファーストマン』と最近の宇宙開発ものはどうも親子の情を絡めたがる傾向がありますね…

難点をあげるとすれば、ブラピが海王星にたどりつくのがなんか早すぎる(数ヶ月)ということ。だっておやっさんは16年前に行方知れずになったのに、ずっと放置状態だったわけですよ。そんだけで行けるのであればなんでこれまでいっぺんの救助隊も出さなかったの?という疑問が湧いてきます。ここはひとつ「最近開発された新技術で大幅に航行時間が短縮できるようになりました」みたいなエクスキューズがほしかったところです。

でもまあ、わたしこの映画嫌いになれないんすよね。冒頭の軌道エレベーターや、月面でのカーチェイス、荒涼とした火星基地、青みがかった海王星の風景…などなど印象的で個性的な絵がいろいろあったもんで。あと妙に冷めた雰囲気が好みでした。この雰囲気が好きか嫌いかで評価が別れそうです。

監督のジェームズ・グレイさんはどちらかといえばマフィアや暗黒街を舞台にした人間ドラマを得意とするアート畑の方で、カンヌやヴェネツィア映画祭などで活躍してこらた作家。だから批評家にはなかなか受けがよろしい。今回も公開前はそちら方面から絶賛されておりました。が、いざ封切られると一般観客からはけっこうなブーイングがw なんかこういうの面白いですよね~

ちなみに今週末から公開されるアン・リー御大の『ジェミニマン』もそんな感じとのこと。気になってきました… とりあえず『アド・アストラ』が気になりつつまだ観そびれている方は今日明日のうちに映画館へ急いでください。

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October 15, 2019

雨は夜更け過ぎに血糊へと変わるだろう チャン・イーモウ 『SHADOW 影武者』

長雨が続いてますね… そういえば一ヶ月ほど前こんな映画を観ました。中国映画界の巨匠チャン・イーモウが『三国志』の1エピソードを大胆に脚色。『SHADOW 影武者』ご紹介します。

たぶん今から1800年くらい前。小国の沛と隣国の炎は領地を巡り争っていた。沛の武将・都督は奪われた領土を取り返そうと血気にはやっていたが、戦いで受けた傷のため思うように動けずにいた。そこで都督は己に瓜二つの影武者に一計を与え、炎の将軍を亡き者にしようと企む。だがいつしか影武者は都督として振舞ううちに、主人の妻を恋い慕うようになってしまう。

元のお話は『三国志演義』の「荊州争奪戦」というパートだそうです。が、まったく思い出せません(…) ただ有名な武将が全然出てこず、メインのキャラクターは架空の人物ばかりなので、原型をとどめぬほどにアレンジされちゃってるのでは…と思います。

監督チャン・イーモウ氏は相当作風の幅が広い方で、『紅いコーリャン』といった痛々しい芸術作品も撮れば、『初恋の来た道』『あの子を探して』といったほのぼのした人情ドラマも手がけ、さらには『HERO』『グレートウォール』といったけれんみの強いアクション映画も作っております。今回の『影武者』は芸術系とアクション系をまぜこぜにしたようなスタイルでありました。

独特なのはカラー映画なのにかなりモノクロに近いような水墨画的な画面つくり。そして中国にも雨季的なものがあるのか知りませんが、ほぼお話のほとんどで雨が降り続いていること。そりゃお話も画面も暗くなろうというもの。そういえばこないだ同じように、異常な雨続きの世界で切ない恋模様が展開される映画を観たような… 『天○の子』とかいうタイトルだった気がします。

そうそう、自分がこの映画を観たいと思ったのは予告でやけに危なっかしい「傘」が出てきたからです。どんな傘かというと…下画像を御覧ください。雨が降り続く環境ということで「そうだ! 傘を武器にすれば!」と思いついたのかもしれませんが、どうにも隙間が多すぎて悪天候をしのぐのは難しそうです。というか扱ってる本人もうっかりすると身を切りそうです。そんなわけで現実的とはあまり言い難いのですが、他ではまず見ないパラソルアクションが痛快でございました。傘がこんだけ武器として扱われてる作品といったら、他は『キングスマン』くらいでしょうか。

当然ですが 都督と影武者は同じ役者が演じております(ダン・チャオさん)。いま中国で押しも押されぬトップスターなようで。わたしは『人魚姫』くらいでしか見たことないんですが、苦労性の役が多い感じですね。この映画でも二通りの痛々しい役を上手に演じ分けておられました。

あともう一点、この映画妙に覗き見をしてるカットが印象に残るんですよね。そんなにエッチなシーンがあるわけではないのですが、なにやらいけない気分にさせられました。

『SHADOW 影武者』は宣伝が小規模だったせいかマニアックだったせいか、全国公開だったにもかかわらず二週間くらいで公開が終了してしまいました。たぶんそのうちDVDか配信かあるんじゃないかな… 興味あったのに見そびれた方はそれまでお待ち下さい。

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October 10, 2019

ベル・エポックを君と ミシェル・オスロ 『ディリリとパリの時間旅行』

『キリクと魔女』『アズールとアスマール』などで人気の高いフランスのアニメ作家ミシェル・オスロ氏の最新作。本日は19世紀末のヨーロッパで元気な女の子が冒険を繰り広げる『ディリリとパリの時間旅行』について書きます。

パリの万国博覧会で故郷を紹介するためにニューカレドニアからやってきた少女ディリリは、会場で郵便配達の少年オレルと知り合う。パリについてもっと知りたいと願うディリリは、オレルに頼んで町の様々なところを訪れ、数多くの研究者・芸術家と出会う。折りしもそのころ世間では少女の誘拐事件が続いていた。さらわれた女の子たちを助けるため、ディリリとオレルは犯人グループの所在を突き止めようと奮闘する。

オスロ監督といえば民話や昔話のアニメ化をずっとてがけておられましたが、今回は近代と現代の境目あたりの、かなりわたしたちに近い時代のお話となっております。「時間旅行」とありますがタイムマシンが出てくるわけではありません。21世紀のわたしたちをいわゆる「ベル・エポック」の時代に連れて行ってくれる、というわけでこのような邦題がついたものと思われます。キュリー夫人からピカソにプルースト、ロダンにギュスターブ・エッフェルなど、わたしでさえ知ってるような歴史上の偉人が次々と登場。まさに「石を投げれば有名人に当たる」状態。歴史ファンにはたまらないものがあるかと思われます。パリ万博が舞台で黒人の女の子が地元の少年とレトロな乗り物で追跡劇を展開するあたり、おっさんのアニメファンとしては『ふしぎの海のナディア』第一話を思い出したりしました。

「ヨーロッパのアニメだなあ」と強く感じたのはヒロイン・ディリリの奇抜なヘアスタイル(下画像参照)。当時のニューカレドニアの平均的な髪型だったのでしょうか。まるで幅広のリーゼントのようです。ただ一生懸命ぴょこぴょこ動いているディリリちゃんを見ているうちにかわいく見えてきました。大人にもはっきりと意見を述べる一方、誠実に向き合ってくれる人にはドレスの両端をつまんでおじぎする姿が大変キュートでした。レジェンドたちと対面するたびに「研究者になる!」「芸術家になる!」「発明家になる!」と触発されまくるのですけど、「君なら全部なれるよ…」と励ましてやりたくなりました。

そんないたいけな少女を狙う誘拐集団の目的・手段がなかなかにエグくて、この辺は正直ひきました… けれど過酷な仕打ちをうけながらもまっすぐなこころをうしなわないディリリちゃん。ますます応援したくなるのでした。

これまでのミシェル・オスロのスタイルを踏襲しながらも、さらに作り込まれた美術も堪能させていただきました。華やかなパリの街がきめ細かく精密に書き込まれていて、実写なのか絵なのかわからない背景も多々ありました。たぶん絵だと思うんだけど… またクライマックスで夜の街を滑空する飛行船の描写も息を呑むほどに美しゅうございました。

『ディリリとパリの時間旅行』はかれこれ一月ほど前に見たのですが、まだ今月下旬まで恵比寿ガーデンプレイスで上映中。その後もぽつぽつと各劇場を回るようです。今年は小規模ながら、『ロングウェイ・ノース』『アヴリルと奇妙な世界』『ブレッドウィナー』と勇ましい少女を主人公とした欧州アニメの公開が続いております。『ロングウェイ・ノース』も見てきたので近々レビューいたします。

あとどうでもいい話ですが、この映画見た日台風が関東を直撃して、家まで帰るのにけっこう苦労しました(笑) みなさん、明日からの大型台風にどうぞお気をつけくださいー

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October 08, 2019

ふたりはプリブラ クウェンティン・タランティーノ 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

90年代後半世界で大人気だったレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが初共演。しかも監督はクウェンティン・タランティーノときたらこれはもうお祭りです。またまたいまさらではありますが、本日はその『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をご紹介します。

1969年のハリウッド。かつてTVでスター俳優だったリック・ダルトンは映画界に進出したもののその後伸び悩み、脇役や悪役で糊口をしのぐ日々が続いていた。落ち込みがちな彼を友人兼専属スタントマンのクリフは隣でいつも励まして支え続けていた。ある日リックの隣の屋敷に新進気鋭の映画監督ロマン・ポランスキーと、その妻で女優のシャロン・テートが引っ越してくる。そのことが後にリックとクリフに災難をもたらすことになるのだが…

タランティーノといえば犯罪者やガンマンがドンパチする映画がほとんどですが、今回は一応俳優という「カタギ」が主人公。とりあえず予告編からはいつものバイオレンス風味はあまり感じられず、当時のハリウッドの活気がありつつもややのんびりしたムードが伝わって来ました。

スティーブ・マックイーンやブルース・リーといった実在人物も何人か登場する本作品。しかし物語の中心となるリックとクリフは架空の人物です。タフガイ俳優としてならしたバート・レイノルズと、その専属スタントマンであったハル・ニーダムがモデルとなっているということです。しかしリックの「西部劇のTVで人気を博し、その後イタリアに進出してさらにブレイク」という経歴を考えると、わたしはどうしてもク○ント・イー○トウッドを思い浮かべてしまうんですよね… ちなみにイースト○ッドのイタリア進出第一弾となった『荒野の用心棒』は、この映画の舞台となった1969年の5年前に公開されています。また、少し前の映画秘宝でタランティーノは「あるベテラン俳優と仕事した時、『俺の専属スタントマンにも仕事をくれないか』と頼まれた」ことが本作品のアイデアとなったを語っています。レイノルズさんはタラちゃんの映画には出てないのでどの俳優さんだろう…と思っていろいろ検索してみたのですが、「よくわからない」という結論に達しました。すいません。

序盤から中盤にかけては全体的にまった~りした調子で進んでいきます。60年代の撮影所独特の空気が好きな人は幸せな気分にひたれると思いますけど、興味の無い人にはやや退屈かも。自分はやはりリックとクリフのちょっと奇妙な友情がツボにはまりました。リックは感情の浮き沈みが激しいし、クリフは何考えてんだかよくわからない不気味な一面があります。ただ皆が「あいつは薄気味悪い」とクリフを敬遠する中、リックだけは彼を信頼し、スタントの仕事をもらえるよう交渉したりします。クリフも自分が他人からどう思われようが全く気にしてない感じですが、リックの頼みとあらば些細なことでもいやな顔一つせずに応じます。そんな二人がリックの出演ドラマをピザ&ビールでわいわい言いながら楽しんで観るシーンには、なんとも幸せなものを感じました。

さて、鑑賞前にひとつひっかかったのは、この作品があの「シャロン・テート殺害事件」をモチーフにしているということです。概要を読んだだけでも陰鬱な気分になるかの事件ですが、先にも書いたように予告からはちょびっとしかその不穏な様子が感じられない。タランティーノ流のファンキーな調子で進んで行っても、最後はやはり暗い気持ちにさせられるのでは…と予想しておりました。以下は大体ネタバレなのでご承知ください。

 

 

というわけでばらしちゃいますと、完全に予想は裏切られました(笑) いやあ、タラちゃんが史実を無視してあの人をぶっ殺した『イングロリアス・バスターズ』の監督だったってことをすっかり忘れてた。悲劇どころか多少悪趣味ではありますが、クライマックスはひたすら楽しい20分間が続きます。たまにありますよね、こういう映画。8割がたのんびり話が続いてて、最後の2割で大爆発、みたいな。代表例をあげると『キートンの蒸気船』とか(わかりづらいか…)

ま、実際の可哀想な事件が消滅するわけではないのですが、なんだか慰められた気持ちになるというか。血しぶき飛び交う映画ばかり撮ってるタラちゃんにも、こういう優しい一面があるのですね。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は名前が長すぎたせいか、日本ではほどほどくらいの売上に落ち着き、明後日にはほとんどの劇場で公開終了してしまう模様。興味あるのに見そびれてる人はがんばって今日含む3日のうちに映画館でご覧ください。

 

 

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October 02, 2019

シスターズだけどブラザーズ ジャック・オーディアール 『ゴールデン・リバー』

これももう公開終わってるな… そもそもこちらに来るのが遅かったし… 作る映画がことごとく賞にノミネートされるフランスの名匠、ジャック・オーディアールが初めて挑んだ西部劇。『ゴールデン・リバー』ご紹介します。

1850年代のオレゴン州。ならず者たちの元締め「提督」の下で汚れ仕事を請け負うシスターズ兄弟は、何人ものガンマンを仕留めてきた凄腕の殺し屋コンビ。だが兄のイーライはいつ終わるともしれぬ殺し合いに倦み疲れていた。そんな彼らに次の仕事が入る。黄金をたやすく採取する方法を発明した化学者を捕えよというものだった。シスターズ兄弟は化学者の見張りであるジョン・モリスの情報をもとに追跡を始めるが。

最近の西部劇といえばスタンダードな勧善懲悪ものである『マグニフィセント・セブン』などが思い浮かびますが、監督がおフランスのアート系の方だけあって一筋縄ではいかない作りになっています。

まず主人公であるイーライが顔も行動も強面なのに、ちょっと乙女っぽい部分があるんですよね。女もののスカーフをくんくん嗅いでたりするので、誰か好きな人からもらったのかと思いきや、実際はそんな女性はおらず、単にロマンティックなシチュエーションにあこがれているだけだったという。あと当時はめずらしかったであろう歯磨き粉を雑貨で見つけて、口臭を良くするためにいそいそと塗り込んでいたりします。そしてヤクザな仕事にいやけがさして「もう引退して穏やかにお店でもやりたいなー」と考えてます。そういうところはオーディアール監督の前作『ディーパンの闘い』の主人公とも似ています。わたしもおっさんですけど自分の中に乙女的なところがあることを否定できないので、彼に思いっきり肩入れしながら観てました。イーライとわたしが違うのは、いざ修羅場になるとすごく強いということですね…(もちろんイーライの方が、です)

対して弟のチャーリーはそれこそ狂犬のような男。殺ることとヤることしか考えてないような。ちょっとヒーローというよりアウトロー的なキャラクターです。当然兄とも喧嘩が絶えませんが、それでも唯一の心許せる相手として大切に思ってることは間違いないようです。

その二人に絡むのが理想郷を夢見る化学者のワームと、お目付け役だったのにいつの間にか彼にひかれていくジョン・モリス。以後は大概ネタバレなのでご了承ください。

 

 

宣伝コピーが「決して出会ってはならない男たちが出会ってしまった…みたいなものだったので、わたくしてっきり黄金を巡って男たちが醜い争いを繰り広げる話を予想していました。ところがどすこい、4人はなりゆきでつい仲良くなってしまい、奇妙な共同生活を始めてしまいます。それまでがずっと殺伐としたムードだったので、この流れには大変心和みました。そのままめでたしめでたしになればよかったんですが、彼らの友情は予想とは違う方向で終わりを迎えます。このしんみりした物悲しいムード、おフランスだなあ…と思いました。ただどこまでもとことんやりきれない話ではなく、多少は救いも残してくれたのがありがたかったです。

ちなみにいま自分『レッド・デッド・リデンプション2』という西部劇のゲームをプレイしてるのですが、それとも似通ったところがいろいろあって楽しかったです。雄大な自然をバックに馬に乗って旅するのは見てる分には心癒されますけど、やっぱり実際にやってみると苦労もいっぱいあるわけですよ。野宿もしょっちゅうですし、変な虫に刺されたりもしますし、馬が具合悪くなることもあるし、おまけにいつ何時無法者に狙われるかもわからない。『ゴールデン・リバー』も『RDR2』もそういう西部の旅の苦労がよくわかる作品となっています。といってもやっぱりこっちは仮想現実にひたってるだけなので、「あー、やっぱり西部劇っていいわー」と思ってしまうんですがねw

4人を演じるジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメドらがみな幸薄い魅力を放っていたのも忘れがたいです。明後日にはホアキン氏が主演をつとめヴェネツィア金獅子賞に輝いた『ジョーカー』が公開。当初は「その企画、おもしろいんか?」と思ってましたが、受賞と各方面からの絶賛を見て手のひらを返しました。え、えーと、こちらも楽しみですね!!

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October 01, 2019

翔んでエルトン デクスター・フレッチャー 『ロケットマン』

あ、これもう公開おわってる… 英国を代表する偉大なるシンガーの半生をミュージカル仕立てで映画化。またまたいまさらではありますが『ロケットマン』、紹介いたします。

1950年代の英国。内気な少年レジナルドは類まれなる音楽の才能に恵まれ、王立音楽院の入学を認められる。成長してバンドを組んだ彼は、やがて「エルトン・ジョン」と改名し、作詞家バーニーとのコンビでヒット曲を連発。瞬く間に大スターとなる。だが彼は男性であるバーニーに報われぬ恋心をいだくゆえに、また両親から冷たい仕打ちをうけてきたゆえに成功しても孤独感を打ち消せずにいた。

皆さんおっしゃってるしわたしもあんまり月並みなことは書きたくないのですが、第一印象はやっぱり「『ボヘミアン・ラプソディ』とよく似てる」というものでした。ざっと共通点を列挙してみますと

・実の親とあまりうまくいってない

・ゲイ

・ゲイであることを隠そうとして苦労する

・ゲイなのに女性と結婚してうまくいかず離婚

・英国出身で米国に進出するやいなや大スターに

・そして成功したのち酒とドラッグに溺れる

・しかし親友の偽りない友情に救われる

・ジョン・リードがマネージャだったことがある

・そもそも監督がいっしょ(デクスター・フレッチャー)

…まあ2,3の点をのぞけばロックスターには定番の人生というものがあって、フレディもエルトンもついそのスタンダードにはまってしまったのかもしれません。

違う点もあげてみますと

・ミュージカル仕立てである

・バンドじゃなくてシンガーと作詞家のお話

・フレディとちがい、エルトンさんはバリバリの存命中

・エルトンさんはあまり美形ではない

ここがすごいと思うんですけど、カリスマミュージシャンってやっぱり見目麗しい人が多いですよね。そのルックスが人気をさらに後押しするわけですが、エルトンさんの場合は頭髪もうすいし背も高くないしわけわからんメガネとかつけてます。なのにクイーンも越えて世界でグレイテスト・ヒッツを飛ばしてきた(歴代4位)ということは、主に歌唱力と作曲の才能だけで頂点までのぼりつめたわけであって。それほどにその曲の美しさが人々の心をとらえてきたということなのでしょう。

ちなみにわたくしクイーンの曲はそれなりに知ってましたが、エルトンさんの曲は『YOUR SONG』と『Goodbye Yellow Brick Road 』 くらいしか知りませんでした。どっちかというとライブをドタキャンしたとか、『キングスマン:ゴールデンサークル』で客演してたとかそっちのイメージの方がつよくて。大変申し訳ございませんでした。ただ日本でこの映画がそんなにヒットしなかったのは、クイーンに比べるとわが国ではエルトンさんがそんなに浸透してなかったということなのかもしれませんね。

そんなエルトンさんを熱演してたのは『キングスマンGC』で共演し、『SING』で彼の歌を熱唱していたタロン・エジャトン君。近日日本公開の作品ではロビン・フッドを演じるということで、ますます英国を体現するような俳優になってきた感があります。

とりあえずビギナーには大変入りやすい映画だった『ロケットマン』。劇中で使われた名曲を、またじっくりと聞きこんでいこうかなと思います。

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September 23, 2019

脱獄囚の名は蝶々 マイケル・ノアー 『パピヨン』

脱獄映画の金字塔を、『パシフィック・リム』などのチャーリー・ハナム主演でリメイク。もうほとんど公開も終わってる『パピヨン』、ご紹介します。

1930年代、稼ぎをちょろまかしたことで元締めから警察に売られた金庫破りのパピヨン(あだ名)は、環境の劣悪なギニアの刑務所に送られる。そこで大金を隠し持っているという囚人ドガと知り合った彼は、荒くれたちから守る条件として脱獄に必要な金をせしめようとする。しかし鬼のような署長の目や、絶海の孤島という状況ゆえ脱獄は不可能に近く、パピヨンは想像を絶する苦闘を強いられる。

『パピヨン』といえば1973年に作られたスティ―ブ・マックイーン主演の映画が有名ですが、わたくし恥ずかしながらこの話が実話をもとにしてるということを知りませんでした… アンリ・シャリエールという方の手記を元にしているそうです。ただその人のwiki項目 を読むと色々映画とは異なるところもあるようで。特にクライマックスのシーンなどは「本当にそんなんでいけるのか!?」と思いましたがやっぱりその辺は脚色だったようです。というか、1973年版のあらすじを読んでみたら大体一緒だったので、アンリさんの伝記というより映画『パピヨン』の忠実なリメイクととらえた方が正しいでしょう。

批評では「1973年版には及ばない」という意見が多いようです。ですが自分はそっちを見てないので大変ハラハラしながら鑑賞していました。どちらかというと印象に残ったのは危険を冒して脱獄するパートより、それに失敗して何年も独房に入れられるくだりでした。無限のような時間閉じ込められ続けて、出られたとしても待っているのは強制労働という真っ暗闇としか言いようのない運命。この辺創作かもしれませんが、仮に自分がそんな状況に置かれたとしたら、とても正気を保っていられんだろうと思いました。けれどさすがはかつて大怪獣とバトルを繰り広げたチャーリー・ハナム。不屈の精神でもって地獄の監獄を耐え抜きます。彼をいじめぬく署長もにくったらしい人ではありますが、自分の決めたルールはちゃんと守るあたりは筋が通っております。

そして観てみてわかりましたけど、これはパピヨン個人の物語というより、パピヨンとドガの出会い、友情、そして別れのお話だったのですね… 最初はお互い利用することしか考えていなかった二人が、なんとなくかばいかばわれするうちに、ついには自由をなげうっても友を助けようとする姿に鼻水が垂れ流れました。

ドガを演じるのは先ごろ『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを好演していたラミ・マレック。かつてはエジプトの王様とかやってたのにこの2作ですっかり「やつれ姿が似合う人」というイメージになってしまいました。

脱獄もの・刑務所ものはやっぱり名作が多いなあ…と改めて感じ入りました。そして男として一皮むけるためにはいっぺん脱獄くらい成功させたほうがいいのかもしれません。とりあえず体重は減らせそう…

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September 17, 2019

カメを落とすな! 上田慎一郎・浅沼直也・中泉裕矢 『イソップの思うツボ』

昨年邦画界に一大ブームを巻き起こした『カメラを止めるな!』。その立役者である上田慎一郎監督が、二人のクリエイターと共に「三人監督体制」で挑んだのが本作品。『イソップの思うツボ』、ご紹介いたします。

平凡な家庭の地味な女子大生、亀田美羽。タレント一家の一人娘で自身もアイドルの兎草早織。父親を手伝って「復讐代行業」を生業としている戌井小袖。性格も環境もバラバラの三人の少女の運命は、ある「事件」をきっかけに複雑にからみあっていく。

落ちてくる動物、徐々に明かされる相関関係。とりあえず観終わって最初に抱いた感想は「P・T・アンダーソンの『マグノリア』みたいなものがやりたかったのかな?」というものでした。

よかった点から申しますと、まず主演の女の子たちがみなそれぞれに魅力的でありました。またとにかく「意外性」を重視して作られているので、幾つかの場面ではけっこうビックリさせられました。問題はその意外性を優先するあまりか、「それ、さすがにおかしくないか?」という点もちょこちょこあるところですね… 傍でいうのは簡単ですけど、その辺の不自然さをカバーするためにもっと脚本を練り練りする必要があったのでは。ただ公式サイトを見ますと「構想3年」とあるのでこれが限界だったのか… 『カメラを止めるな!』があまりに自然で見事な脚本だったので、いかんと思いつつ、ついつい比べてしまうのでした。あと自分がわりとがっかりしたのは、ポスターでうなだれてる三人の着ぐるみがどんな風に活躍するのかな…と期待していたら全く出てこなかったことですねw

まあブレイク作の直後の作品というのは厳しいですよね。どうしたって前作と比べられてしまう(お前が言うか)。でも『アンブレイカブル』でがっかりされたシャマランや、『ゲーム』でぼろくそに言われたフィンチャーがその後リベンジを果たしたように、上田監督も捲土重来をいつか果たしてほしいものです。というか本来の彼の正念場となるのは単独作『スペシャルアクターズ』(来月公開)の方でしょうか。そちらももちろん拝見します~

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September 12, 2019

ジャングル大帝ブック ジョン・ファブロー 『ライオン・キング』

 

ここのところ矢継ぎ早に過去の名作の実写化を連発してくるディズニースタジオ。この度はその最新作で劇団四季のミュージカルでも名高い『ライオン・キング』をご紹介します。

雄大な自然に恵まれたアフリカの大地。サバンナを治めるライオン・ムファサの息子として生まれたシンバは、両親の暖かい愛情のもとすくすくと育ち、自分もいつか父親のような立派な王になることを志す。だがその影で、王位継承に敗れたムファサの弟スカーは、権力を奪うべく姑息な策略を巡らしていた。

1990年代、「ディズニールネサンス」と言われた時代がありました。低迷していたディズニースタジオが『リトル・マーメイド』を皮切りにヒット作を連発し、手描きアニメの黄金時代を築いた期間のことです。特に『美女と野獣』と『アラジン』は日本でも一大ブームを巻き起こしました。『ライオン・キング』もそれに大いに貢献した1本です。

ただこの作品、わが国では「『ジャ○グル大帝』のパクリでは?」ということもよく言われています。でも『ジャン○ル~』の方は人間もバンバン出てきますし、王族争いとかもないので、仮にインスパイアを受けてるとしたらキャラクター造形などでしょう(マントヒヒは長老でハイエナは悪党だとか)。代わりに監督が原作としてあげたのがあの『ハムレット』。なるほど、『ハムレット』から暗い要素を大体抜き去ったらこんな風になる…かな?(それはもう『ハムレット』じゃない気もしますが…)。少し前おじさんと甥っ子が王位をめぐって激突する映画が何本かありましたが、あれらは『ライオン・キング』を経由した『ハムレット』の子孫なのかもしれません。

さて、この度の新作、ある一場面を除いては動物も背景もすべてCGで作られております。こうなるともはや「実写」というよりCGアニメに近い気がします。でも見た目は全然実写だしなあ… 公式でもそれを逆手にとって「超実写」なんて言っております。本当にCGの進化もいくところまでいってしまった感がありますね。

一方でかつての名作を次々と「実写化」していく流れには批判もあるようです。すでに完成されてるものをそのままそっくりリメイクするのに何の意味があるのか?という意見ですね。ただ自分は正直むかしのディズニーの画風がそんなに好きではなかったので、アニメの方は劇場ではスルーしちゃってたんですよね。今回は実写と見まがうほどにモフモフ感満載だったので張り切って映画館にいきました。そしたら自分だけかもしれませんが、はしゃいだりいきったりするシンバ君が十代くらいの男の子と重なって見えてきたりしたのでした。擬人化したイメージが下の落書きです(友人にみせたら「80年代感ただよう」と言われました)。

あと他のキャラクターではシンバの友人となるイボイノシシとミーアキャットの痛快なコンビや、悪役のスカーさんもおきにいりです。スカーさん、二年前に亡くなった飼い猫のモンさんとよれよれ具合が非常にそっくりだったもんですから… 好きな曲である「ライオンは寝ている」がけっこう長々とかかっていたのも高ポイントでした。

それにしても90年代手描きアニメでブイブイいわしていたディズニーが、00年代に入ってCGでしかアニメを作らなくなり、10年代ではかつての名作アニメをどんどん「実写化」していく流れにはあまりの移り変わりのはやさに呆然といたします。「あまり好きじゃなかった」身で言うのもなんですが、たまにでいいから手描きアニメの方も伝統をひきつぐために復活してほしいものです。欧州ではぽつぽつと個性豊かな手描きアニメが色々生まれておりますけど。

「あんまり日本ではあたらないだろう」というわたしの予想を覆して、『ライオン・キング』は現在50億越えのヒットを達成。まだ伸びそうです。劇団四季のミュージカルが浸透していたせいでしょうか。そんなわけで公開もまだ続きそうなので、モフモフや猫が好きな人はぜひごらんください。 

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September 10, 2019

ベストマッチじゃないやつら デビッド・リーチ 『ワイルドスピード/スーパーコンボ』

もうじき公開終わりそうな映画紹介第二弾です。世界的人気シリーズ初のスピンオフにして、スーパー筋肉スター二人の共演作。『ワイルドスピード/スーパーコンボ』紹介します。

凄腕のドライバー・ドミニクと関わったことで、知り合うことになったホブスとショウ。だが熱血漢の捜査官とクールなアウトローでは当然ソリがあうこともなく、お互いを蛇蝎のごとく忌み嫌っていた。そんな折MI6に属していたショウの妹が、任務の途中細菌兵器を奪って逃走したという知らせが入る。彼女を確保するよう協力してことにあたってほしいとCIAに依頼されたホブスとショウだったが、二人の返事は「誰がこんなやつと!!」だった…

元はと言えばヴィン・ディーゼルとポール・ウォ―カ―のバディものとしてスタートした本シリーズ。しかし一通り迷走したのちは、コンビというよりどんどん「ファミリーもの」としての要素が強まっていきます。本作はスピンオフとなってはおりますが、そういう意味ではシリーズの原点に立ち返ったと言えるでしょう。というかどっちかといえば2作目や3作目の方が番外編っぽいような… まあ細かいことを言うのはやめましょう。

番外編っぽいといえば監督が『デッドプール2』の人のせいか、本家よりかなりお笑いムードが濃かったです。特にお互いをあげつらうロック様とステイサムの悪口合戦には腹を抱えて笑わかされました。あとやたらアメリカのサブカルに関してのネタが多かったですね。わたしまだゲーム・オブ・スローンズ半分しか見てないのに思いっきりネタバレを食らわされたような… まあ「誰それが死ぬ」というバレではなかったので許容範囲です。

筋肉スター2人に立ち向かうのは、最近だと『ダークタワー』(…)の活躍が記憶に新しいイドリス・エルバさん。彼も十分にかっこいい上に仮面ライダーなみの改造手術を受けてるという設定なんですけど、やっぱりホブス&ショウに本気で勝とうと思うならパシリムのイェーガ―くらい持ってこなきゃいかんと思います。それはさすがにワイスピから逸脱しすぎでは…という気もしますが、どんどん枠からはみ出していくのがこのシリーズのウリなのでアリです。

ホブスの故郷のサモアの風景も心やわらぐ本作品。というかサモアってなんか服装とか建築が沖縄に似てますね。そこのおばあちゃんがだんだん平良とみさんに見えてきたりしました。

正直一番ツボにはまったのは序盤のコンビの対比平行映像だったのですが、その後も普通に面白かったです。クライマックスではちゃんとワイスピ特有の無茶カーアクションもありましたし。キャラは減りましたけどシリーズの名に恥じないトンデモ映画でありました。

『ワイルドスピード/スーパーコンボ』はしっかり世界で製作費の3.5倍を稼ぎ、彼らだけの続編もすでに決まっているとか。本家の方も来年春に新作の公開が予定されています。ヴィン・ディーゼル派とロック様派での不仲の噂も伝えられてますが、ファミリー映画なんだから仲良くやってほしいものですね!

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September 04, 2019

苦衷戦艦ヤマト 三田紀房・山崎貴 『アルキメデスの大戦』

当初はスルー予定だったのですが、ネットでの好評を見ているうちに「そういやオレ山崎監督好きだったっけ…」ということを思い出しました。『アルキメデスの大戦』、ご紹介します。

日本が世界から孤立しつつあった昭和初期。海軍では空母建造を推し進める山本五十六派と、巨大戦艦にこだわる平山派が対立していた。平山派の意見が通っては諸外国にますます警戒心を抱かせると考えた山本は、戦艦の建造費があまりに安いことに目をつけ、数学の天才である若者・櫂直(かい ただし)にその不備を見つけるよう依頼する。軍を嫌う櫂は最初それを断るが、日本が戦火に巻き込まれることを憂い、結局は協力を受け入れることに…

この映画はいきなり壮絶な「大和」の沈没シーンから始まります。『スペース・バトルシップ ヤマト』(これも好きでしたがー)とは打って変わった迫真のリアリティに息を呑みました。これ、言ってみれば一番派手なシーンを一番最初に持って来るという大博打をやらかしているわけです。しかし普通なら尻すぼみにになるところを、キャラクターの魅力と巧みなストーリーテーリングで乗り切っておりました。

やはりまず惹きつけられるのは菅田正暉君演じる櫂直の変人ぶり(笑) 眉目秀麗で頭も切れるのに、世渡り下手で「美しいものは計測しないと気が済まないののだ~」と目を付けたモノに片っ端からメジャーを当てる。そして周りがそれをいぶかしんでるとそっちの方を変人扱いする。またクールを装いながら実のところ情を捨てきれなかったり… ちょっとべネディクト・カンバーバッチが演じていた「シャーロック」を彷彿とさせます。ただ彼が気に入ったものをなんでも測りたがるのは、人が「美しい」と思う形の比率やパターンを知りたいからでは…と考えます。

で、この映画で「美しいもの」の代表として出てくるのがご存知戦艦大和。わたしあんまり大和って好きでもなかったんですけど、『アルキメデスの大戦』を見たらなんかあまりのかっこよさに見入ってしまいました。アホな将校が模型を見て「これこれ、こういうのが欲しかったんだよ~!」と目をキラキラさせていましたが、いい年こいてロボットが好きなものとしては非常に共感してしまいました。ただ現実にある兵器にそういう気持ちを抱いてしまうことにうしろめたさも少々感じます。海洋堂の名物専務が言っていた「戦車をこころおきなく楽しむために世界から戦争をなくしたい」という言葉が思い出されました。

で、ここから先は後半もネタバレで…

櫂たちの奮闘を見ていると彼らの努力が実を結んで、大和は作られず、戦争も避けられたら…と思わずにはいられません。しかし現実はそうならなかったことは言うまでもありません。櫂たちは一度は大和の建造を阻止しますが、軍艦のコンペくらいで世界の大きなうねりは変えられない…というオチがなんとも説得力があり、皮肉が利いていました。

平山は「負け方を知らない(最後の1人まで戦い続けそうな)日本人に、諦めるふんぎりをつけさせるため」大和を造りたいと主張します(本人の趣味もありそうですが…)。偶然とはいえ国が誕生して以降、一度も他国から徹底的な打撃を被ったことがなかったことが日本をそういう状況に追い込んでしまいました。ですがわたしたちは先の大戦で日本がいかに悲惨に負けたかを知っています。時代の流れというのはそう簡単にせきとめらるものではないでしょうけど、少しでもこの国が戦争に向かっているとしたらなんとかそれをおしとどめたいです。

いつになくかしこまってしまいましたが、山崎監督のいつになく(失礼)理にかなったメッセージ性の強いお仕事に感嘆いたしました。そして高まった評判を続く『ドラゴン・クエスト ユア・ストーリー』でまた地に落としてしまう山崎さん。素敵だ! 年末にはCG版『ルパン三世』もひかえておりますが、ちょっと働き過ぎではないでしょうか。

あと書き忘れましたが、この映画はヤングマガジンにて連載のコミックが原作です。映画はきっぱり一本で終わりましたが、漫画の方は17巻を数えた今もまだまだ終わらなそう。櫂君のその後が気になるのでいずれ読んでみようかなー

 

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September 03, 2019

新・てつぞら ティモ・ヴオレンソラ 『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』

重い扉をこじあけたら 暗い宇宙が続いてて めげずに歩いたその先に 知らなかったスカイ

…7年前クラウドファインディングで作られ、好評を博したフィンランドの珍作が忘れたころに帰ってやがりました。『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』、ご紹介します。ちなみに前作の感想はこちら。

月面にナチス残党の基地が発見され、すったもんだの末に人類がほぼ全滅した未来。月で生き延びた人々は少ない物資をわけあい細々と生活していた。そんな折、地球の内部に秘密帝国が建造されていて、無尽蔵のエネルギーを有する「聖杯」がそこにあることが明らかになる。血気盛んな若者オビと仲間たちは月のエネルギー問題を解決すべく地下帝国へ乗り込んでいくが…

あらすじだけで見事なアホアホしさです。世界で最も教育水準が高いと言われるフィンランドですが、「アホネン」というスキー選手がいたくらいなのでアホなのかもしれません。まあこういうアホらしさ、嫌いじゃないですけどねw

特に感銘したアホ設定は月にスティーブ・ジョブズを教祖とした宗教組織が出来てること。眺めてるだけで笑いがこみあげてくるのですが、不思議なリアリティがありまして、近い将来現実に結成されそうな気がしてなりません。

そしてジョブズ本人も登場します。彼のみならず古今東西の選ばれた歴史上の有名人がナチスの地下帝国に大集結。FateGOなみのきらびやかさです。その中心にいるのはもちろんナチス創始者のあの方。あと恐竜も出てきます。なんでも出せばいいってもんじゃないと思いますが、まあ面白かったのでよしとします。とりあえずお話のテンポは前作よりも良かったですし。あとなにげなく出てきたものが重要な伏線になるとこなどもよく考えられてました。アホアホ言ってしまいましたがこういうところは頭のいい設定でした。すいませんフィンランド。

盛大に笑わせてもらったシーンをもうひとつ。それは冒頭のロゴ。いきなり「アイアン・スカイ・ユニバース」とドーンと出てくるのでふるってます。これから先どうやってユニバース展開に持ち込んでいくのかお手並み拝見といきましょう。

わたしは『モンスターズ』『スカイライン』と本作を勝手に「21世紀の3大低予算SF映画」と位置付けているのですが、前二作は1本ずつ続編が出来たところでそのまま収束しそうです。『アイアン・スカイ』はさらなる飛躍を見せることができるでしょうか。がんばれ! わたしは映画代しか払ってないけど!

 

 

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August 30, 2019

平成時代にさよならを 『仮面ライダージオウ』まとめ

令和が始まってはや4ヶ月。本日は先ごろ完結した「平成」ライダーの総決算『仮面ライダージオウ』について劇場版も含め思うところをまとめます。

平成の終わりも近づいたころ。平凡な高校生常盤ソウゴは、将来「王様になりたい」という夢を吹聴しては級友たちに笑われていた。そんなある日ソウゴはタイムトラベラーの青年ゲイツに襲われる。理由はソウゴが未来で最低最悪の魔王「オーマジオウ」になり、人々を苦しめているからだった。それと呼応するように彼の周りにあらわれる「仮面ライダー」と、人々を襲う怪人「アナザーライダー」たち。やはり未来から来た彼の「家臣」ウォズから変身ベルトを与えられ、「仮面ライダージオウ」となったソウゴは、いつしかゲイツと共に平和を守り、「最善最高の王」となることを目指して戦い続ける。

というわけでこの物語の大きなポイントのひとつは、本当に人を思いやるいい子のソウゴ君が、なぜショッカーの首領のような独裁者になってしまったのか?というとこでした。話が進むにつれその辺の謎が徐々に明かされていくんだろうな…と予想していたのですが、いきなりばらしてしまうとうやむやのままに終わりました(笑) まあ毎回のように20年に及ぶなつかしヒーローたちが入れ替わり立ち代わり登場するので、ソウゴ君はどうしてもホスト的な役回 りにならざるを得ず、彼自身の物語をじっくりやる余裕がなかった…というところですかね。わたしも思い入れのあるライダーがオリキャスで登場するたびに我を忘れて喜んでましたし。10周年記念の『ディケイド』と違って(あれはあれで好きでしたが)、今回は可能な限り演じた本人を連れてきてくれたのが嬉しかったです。特に『龍騎』『剣』は十ウン年ぶりに懐かしい友達と再会できて、彼らが元気でいる姿が観られて感涙いたしました。

先日公開された単独の劇場版も観てまいりました。暮れの佐藤健のようなシークレットゲストがあるのでは…ひょっとしてオダ○リジョーか、竹内○真か!?と胸ワクワクで臨んだところ、予想のはるか斜め上のビッグネームが出てきて驚愕しました。ここではあえて名前は明かさないので知りたい人は映画のキャスト一覧でも調べてみてください。

映画で印象的なセリフのひとつに「お前たちの平成って醜くないか?」というものがありました。平成ライダーもとうとう20作。そこはかとなく統一感があった(そうか?)昭和ライダーと比べると外見も設定も恐ろしくてんでバラバラです。シリーズ初期は「こんなの仮面ライダーじゃない」という声もよく聞かれましたが、最近ではもうみんな「そういうもの」と諦めてしまったのか、あまり見られなくなりました。実際こんだけ多様性に富んでたからこそそれなりに飽きられずに20年続いたのだと思います。わたし自身数作脱落したものの、今にいたるまで視聴を続けてるわけですし… 本当に『クウガ』が始まった時は2019年になっても切れ目なくライダーが続いて、そんでずーっとお付き合いすることになるだろうとは夢にも思いませんでしたよ…

ついでに好きなタイトルのベスト5を書いておくと

1位…龍騎 2位…剣 3位…ビルド 4位…鎧武 5位…555 別枠…アマゾンズ となります。

令和になってもまだ続行される仮面ライダー。次の作品は背景がなにやら『アイアンマン』っぽい『仮面ライダーゼロワン』だそうです。また一年楽しめますように~

 

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August 21, 2019

魔法中年ウィル☆スミス ガイ・リッチー 『アラジン』

ここんとこ過去の名作の実写化に力を注いでいるディズニーさん。本日はそのうちで最も成功した1本である『アラジン』を紹介いたします。

むかしむかし、アラビアのとある国で。街でコソ泥としてきままに暮らしていた青年アラジンは、ある日お忍びで市場に来ていた王女ジャスミンと出会う。ジャスミンと再会するため城に潜入したアラジンだったが、運悪く王位を狙う大臣ジャファーに捕まってしまう。ジャファーはアラジンを捨て駒として使うことを思いつき、罠の張り巡らされた洞窟に、魔法のランプを取ってくるよう命じる。苦労の末ランプを手に入れたアラジンが何の気に無しにそれをこすると、たちまち中から青い陽気な魔神が現れる。魔神はアラジンを主人と呼び、三つの願いをかなえると申し出るが。

原作はもちろんアラビアン・ナイト…ですが、それよりは92年に作られたアニメ版の忠実なリメイクになっているようです。ようです…というのは、自分は未だにアニメ版を観ていないから。今回も大体知ってる話ですし、容易に結末も予想できたのでそんなに鑑賞意欲もわかなかったのですが、家族が一緒に観ようというので付き合いで行ってきました。そしたらめっぽう楽しかったので、やっぱり名作を甘く見ちゃいかんと思いましたね…

まずとにかく虎やオウムや猿、絨毯といった人間以外の連中が滅法面白い。特に猿。役に立つ反面足もひっぱるプラマイゼロ的なマスコットでございましたが、見ているだけでとにかく愉快。わたしのベスト猿映画である『キートンのカメラマン』に肉薄するほどの名演技でした(CGだけど)。ちなみに姉と母はブロードウェイで舞台版を見ているのですが、猿はどう再現したのかと聞いたら完全にオミットされていたそうです…

ついでひかれたのが魔法の絨毯。布なのにドクターストレンジのマントのように表情が豊かでした。特に魔神がノリノリでしゃべっているうしろで全く話を聞いておらず、砂のお城をこしらえて喜んでるシーンには萌え萌えズキューンでした。

人間の役者でいうと一際輝いていたのは魔神(ジーニー)演じるウィル・スミス。それこそ90年代後半は出る映画全部ヒットさせていた彼ですが、ここのところそんなに目立った活躍はなかったような。アニメ版では変幻自在のジーニーをどうやって…と心配しておりましたが、CGの力を借りてめっちゃファンキーに暴れておりました。ぶっちゃけ最近のベストアクトだったのでは。色のついた不定形の怪人が山寺さんの声でしゃべるとジム・キャリーの『マスク』の姿がちらつきはしましたが。

最近ぱっとしないといえば監督のガイ・リッチーさんもそう。『キングアーサー』も『コードネーム・アンクル』も激しくたのしいんですけど売上的には赤字だったりして。ですが今回『アラジン』で逆転一発ホームランをかましてくれたのでなんだか安心しました。本当にあの支離滅裂だった『リボルバー』のガイさんが世界中の老若男女を笑わせる百点満点のエンターテイメントをこしらえるようになるとはねえ… というかいい加減『リボルバー』のことは忘れてあげないと。

まあこれは元のアニメ版がよくできているから、というのもあるんでしょうね。クライマックスで絶体絶命のピンチをアラジンが切り抜ける方法には大変感心しました。また生身の人間が暑そうなところで華やかな衣装で歌ったり踊ったりしてると、中東の話なのにインド映画のように見えたりもして。貧しいアラジンが機転と勇気でなりあがっていくストーリーもマサラ・ムービーっぽかったですね。

『アラジン』は現在『トイストーリー4』『天気の子』に肉薄されてはいますが、2019年の日本公開作品で初めての100億円代を突破しました。たいしたもんです。続けざまにディズニーが放つ超実写『ライオン・キング』も先日観て来たので近いうちレビューします。

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August 20, 2019

傷だらけの… 新海誠 『天気の子』

『君の名は。』でジブリに匹敵するほどのブレイクを成し遂げた鬼才・新海誠。言うまでもありませんけど、その待望の新作が現在公開中であります。『天気の子』、紹介いたします。

わけあって離島から東京へ家出してきた少年・帆高。ネカフェ難民として苦しいくらしを続けた後、彼は怪しげなフリーライター須賀に拾われ、怪しげな都市伝説を調査する仕事を見つける。なんとか仕事も板についてきたころ、帆高はチンピラにつきまとわれていた少女陽菜と出会う。彼女はなんと帆高が取材の際うわさを聞いた「空を晴れさせる能力を持つ少女」だった。

前作のあまりの大ヒットぶりに置いてかれた元からのファンが、「おれたちの新海が帰ってきた!」と喜んでいる本作品。たしかに『君の名は。』よりも直情的というか、作家性が強く表れた映画となっていました。でもやっぱりこの二作で新海監督は大きく変わったと思うんですよね(自分はまだ未鑑賞作品もあるなんちゃって新海ファンですが)。以下にその理由を述べます。

以前の新海作品の主人公はすかした感じのかっこつけた少年がほとんどで、心の中はともかく表面上はエッチなことなど全く考えてないようでした。が、帆高くんと瀧くんは普通におっぱいに興味があるようです。そのことを指摘されて真っ赤になって否定するシーンもあったり。こんなにかっこ悪い姿を以前の新海作品の主人公が見せることはなかったように思います。

もうひとつは「ムー」です。まさか二作続けて新海さんがこの雑誌をキーアイテムとして用いて来ようとは夢にも思いませんでした。胡散臭さの点では東スポに匹敵する「ムー」(すいません)が恋愛ものの小道具として用いられた例は、わたしは他には『ぼくの地球を守って』しか知りません。ちなみに監督は地方の建設会社の御曹司で「ムー」の愛読者だったそうなので、キャラ的には『君の名は。』のテッシーに近いようです。

さらにもう一点ありますが、それは後に回します。

『天気の子』ではこの作品独自の要素も幾つかあります。新海作品といえばキラキラピカピカしたビジュアルが特徴ですが、本作品ではそれよりむしろ薄暗くドバドバ降り続く雨のシーンが多い。それでもかびくさい感じはせず、清潔感・透明感にあふれているのが彼らしいですけど。

あと貧乏描写もこれまでには観られなかった点です。前作でがっぽがっぽ稼いだはずなのに、なぜこれほどまでにジャンクなご飯描写が真にせまっているのでしょう。「貧乏」といえば、実は自分がこの映画にとりわけ感心をひかれたのは、懐かしの名テレビドラマ『傷だらけの天使』のオマージュなのでは?と思うところが幾つかあったからでした。まず『傷だらけ~』の舞台であった代々木会館がこちらでも重要な建物として登場します。また、主人公たちは無垢な人たちのために奮闘し、貧乏でありながら安い食べ物をおいしそうに食べ、明るい未来が全く見えない中でも懸命あがきつづける、そういう姿も通じるものがあります。さらに『傷だらけ~』のオサムと同じく『天気の子』の須賀には離れて暮らす幼い子供がいたり。明確なソースはございませんが、監督はけっこう意識してたのでは、と思い込んでおります。

『天気の子』は不思議な偶然というか、まさに今の時期にぴたりと合わせて公開されたような作品でもあります。ずっと長雨が続いてて、ようやく晴れたその日が公開日だったり、先の代々木会館が封切りからまもなくしてとうとう取り壊されたり。またこの映画の本当に直前に京都アニメーションの悲しい事件がありました。図らずもこの映画はその悲劇に対する鎮魂歌であり、亡くなった方たちの遺志を継ぐ決意表明となってしまった気がしてなりません。それなりに映画を観続けておりますが、こんなにも「時」に呼ばれてきたような例はちょっと記憶にありません。

以下は結末に触れてるのでご了承ください。

 

 

 

 

『君の名は。』以降で変わったな、と思った三つ目の点は、「ハッピーエンドに対するこだわり」です。前作も今作も物悲しい結末にしようと思えばいくらでもできたはずなのに、強引にベタなハッピーエンドに落とし込んでいます。でもそんな優しい新海監督の方が自分は好きです。ヒロインが『秒速5センチメートル』とおなじ「きっと大丈夫」というセリフをいうところに一抹の不安を感じないでもないですが…(あちらは全然大丈夫じゃなかったので…)

というわけで『天気の子』は予報通り現在大ヒット公開中です。前作には及ばないでしょうけど、おそらく本年度最高の売上を記録するのでは。今の時期は『トイストーリー4』『ライオンキング』『ワンピース』などもあり、ここ3年くらいで最も映画館に人があつまっている気がします。そんな盛況が嬉しいわたくしでございました。

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August 13, 2019

コリアン歴史ヒストリア キム・ヨンファ 『神と共に 第2章 因と縁』

「韓国で『新感染』を越える歴代2位の大ヒット!」と評判の大作映画、一か月前になりますが無事後編を見て来たのでもう遅い気もしますが紹介します。『神と共に 第2章 因と縁』。第1章の感想はこちら

殉職した消防士ジャホンを冥界で弁護した際、いろいろ逸脱があったため咎められることとなったカンニムら3人の使者。その違反を帳消しにするため、カンニムたちはやはり地上で違反を犯している精霊ソンジュ神を成敗するよう命じられる。だがソンジュ神と関わったことがきっかけで、使者のヘウォンメクとドクチュンは消されていた自分たちの過去と対峙することに…

韓国映画で感心するのはどんなにヒットしても安易に続編を作らないこと。もしかしたらあるのかもしれないですけど自分は知りません(『グエムル2』はいまも待ってますが…)。この『神と共に 因と縁』は2作目ではございますが、後付ではなく最初から1作目と対になるよう作られています。前後編というより、表と裏、演繹と帰納の関係。そんな構成が面白うございました。

『罪と罰』では一応脇役だった3人の使者ですが、今回は彼ら自身が主人公となり、千年前の文字通りの「因縁」が語られます。そんだけ前の時系列なのでお話の半分は高麗時代の歴史劇となります。韓国の歴史ものというとテレビドラマではわんさかありますが、映画だとそんなに紹介されてなかったような(これまたわたしが知らんだけか?)。そんな珍しい題材がこれまた興をかきたてられました。

一方でそれなりに仲良くやってる感じだった3人の絆が、秘密が明かされるごとにどんどん危機を迎えていくという流れだったのでその辺は見ていて辛うございました。本当に「こういう風にならなきゃいいな」という方向に予想通りに話が進んでいきます。妖怪や裁判でハラハラさせられた1作目とはかなりスリルの質が違いました…

以後、ほぼラストまでネタバレで。

 

まあ第1章のムードからして、悲劇では終わらんだろうという安心感もありましたけどね(笑)。千年前の死ぬ前のこととはいえ、何も言わずにあんなひどいことをしたカンニムを笑ってゆるすヘウォンメクとドクチュンにさめざめと泣かされました。『罪と罰』ではお母さんがらみの人情話で「はい泣いて! さあ泣いて!」という感じで逆に醒めましたが、ひねくれ者としてはこちらの方が涙腺のツボに来ました。

調べたら監督さんの作品では韓国版『クールランニング』とも言うべき『国家代表!?』(2009)を以前に観ておりました。こちらは『神と共に』よりお笑いに振り切れたドタバタスポーツ喜劇となっています。やっぱりお母さんネタで泣かせるようなところはありましたが。あとこの人、ゴリラが野球をやる『ミスターGO!』なんてのも撮ってますね… 題材の選びようがいちいち奇抜でございます。

『神と共に』二部作はさすがに大体公開が終了しましたが、日本でも根強いファンを獲得したようでポツポツとリバイバル上映が行われております。『バーフバリ』もそうですが配給のTWINさんはこういう映画を見つけてくるのが上手ですね。これからもアジアの傑作の発掘・紹介を期待してます。

 

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